終わらない言い合い
「あ、そういえばダルマは何処にいるんだ?」
相変わらずちまちま食べているヴィルモントだったが、ようやく残り少なくなった時にシスがダルマの事を思い出し話しかけた。
常にヴィルモントの側にいたがるダルマにしては珍しく、食事の間も今も現れる気配は全くない。
「別に放っておいて構わんだろう、街を出れば嫌でも現れる。現れずともどうせヒールハイに戻ってくる」
ヴィルモントは心底嫌そうな顔を浮かべながらまた一つグリーンピースを口に運んだ時、遠くから大きな笑い声が聞こえてきた。
「ふははははー!! もっとじゃ! もっと持ってまいれ! 妾はまだまだ飲めるぞえ!!」
「この声って……」
「ダルマね。ワインを飲んでいるみたいだけど……」
「まさか無料配布しているワインを飲みまくっているのか?」
「うっ……。あの銀髪の姉ちゃん何者だ? もう一時間以上は飲み続けてんぞ」
「ああ、最初は普通の飲み比べだったのに、今じゃあの姉ちゃんを酔い潰す為に誰かが挑んでは潰れ、挑んでは潰れ……こうして歩いて酔い覚ましたら俺はもっかい挑戦するぜ! 絶対あいつを潰してみせる!」
「俺もだ! 今じゃこの飲み比べ大会は参加者対あの姉ちゃんみたいになってるもんな。他の挑戦者が戦って時間を稼いでくれている間に早く酔い覚ましてもう一戦だ!」
「…………」
「…………」
流石にダルマを探すべきだと立ち上がろうとしていたヴィルモントだが、通りすがりの男達が話している内容から状況を把握するとそのまま座り直し無言で食事を再開させた。
ただ先程とは違いグリーンピースを食べる速度は早く、複数粒を口に運んでいる。
「……母親の迎えに行かんのか?」
「私の母は私を産んですぐに陽を浴び灰となって散っている、ここにはいない。それよりあれはお前の同族ではないのか? 早く引き取りに行くがいい」
「同族だからというだけで引き取りに行く理由にはならん。こういう時は血縁者が妥当だろう」
「お前の事は聞いている。元は一体の怪物というならば血縁者も同然、引き取るに充分たり得る理由だろう」
「仮に血縁者として考えるならば、私とダルマは兄妹であり二親等になる。対してお前は親子であり一親等、親等の数字が小さいお前の方が引き取る理由は強い」
「親子ではあるが実際には先祖とその子孫ぐらい血縁は離れている。親等ならばそちらの方が圧倒的に近い」
「仮にと言っただろう、実際に兄妹というわけではない。それならば先祖と子孫とはいえ確かな血筋のあるお前の方が近い」
終わりの見えない静かな言い合いに食事を終えたシスがどうするべきか困っていると軽く肩をつつかれ、振り向くとムメイが側に立っていた。
「ムメイ?」
「このまま終わりを待つより私達が迎えに行った方が早いと思うから行かない?」
「……そうだな、そうするか」
ムメイが席を立ちシスに話しかけているにも関わらず、トクメは全く気づかず今もヴィルモントとどちらがダルマを迎えに行くかで言い合いを続けている。
「……子供達だけで動くのは危ないし俺も行くよ。俺、ダルマとは本当に一切全く関係ないけど、終わりのない言い合い聞かされるよりかはまだマシ」
「ヴィルモントは置いて行って大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。だって貴族共の狙いは俺とトクメが持ってる酒だから。三位なのに無視されてるヴィルモントは全然大丈夫だし、何ならトクメいるから危険は全部そっちに行く。さ、分かったら早くダルマ回収しに行くか。嫌な事はさっさと終わらせるに限る」
「あ、ああ……」
「本当にあくまでマシなのね……」
しかし飲み比べ大会はダルマのおかげで大いに盛り上がっており、それを中断するような行為を酔っ払った観客や選手が許す筈もなく、そのままゼビウスは強制参加させられ酔い潰された。
「ゼ、ゼビウス、大丈夫か?」
「何あいつ……何であんな強いの……トクメと同じ怪物なら匂いだけで潰れろよ……」
「水飲む? 少しはマシになると思うんだけど……」
「ありがとムメイちゃん……ああ、これなら言い合い聞いとくかヴィルモントに行かせりゃよかった……」