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ヒールハイはすぐ目の前

 ヴィルモントにとってはようやくヒールハイへと戻ってきたムメイ達だが、街の入り口で丁度四大貴族の一人クラウスの弟であるクライスと遭遇した。

 背中からはやたらと長い銃が見えている。


「私の出迎えがクライスだけとはどういう事だ? それにお前は私の代理をしていると聞いたが今の時間はまだ仕事中だろう。何故外に出ようとしている」


 クライスに気づくとヴィルモントはシスから降り、それまで何処か嬉しそうに見えた表情が明らかに不機嫌なものに変わった。

 しかしクライスはそんな変化を特に気にした様子はない。


「何だ今日戻ってくるとは知らなかった。こういう事も細かく報告してくると思っていたんだが……この短い期間で随分いい加減な性格になったんだな」

「すぐ戻ると言っていただろう。それともこんな短期間すら耐えきれずに何もかも放り出して逃げ出そうとしたのか? 随分と柔く脆くなったものだ」


 気にした様子はなかったが明らかに挑発しているのが分かり、それに対しヴィルモントもしっかり言い返すとお互い睨んではいないが視線を合わせたまま何も言わなくなり周りの気温が一気に下がった。


「……。ワイバーンの群れが近づいているという情報が入った。様子を聞くに餌を求めて移動しているようで、このままだとヒールハイを餌場にする可能性があるから移動経路をずらしに行くところだ」

「ワイバーンの種類は」

「詳しくはまだ分からないがレッサー種なのは確かだ。多少の反撃はあるだろうが何匹か撃ち落とせば追い払えるだろう」

「成程それでブレイザーR93、狙撃銃か」


 少ししてクライスから話し出し、空気は冷たいままだが会話は普通に続いている。


「ならば丁度いい。シス、お前もワイバーン討伐に行ってこい」

「えっ、いや」

「Aランクに上がれる機会があるというのにそれをわざわざ見逃す理由は何処にもない。私が提示した最低ラインであるBランクになったからと満足して何もしないなどそんな怠慢は許さん、向上心は常に持て」

「ドラゴン」

「餌を求めて移動しているのならばドラゴンは近くにいない。しかもレッサー種ならばむしろドラゴンからは離れる、お前が恐れる必要も心配もない」

「でも」

「これは命令だ。従魔契約はヒールハイまでと言ったがまだ着いていない上に契約は延長されている、お前に拒否権はないからさっさと行ってこい」


 明らかに行きたくなさそうなシスだが、言い切る前に理由を察せられ尽く潰された挙句トドメと言える主従契約の命令に何も言えなくなった。


「ゼビウス……」

「うーん、こればっかりは俺から何か言うことは出来ないなあ。まあドラゴンが来ないのは確かだから行くだけ行ってみたらいいんじゃない。倒せなくてもそこの人間が始末するみたいだし見学気分で行ってきたらいい」


 最後の頼みでもあるゼビウスも苦笑いを浮かべる事しか出来ず、シスは項垂れた。


「聞いたな。どうせお前の事だ、数匹どころか全匹撃ち落とすだろうがシスにも一匹はまわせ。当然報告はしてもらうが火薬の臭いを纏わりついた状態で城に入られたら厄介だ、ワイバーン討伐が終わったならそのまま帰れ、こちらに来るな。シスもだ。火薬の臭いが完全になくなるまで報告には来るな」

「……ワイバーン討伐後は疲れているだろうから休んでから来いとは、いつもの回りくどい皮肉がない上に珍しく俺の腕も素直に認めているぞ。慣れない長旅で弱っているお前の方が休むべきじゃないか?」

「〜〜っ! 五月蝿い!! お前のような性根の捩れた腹黒に代理をさせていた間不手際がないか今から調べる為に私は忙しくなるんだ! 休んでいる暇などあるか!!」

「あっ、ヴィルモント!」


 図星だったのかヴィルモントは怒りを露わにして叫ぶとそのまま街へ入って行き、その後をダルマが慌てて追いかけて行った。


「ヴィルモントはどうしたんだ?」

「ん? 特に何もない。ただ自分の弱っている所を見られたり知られるのをとにかく嫌がるからああやって強がっているだけだ。あとは昼夜逆転生活と日光の下で行動して弱っている状態で大嫌いな火薬の匂いを嗅いで体調を崩したくないのもある。否定も言い返す事もせず大人しく城に戻る辺り結構弱っているみたいだが、大声を出せるなら一応大丈夫だろう。なら俺達は気にせず行こうか」

「あ、ああ」

 

 ヴィルモントの事をそこまで分かっておきながらわざわざ詳細を言う辺り、本当に腹黒で性根も捻れているらしい。


「シスー。シスならワイバーンは簡単だから大丈夫とは思うけど、中には毒持ちもいるから食う事はするなよ」

「……」

「シス? 返事は」

「……わ、分かった」

「……。クライスと言ったか、シスが毒の有無に関わらずワイバーンを食ったら俺に報告しろ」

「ああ、約束しよう」


 ただゼビウスからの頼みは本能的に何かを察したのか、そこは素直に承諾した。


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