トクメとアルバート
笑いが治まり再び人の姿へとなったトクメは現在真剣な顔でアルバートに詰め寄っていた。
「いいか、私の娘に何か危害を加えようとしている者がいれば速やかに排除するように。娘には危害自体を気づかれんようにな」
どうやらムメイを置いて行くのが不安でアルバートに身辺警護を頼んでいるらしい。
ムメイも近くにいるのだが、結界を張っているのかこちらの会話に気づく様子はなくシスと楽しそうに話をしている。
「危険な場所に向かおうとした時はさりげなく安全な方へ誘導、むしろ危険な場所に向かわせるな。だがムメイが決めた事を曲げるような事は認めない。あと護衛としてムメイにつくのは避けろ、さりげなく行動を共にするかもしくは存在自体に気づかれないか。私は後者を望む」
無茶な事しか言わないトクメだが、アルバートは特に何か言うことなく一つ一つ丁寧にメモを取っている。
しかし、ふと手を止めるとトクメの方へと顔を向けた。
「何だ」
「いえ、ムメイさんの事を本当に心配されているのだと。ムメイさんの行動を束縛せず自由を尊重されている……よい親を持ててムメイさんは幸せ者ですね」
「!! そうだ、その通りだ! 私はムメイが大事で常に心配している! だが自由を奪いたいわけではない! お前は話の分かる人間だな、信用出来そうだ」
アルバートの言葉にトクメは分かりやすく機嫌が良くなり、大きく何度も頷いた。
「ありがとうございます。ただ今仰られていた護衛の条件ですが……流石に存在に気づかれないようにというのは無理です。ただ、怪しまれる事なく行動を共にして護衛も出来る者ならうってつけの者がおりますのでそれでもよろしいでしょうか」
「そちらの方が安全性が増すというのなら構わん。最優先はムメイの安全だ」
「ありがとうございます。それとムメイさんがもし危ない場所に行きかけた場合、さりげなく安全な場所へ誘導するのではなく何故危険なのかを説明してからムメイさんの判断に任せるという形にしてもいいでしょうか。その方がムメイさんの意思を尊重出来ますし、護衛がいれば危険から遠ざける事は可能です」
「いいだろう、ムメイの護衛に関してはお前に任せる。その代わりもしムメイに何かあった場合は分かっているだろうな」
「はい。万が一の場合は責任を取る覚悟は出来ていますし、その万が一を起こさないよう全力を尽くします」
トクメとアルバートの話がまとまり、その様子を見ていたインネレは何か思いついたのか瞳を輝かせながら王の方へと顔を向けた。
「王!」
「却下だ。そなたならば力を使えば離れている間の余の行動を知れるだろう? それより早く行かなくてよいのか、こうしている間にオークが再び村を襲ったらどうする。余もそなたと離れるのは寂しいが、今村人達は不安と恐怖で怯えている。早く安心させたい」
「ああ、ああ……そうですね、私もです! すぐにオークを退治して戻ってきますので!」
「いや、話を聞くにオークも村を作っているだろうしそれの完全消去、村の被害状況の把握と修復。最低でも三日はかかるだろうが、余に早く会いたいからという私情で村人達を蔑ろにする事は許さん。この意味、そなたなら分かるな」
王の鋭い視線にインネレは表情を戻し背筋を正すと片膝をつき、しっかりと頭を下げた。
「はい、王だけでなくあの村の者達全員が満足いく結果を出してみせます」
「うむ。……オークならば大丈夫だろうが、気をつけるように。余はそなたも大事に思っている」
「〜〜っ!! っはい!! では皆様早く行きましょう、私の転移魔法で移動に時間はかかりせんからっ」
「インネレ、余の内臓を戻し忘れているぞ。いくら大切な存在とはいえ約束を破り余の罰を避けるのならば、私情を捨てそなたを国外にまで追放して半年は入国を禁止する覚悟は出来ている」
「ですがその前に王と交換している内臓を戻しますので少々お待ちください」
コロコロと表情を変え慌ただしくしながらもインネレ達はようやくオーク討伐へと出発し、城内は一瞬にして静かになった。
「……見事な飴と鞭ですね。流石は王と言うべきでしょうか」
「いや、インネレの場合は余の言動全て飴にしかならん。飴と鞭のバランスよりどうすれば鞭になるかの方が苦労する」
そう言ってふー、と深く息を吐く王にヴィルモントは心の中で同情した。