親組と冒険者
「また魔物!?」
「しかも人を食うのか! まだ間に合うか!?」
あれから少し進み、トクメ達はムメイ達がレイとジンに会った部屋に到着するとそこで例の冒険者達に遭遇した。
冒険者側からすればゼビウスはトクメとダルマに襲われ捕食されかけているように見えるのかもしれないが、間違われたトクメ達からすればいい迷惑である。
「うるっせえな、寝てんだから静かにしろよ」
そして休息の邪魔をされ不機嫌になったゼビウスは冒険者達に向かって怒りの電撃を放った。
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「えーと、つまり、あんたは休む為にその魔物に乗っていただけで襲われたわけじゃなかったと」
「す、すまないてっきり食われちまうのかと思って勘違いしちまった」
「ご、ごめんなさい……」
現在冒険者達は自分達が誤解していた事をダルマから説明を受け、怒りのゼビウスの前に正座しひたすら謝罪していた。
勘違いした事もだが、この場所で見るからに体調が万全でないのにも関わらず、あれほどの魔法を使えるゼビウスに圧倒的力量の差を感じひたすら許しを乞うている。
「大丈夫か?」
「休憩真っ只中ならともかく、眠ろうとしていた所だったから余計きつい」
「本当に悪かった! 許してくれ! この通りだ!」
「ごめんなさい!」
「そうだ! あんた達もこの先に進むんだろう? 俺達もなんだ! 一緒に行かないか!? この先には危険な魔物もいるから俺達も役に立てるぜ!?」
「却下じゃ。そなたらと共に行動するのも、このまま何もせず行くわけにもいかん」
「え……?」
冒険者の提案にゼビウスが何か言う前にダルマが答えた。
表情、というより顔がないので分かりにくいが声色からしてかなり怒っているらしい。
「な、何で……あんた達は知らないだろうがここには蠢くもの以上に厄介な魔物がいるんだぞ……?」
「その魔物とは吸血鬼のことじゃろう、そしてケルベロスも狙っておるな。このまま妾達に吸血鬼とケルベロスを戦わせ、上手くいけばケルベロスを従魔に、間違えて仕留めてしまっても死体だけでも高く売れると考えておる。更に奴隷も手に入ると、永久奴隷の女ならば……む、これ以上は流石の妾も口にしとうないの」
「敵だな」
「ああ、敵だ」
ダルマの言葉にゼビウスが素早く動き、一番近くにいた女性の背後を取るとそのまま首に左腕を通し固定した。
「ま、待って! 私はそんな事考えてない! そいつの言いがかりよ!」
「やっぱり魔物は魔物か! そんな嘘を簡単に信じるあんたも同類だ!」
「言いがかりじゃと? 妾はそなたらの心を読んだだけじゃ、だから三つ頭のオルトロスをケルベロスと言っている。そして今は焦っておる、ゼビウスに勝てるかどうか。三人がかりで右腕を狙えばいけるとも右端の男は考えておるじゃろう」
「……!!」
「そういうわけだ。俺だけならともかく、息子に害を与えようと考えている奴をそのまま放置するわけにはいかない」
「ぐっ……!」
利き手ではないが腕で首を締められ苦しむ女性に男達も剣を構えるが、下手に動けば逆にやられると分かっているのか何も出来ずにいる。
「トクメ、お前今薬出せる?」
「一つだけなら。どれがいい」
「効果は遅くてもいいからとにかく一番強いやつ」
「なっ、何をする気なの……!?」
だんだん体力を消耗してきたのか息が荒くなってきたゼビウスと『薬』という言葉に何か勘違いしなのか女性の顔が赤くなった。
「丁度いいのがある。効果が出るのに五分程かかるが永遠に続く」
その言葉に何故か男達から唾を飲む音が聞こえた。
ダルマが身を引き軽く距離を取る辺り、相当下らない事を考えているようだ。
「く、薬って……あんたら一体何をする気なんだ……」
「そもそも薬って何の薬なんだ……?」
「「脱毛剤」」
その瞬間女性が暴れ出し首にまわされていたゼビウスの左腕に噛みつくが、特に力が緩む事なく右手で床に押さえつけられた。
残りの男性も一目散に逃げ出そうとするも、ダルマに締め上げられ身動きが取れなくなっている。
女性は今も必死でもがいているが逃げ出せる気配はなく、そうこうしている内にいつの間にか人へと姿を変えたトクメが近づいてきていた。
脱毛剤と思わしき瓶を片手に。
「危害を加えたわけではないから命だけは助けてやろう。この脱毛剤も全部ではなく頭頂部だけだ、それなら安心だろう。勿論そこの男達もだ」
「俺につけんなよ」
「勿論」
男達も当然暴れるが、二人がかりでもダルマの締めつけから逃れるどころか緩む事もない。
そしてトクメは女性の頭頂部に向けてゆっくりと瓶を傾けた。
******
部屋を出てからは普通に歩いていたゼビウスだったが、少ししてから急に止まった。
「……これ以上は無理……ちょっと、休ませて……」
そのまま返事を待たずにゼビウスは壁にもたれるとそのままズルズルと床へと座り込んでしまった。
「相当体力を消耗したようじゃな、まあ当然か。のうトクメ、先程のようにそなたが……」
「……私も限界だ……」
「え? いや待ちなんし! 毒から回復しきっていないゼビウスはともかく、トクメは人に姿を変え自空間から物を取り出しただけじゃろう!? 何故ゼビウス以上に消耗しておる!」
「言っただろう、ここは魔力消耗が激しいだけでなく体力も使うと……分かったら少し静かにしていろ、お前の声はやたら響いて聞いているだけで体力を消耗する」
「ええ……」
ゼビウス以上に消耗しているらしいトクメに流石のダルマも困惑するしかなかった。