複雑な子供心
「お姉さん、お姉さん。こっちこっち」
ムメイが街を歩いていると後ろから声をかけられ、聞き覚えのある声に振り向けばやはりアルフォイだった。
いつぞやと同じように裏路地から笑顔で手を振るその姿は怪しさしかないが、アルフォイならば問題ないとムメイは素直にそちらへ向かった。
「昨日ぶりね、ところで何でまた裏路地に?」
「ちょっと遊んでたんだけど暇になっちゃって。ムメイちゃん今暇? もし良かったら付き合ってほしいな、何かやりたい事とか行きたい所ない?」
「……普通そこはアルフォイが行きたい所とかに連れて行くとかじゃないの?」
「んー、行きたい所が思いつかないんだよ。何もせず適当にぶらついて時間過ごすのも勿体無いし、それなら誰かの行きたい所に案内しつつお喋りする方が俺は楽しい。相手も迷う心配ないしでお互い得しかないと思うんだけど、どう? 俺を助けると思って、俺に王都を案内させてくれませんか?」
胸に手を当て丁寧に頭を下げてからアルフォイは軽く顔を上げてウインクをした。
「ふふっ。まあ私も暇だし、王都は初めてだから頼めるかしら」
「勿論。それじゃ改めてよろしくね」
アルフォイの差し出した手をムメイは握り返した。
「それじゃ、早速どこ行きたい?」
「とりあえずアルフォイはどんな所を何処まで案内できるの」
「そうだなー……王都から半径五キロまでなら」
「……半径? 王都の外も案内出来るの」
「あ、勿論王都内もバッチリだよ。今日開いている露店とその商品から貴族御用達のお店まで幅広く、それこそ何処でも」
「貴族御用達……アルフォイって貴族?」
「ううん、平民。でもこの秘密のカードを持っているから貴族御用達のお店に入れて買い物まで出来ちゃう」
そう言ってアルフォイが口笛を吹きそうなほど上機嫌で見せたのは紹介状。
紹介人の欄にはアルバートの名前が記入されている。
「アルバートって確か王の側にいた……騎士団長だっけ。知り合いなんだ」
「ん、まあ、一応? ほらほらそんな事より、何処行きたい?」
アルバートの名前を出した瞬間顔をしかめたアルフォイだが、すぐに先程と同じ笑顔に変わった。
その様子からあまり探られたくないのだろうとムメイは深い詮索を止め、何処に行きたいか考え始めた。
一瞬、何処でもと言っていたので本当にそうなのか際どいところを攻めてアルフォイを試してみようかと思うも、すぐにその考えは振り払う。
「(この考えはトクメに近い……アルフォイは何もしていない無害な人間だからダメ。親子なのは確かだし似ていると言われるのはうれ……いいんだけど、思考や行動が同じになるのは何か嫌。ここはちゃんと自分の行きたい所を言って案内されよう)」
ムメイはうん、と一度頷くと綺麗な笑顔を浮かべた。
「まずは食事かしら。朝食は済ませているから何か軽いもの、もしくは飲み物だけでもいいんだけど……お勧めの所に連れて行ってくれる?」
「もっちろん、任せて!」
そんなムメイに対し、アルフォイも輝かんばかりの笑顔で応えた。