沸点は低め、ドルドラが関わると更に低い
ムメイはヴィルモントに連れられ街のすぐ近くにある森を訪れていた。
「シスなら冒険者ギルドに行くって言ってたから探す必要はないんじゃない?」
「無関係の者ならまだしもシスは私の従者だ。主として従者の行動をきちんと把握している必要が……いや、シスには従者として主である私に行き先を報告する義務がある。ムメイ、お前もだ。奴隷のお前は何処かへ向かう時は私に行き先を告げる義務があり私にはお前達の行動を知る権利がある」
「権利って……まあ、いいか」
『権利』と『義務』という言葉をわざわざ使っているあたり、先程トクメに言い負かされたのが相当悔しかったらしい。
その事を突っ込んでヴィルモントを拗ねさせても後が大変なので、ムメイは何も言わない事にした。
「あっ、ムメイ!?」
そうこうしていると少し離れた森の中から本来の姿になっているシスが現れ、ムメイに気づくと駆け足で近づいてきた。
「シス。って、何だか傷だらけだけど何があったの?」
大きな傷はないようだが、毛並みはボサボサであちこちに擦り傷が出来ている。
「ちょっと依頼で……っ!?」
心配そうに怪我の確認をしているムメイに事情を話そうとしたシスだが、ヴィルモントにいきなり頭から水をかけられ言葉を止めた。
しかし水のかかった場所から傷口が治っていっている。
「あっ、ハイポーションか。驚いた……ヴィルモント?」
先程も微妙に機嫌が悪そうなヴィルモントだったが今は何故か怒りを滲ませた無表情に変わっており、そのまま無言で空になった瓶を自空間にしまい「ふー」と深い息をついた。
「……最初、ドルドラがハイポーションを渡してきた時は私の事を頻繁に怪我をする迂闊な者だと下に見ていると思っていたのだが……成程、周りの事を考えての事なら納得だ。私ではなく周りの者が心配だからリーダーである私に回復を任せると、だが……そんな気遣いが出来るのなら最初からやれ!!」
最初は静かに話していたがいきなりの大声にシスは思わず背筋をただし、ムメイは呆れた顔をしている。
「奴はいつもそうだ!! こちらの神経を逆撫でするような事ばかりするくせにこういう周りへの配慮など私が欠けている部分を補うような事ばかりする!! これがドルドラでさえなければ私は素直に事実を受け入れ反省するが! ドルドラ!! この事態の元凶であるドルドラに!! 教えられるなど!! こういった事を最初から自力で気づけなかった私自身も許せん!! あああああ!!」
一人で怒り狂うヴィルモントにシスはどうするべきか困っていると、ムメイが頭を撫でてきた。
「ムメイ……?」
「ヴィルモントの事ちょっと分かってきたかも。とりあえずこっちに当たる事はしないし、一通り怒ったら落ち着くと思うから放って……そっとしときましょう。それより他に傷はない? ハイポーションが乾く前に傷治しておかないとそれはそれで薬を無駄にするなってヴィルモントは怒ると思うし、ゼビウスも心配するわよ」
「あ、ああ……っ! いや、自分でやるから大丈夫だ!」
頭を撫でる感触に思わずそのまま甘えかけたシスだが、すぐに我にかえると慌てて人の姿になり残っているハイポーションを傷口まで塗り広げていった。