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ギリギリ仲は悪くない

  受付ではそれなりの人が集まっていたが、参加登録は時間がかからないのかすぐにヴィルモントの番が来た。


 実際登録も出された紙に名前を書き、品評会に出す酒を提出して終わった。


「これで終わり? 結構大きな祭りなのに案外あっさりしているのね」

「こういったものに大小は関係ない。関係あるのは主催者とその関係者だ」

「へえ?」


 ムメイは興味深そうに笑みを浮かべているが、シスは分からない様子で首を傾げている。


「この品評会は誰でも参加出来るとは言われているが、一位は主催者の権力とコネで決められている。つまり公平も何もないただの出来レースという事だ」

「? 一位が決まっているのに参加者を集めて意味はあるのか?」

「勿論ある。表向きは公明正大としておき多くの酒を集め、その中で一番美味いと評されれば誰もが興味を引きその酒を求め大量に売れるだろう。自社の酒ならば売上を伸ばせ、違ったとしてもその酒を理由にコネを作れて注目も浴びれると利しかない」

「あれ、シス? ああ、ヴィルモントが参加するのか」


 ヴィルモントがシスへ説明していると、そこにトクメとゼビウスが現れた。


 トクメとゼビウスもこの品評会に参加するらしく、酒と思わしきボトルを持っている。


「ゼビウス!? 身体はもう大丈夫なのか!?」

「ん、シスのおかげでもう大丈夫だよ、ありがとう。今はもう完全に治って寝てるだけで暇だったし、丁度今日は祭りって聞いたから参加しようかなって。登録してくるからちょっと待っててな」


 そのまま登録しているのを見ていたシス達だが、トクメの出したロマネコンティにムメイとヴィルモントの表情が変わった。


 ムメイは呆れたようなどこか引いているような顔をしているが、ヴィルモントは明らかに不機嫌な表情になっている。


「ん、どうしたムメイ。もしかしてあのロマネコンティが飲みたいのか。あれは祭り用にもう登録してしまったので取り戻す事はできんが、まだ複数ある。しかしどうせならば世界で十本しかない幻のワインはどうだ? 私は七本しか持っていないが、他でもないムメイの為ならば栓を開ける事に躊躇いはない。そうだ、折角なので酒の持ち込みが可能の店で食事でもするか。私は酒に弱いので共に飲む事はできんが、同じ物を飲まなければいけない事はない。そうと決まれば早速店へ向かうとしよう」

「行かないしいらない」


 即答しているにも関わらず、相変わらず話は通じず一方的に話しまくるトクメにムメイの機嫌が悪くなる一方で、何も話していない筈のヴィルモントの機嫌もどんどん悪くなっていた。


「ヴィルモント……何かあったのか?」

「ああ、あった。大いにあった。いいかシス、私は一番が好きだ、注目されるのもだ。周りからの羨望の眼差しや賞賛はいくらあっても困る事はない」

「あ、ああ……?」


 あまり理解は出来ていないが、ヴィルモントの雰囲気に圧倒されシスはとりあえずといった感じで相槌を打った。


「だが今回のこの出来レースで私は一位を取るつもりはない、いくら一番が好きとはいえ妥協ぐらいはする。ただ出るからには何かしら結果を残したい。今回は審査員や内部の人間の感情をかき混ぜようと、私はここの主催者よりも権力のある審査員が贔屓にしているワインの中でも最高品質のものを提出した。世界で十本とまでは言わんが、一般的に入手はまず無理とされるものだ。結果は変わらずとも、私のワインで審査員達の葛藤と議論を招き発表の時間が延長する程度には混乱出来る筈だった」


 そこまで話してからヴィルモントはギロリと受付を睨みつけた。


「だがロマネコンティが出てくるのならば話は変わる。ただでさえ勝てんというのに、更に当たり年のを出されては葛藤も議論も! 何もするまでもなく結果が出てしまう! しかもだ! ゼビウスの出した酒は何処からどう見てもそこらにある安酒! しかし腐っても神である奴の出す酒がただの酒である筈がない!」


 だんだん感情が抑えきらなくなってきたのか髪色こそ変わっていないが、ヴィルモントの声が大きくなっていっている。


 シスは完全に圧倒され最早頷く事すら出来ない。


「おそらくロマネコンティとゼビウスの酒は主催者のものより上位、一位と二位を取るだろう。ならば三位は? 主催者が入賞出来ないのはこの品評会からしてあり得ない。つまり私は選考外! 私が! 誰からも注目を浴びる事なくその他大勢に埋もれるという屈辱! せめて私が登録する前にトクメとゼビウスが現れれば良かったものを……!」

「うんうん、残念だったなー。ロマネコンティと俺の酒が出てきたら忖度とかそんなんもんぶっ飛んで、内部の人間の感情を乱す事すら出来ないもんなー。たとえ乱れたとしてもそれは俺とトクメの酒であって、お前のじゃないし」


 最高潮に機嫌が悪くなったのを見計らったかのように、ゼビウスがヴィルモントの頭に手を置きポンポンと軽く叩いた。


 完全に煽っているその言動に、ヴィルモントの顔から表情が消えた。


 ヴィルモントの表情の変化に気づかないまま、もしくは敢えて放置しているのかゼビウスは今も長々と話しているトクメの方へ向かう為背を向けた。


「ーーに知らせよ。今、久遠くおんときは終わる」


 その背中に向けてヴィルモントが詠唱を始め、それと同時に辺り一面に冷気が漂い始める。


「ゼビウス!」

「氷雪の中にて永遠とわに眠れ、安らかに」


 焦ったシスが名前を呼ぶも詠唱は終わり、ゼビウスの立っている地面の真下から巨大な氷の棘が現れた。

 しかしそれは一瞬で砕け、音もなく氷は全て消え去った。


 そして氷がなくなった先には杖を構えているゼビウスがいた。


 どうやらヴィルモントの魔法に気づいて打ち消したらしい。


「良かった、気づいてたのか……。あ、いや、ゼビウス、ヴィルモントも悪気というか敵意があって攻撃したわけじゃない、ような……えっと……」


 ゼビウスは敵と判断した相手には一切の情け容赦をかけない。

 挑発してきたのはゼビウスだが、明らかな攻撃にヴィルモントが返り討ちにあってもおかしくない。


「大丈夫、分かってるから」


 ゼビウスが無事な事に安心しつつ、何とかヴィルモントも庇おうとあたふたしているシスを落ち着かせるようにゼビウスは笑いかけた。


「無詠唱で魔法を使えるヴィルモントがわざわざ詠唱、しかもあんだけ長いのを唱えている時点で本気じゃないってな。俺が煽ってきたから倒す事は出来なくともせめて攻撃ぐらいはしたかったってところか?」

「…………」

「お、無言って事は当たりか。じゃあついでに、シスに父親である俺が怪我するところを見せない為にわざとかわせるようにしたってのも加えとくか。いやー、お前分かりやすくていいわー。見た目はトクメに似ているのに、あいつと違って割と短気で感情に任せて素直に行動するから先が簡単に読めるし相手してて楽しいわー」


 シスですら分かる程の挑発にどんどん苛立ちを募らせるヴィルモントだが、今度は特に何かする事なくひたすら睨み、ゼビウスは本当に楽しそうな笑みを浮かべている。


「あ、えーと……。えー……」


 そんな中、シスはゼビウスとヴィルモントに挟まれ、どうすればいいのか分からず途方に暮れていた。


******


「……ねえ、ゼビウス何かおかしくない?」

「奴は大体いつもおかしいから大丈夫だ。特に今は病み上がりの反動もあって更におかしくなっている。いつもならば私がゼビウスの憂さ晴らしに付き合わされているのだが……今回はヴィルモントが標的か、非常に楽が出来ていい」

「…………」


 ゼビウスの発言を聞いている限りでは、普段から溜めているトクメへの鬱憤を容姿が似ているヴィルモントで発散させているように見えるのだが、言ったところでまた疲れる会話になるだけなのでムメイはとりあえずトクメは無視して、シスがこれ以上巻き込まれないようシスの元へ向かった。


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