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奴隷契約成立

「あの、貴方が持っているお酒について話があるのですがお時間よろしいでしょうか」

「俺はお前に話はないし、時間もよくないから断る」


 酒の品評会ではヴィルモントの予想通りゼビウスが一位になった。

 この祭りのメインである品評会も終わり、多少賑やかさも落ち着いた現在ムメイ達は少し遅めの昼食をテラス席で取っていたのだが、先程からゼビウスの酒目当てで話しかける者がひっきりなしに訪れていた。


 ゼビウスはその度応えてはいるが、話をするつもりはないらしく素っ気なく追い返している。

 話しかけてきた方は多分に名残惜しさを見せてはいるが特に食い下がる事もなく、渋々と下がっていくが自分には話を聞いてくれる筈という考えがあるのか人が絶える事はない。


「あの、少しよろしいですか? そちらの銀髪の……あ、包帯を巻かれている方です」


 そんな中、今まで話しかけてきた者達の中でも一際身なりのいい男性がゼビウスではなくトクメに話しかけてきた。


「あなたが品評会に提出されたロマネコンティも素晴らしかったのですが、他にも世界に十本しかないワインを複数お持ちだとか……。是非その一本を売っていただけませんか? お代は白金貨一万枚でいかがでしょう」


 白金貨一万枚もあれば一生豪遊しても余るほどの金額ではあるがトクメは勿論、誰も特に反応を返さずそのまま食事を進めている。


「あ、あの……? 一万枚ですよ、しかも白金貨。もしかしてまだ足りませんか?」


 周りが何の反応も返さないので男がもう一度問いかけると、トクメは大変面倒くさそうな表情を浮かべマカロニチーズを食べていた手を止めた。

 

「……逆に問おう。仮にお前がそのワインを持っていたとして、その額で売ろうと思うのか?」

「え、それ、は……」

「それが答えだ。分かったのならば早く去れ、お前の顔は覚えた」

「なっ! くっ……そう、ですね、分かりました」


 どう見ても納得していないが、一応引き下がった相手の背中をトクメは口に軽く手を当てながら眺めていた。


「んー、流石一位。群がる数が多い、まだまだ来るぞ」

「明らかに食事をしている私の邪魔をしておきながら、何故話を聞くだけでなく提案を受け入れてもらえると考えられるのか。私には理解出来ん」

「お前がやる場合は純粋に相手の邪魔をしたいだけだもんな」


 食事を邪魔されたわりにトクメもゼビウスも特に不快を感じている様子はなく、何処か楽しげに話している。

 しかしその向かいでヴィルモントは明らかに不機嫌な表情を浮かべ、無言でフィッシュアンドチップスをフォークで食べていた。


「ヴィ、ヴィルモント? 何かあったのか?」

「……本来ならばああいった輩は私に声をかけ、媚びをうり、機嫌を取ろうと必死になっていた筈なのに……! 私は視界に入るどころか違う方という扱い! 何故こんな辱めを受けなければいけないのだ……!」


 本気で悔しがっているヴィルモントにシスはどうする事も出来ずにいると、ムメイが無言で小皿に取り分けたローストされた羊肉を差し出した。


「え?」

「私達が何を言っても機嫌が直る事はないから、気にせず食事を続けていた方がいいわよ」

「……それなら……」

「何をそんな拗ねてんだよ。選考外じゃなくてちゃんと三位になれたんだからもっと喜べばいいのに」


 シスが小皿を受け取ると、ヴィルモントの様子に気づいたゼビウスが話しかけてきた。


 ゼビウスの言う通り品評会はヴィルモントのワインが主催者の酒を抑え三位に入賞出来たのだが、ヴィルモントの機嫌が悪い理由はそこではない。


「喜べるか! 確かに審査員が腐っていなかったのは予想外だった為三位になれたが、この場合はかえって逆効果だ。三位とはいえ入賞しているのに私の存在を無視されて、どうして喜べる。これならば審査員が腐っていて選考外になっていた方がまだマシだ。あと私は拗ねていない」


 言いたい事を言えて満足したのか、ヴィルモントは先程より落ち着いた動作でフィッシュアンドチップスのグリーンピースを器用にフォークで一粒ずつ刺しては口に運んでいる。


「……それ、嫌がらせ?」

「時間をかけて食べる事の何が悪い。それとも長居する事に都合が悪い何かがあるのか?」

「チッ、やっぱわざとか」

「ゼビウス?」

「あー……まあ、何だ。俺もトクメも酒を売るつもりが微塵もないってのが相手にも伝わっただろうから、向こうが強硬手段を使う前に街を出ようかなって。ほら、俺自身ならともかくシスに何かあったら嫌じゃん?」

「強硬手段?」


 それでもまだ理解出来ていないシスにヴィルモントが説明した。


「欲しいものを手に入れるのに最も簡単な手段は、殺して奪う事だ。奪う側に金と身分があるなら尚更な、現状で最も危ないのはムメイだ」

「え、何で私?」


 それまでほとんど話に加わらず、羊肉を挟んだピタパンを食べていたムメイが意外そうな声を上げた。


「トクメが堂々とお前の為なら幻のワインの栓を開ける事に躊躇いはないと言っていただろう。殺して奪うのが簡単とは言ったが、人質を取り脅迫して目的の物を手に入れるというのも比較的楽な方法だ。特にお前は永久奴隷、街中で攫われたところで誰も何も騒がない」

「そんな心配は必要ない。ムメイは常に私と共に行動していればいいだけの事だ。私ならば未然に阻止できる、安心して側にいるがいい」

「誰のせいでこうなったか分かって言ってるの?」


 割と危険な状況であるにも関わらず、ヴィルモントは相変わらずグリーンピースを一粒ずつ丁寧に食べている。


「なあヴィルモント、もっと早く食べる事は出来ないか? 街を出たいんだが……」

「そう焦らずとも奴らが行動を起こせば待っているのは没落のみ、むしろ起きるまで私は滞在したい」

「えっ」

「ゼビウス達に声をかけてきた者はいずれも身分はあるが私より下だ。つまり、奴らが何かした場合私は正当な理由でもって相手の身分を剥奪したり街や国から追放したりと色々出来る。しかしムメイに何かあっても私が行動を起こす理由がないな……よし、ならばムメイは私の奴隷という事にしよう。これならば私が制裁を下すのに十分な理由になる」

「それで安全になるなら私はいいわよ」

「契約成立だな」


 すんなりと奴隷契約を受け入れたムメイにトクメが食事の手を止め食いついた。


「何故そうなる! 私の側にいればいいだけの話ではないか! 父親である私よりヴィルモントの奴隷になる方を選ぶ理由がどこにある!」

「信用性」

「そりゃお前のせいで狙われるはめになったからそうなるよな」


 即座に返された答えに何も言い返せなくなったトクメにゼビウスが追い討ちをかけた。


「しかし奴隷……奴隷……」

「そんなに嫌ならお前がムメイちゃんと奴隷契約結べばよかったじゃん」

「何処の世界に自分の娘を奴隷にする父親がいる。もしいたとしたならば、それはもう親ではなくただの他人だ」

「……お前本当、たまにだけどまともな事口にするよな。まあ、ヴィルモントの口調から察するにムメイちゃんを心配しての事もあるみたいだし、悪いようにはしないからいいんじゃない」


 恐らくヴィルモントは品評会の事でトクメへの八つ当たりも含めての奴隷契約だろうが、ちゃんとムメイの事も守るだろうとシスを従魔にしてからの行動を思い出しそれなりにヴィルモントの事を理解し始めたゼビウスだった。


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