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レイとジン

「……助かった、礼を言うぞ」


 部屋に入ってきた二人の子供、レイとジンは先程の冒険者達と違い吸血鬼を恐れたりするどころか空腹と知るや自分の血を飲ませ、ヴィルモントはようやく飢えを満たし髪と目の色もムメイ達が見慣れた銀と茶色に戻った。


「いえ、困った人を放ってはおけませんから」

「血はもういいんですか? あまり減った感じはしませんが……」


 レイが噛まれた腕の場所をさすりながら尋ねた。

 いくら二人で分けたとはいえ吸血鬼の吸血量から考えれば立ちくらみぐらいは起こしてもおかしくはない。

 しかしそういった症状が一切ないのが不思議で仕方ないらしい。


「完全な空腹だったわけではないからな。血の匂いに誘発された空腹だっただけだ、なので少量で十分事足りる」

「それなら良かったです」

「ところで、二人は何でここに来たの? その首輪の下にある模様はともかく……それ、爆弾でしょう」


 ムメイが軽く自分の首を人差し指でトンと軽く叩いた。

 レイとジンの首には確かに黒い首輪に留め具にしては少し大きい四角い飾りのような物ーーおそらくこれが爆弾なのだろうーーがつけられているが、その下からチラリと見えているのはムメイと同じ永久奴隷の証である模様。


「あ。えっと……」

「その歳で永久奴隷は考えにくい。罪子つみこか」


 ヴィルモントの言葉にレイとジンの肩がビクリと跳ね上がった。


「罪子? 奴隷じゃないのか?」

「奴隷ではあるが普通のとは少し違う。罪子とは、女の奴隷が恩赦を求めて産んだ子の事だ」


 奴隷は組織や奴隷制を認めている国にもよるが、基本休みなく労働を強いられ、満足な食事も与えられない。


 しかし例外として奴隷が子を孕んだ場合、産むまでは労働が免除され食事内容も改善される。

 そして奴隷の種類によっては刑期が短くなったりする。


 それらを求めて子供を産む奴隷は多い。


 そうして産まれてきた子供は生まれてきた事自体が罪とされ、例外なく永久奴隷となってしまう。


「ああ、ならその爆弾も大体察しがつくわ。逃走防止ね」

「……はい。あっ、でも今回は目的の物を持たずにここから出た場合にしか爆発しませんから大丈夫です!」

「それにもし爆発しても僕達の首が飛ぶぐらいの威力しかないので貴方達が怪我する事はありません!」

「……別にそんな心配はしていないんだけど……まあ、いいか」

「そうだな。それよりその目的の物とはなんだ?」


 ムメイの心配に少しズレた答えを返すジンとレイだが、ヴィルモントは特に気にした様子もなく話を続ける。


「え?」

「私は受けた仕打ちは忘れんが、受けた恩も忘れん。お前達とは二度と会う事もないだろうから、今この恩を返しておかんとお前達に借りを作ったままになるだろう。それは私のプライドが許さん」

「え、ええ……?」

「どういう感情なの……」


 ヴィルモントの言いたい事は分かるが表情が一致していない。

 何故か機嫌が悪そうな、下手すると因縁のある敵と対峙しているような顔をしている。


 その差にレイとジンは戸惑い、ムメイは呆れている。


「ほらどうした、遠慮するな。お前達は私の恩人なのだからさっさと言え」

「は、はい! その、蠢くものの毒液、を取って来るよう、言われてまして……」

「何だ、それならばそこのムメイが蠢くものの毒を受け解毒をする為に血を流した場所がある。血が混じってはいるが毒液は毒液、礼にはなるだろう。紙とペンはあるか? その場所までの道も書いてやろう」

「え? あ、ありがとうございます!」

「あ、これにお願いしますっ」


 目的のものが既にあると分かった瞬間、ヴィルモントの不機嫌そうだった表情はなくなり口調も一気に上機嫌なものに変わった。

 レイとジンは目的を達成した喜びの方が強いらしく特に気にした様子はなく、ムメイも先程と変わらず呆れた表情のままでいる。


 シスだけはその変わりようにまだ戸惑っていた。


「機嫌変わりすぎじゃない?」

「恩を返すというのは存外難しいのだぞ。相手が真に望んでいる事でないとただのお節介どころか迷惑にしかならん。その点今回は相手の望みがはっきりしているだけでなく労力を使わずして目的が果たせた、こんなにも楽な恩返しはあるまい。しかしそれだけに惜しいな、私が空腹でさえなければ逆に貸しを作ってやれたと言うのに……」

「……。ねえ、結構時間が経っているし血も大分混ざっているけどいいの?」

「はい! 毒の成分だけを抽出する事が出来るので大丈夫です。時間についても、二十四時間以内なら毒の成分はなくならないので問題ありません」

「…………」


 一瞬、ヴィルモントの手が止まったが特に何か言う事もなく再びペンを走らせた。


「あ。なあ、確かその部屋って穴から降りる前の場所だったよな。魔法も使いにくいのに行けるのか?」

「はい、こういう時用に色々道具を持ってきているんです」

「それに僕達の履いている靴は特別製で、走っても音が出ない造りになっているんで蠢くものは反応しません。ここは蠢くもの以外に魔物はいませんから魔法が使えなくても特に危なくないです」


 今度はムメイがピクリと眉を動かしヴィルモントの方へ視線をやったが、ヴィルモントはわざと目を合わせようとしないのか既に書き終わった地図を眺めている。



「……よし。ほら、私直筆の地図だ、落とすなよ。それと、私はお前達について微塵も興味はないがそうでない者達がこの近くにいる。話す時はもう少し考える事だな」

「え?」

「この部屋を出て左には行かないようにね。冒険者がいるんだけど、首輪の下の模様に気づいたらこき使おうとしてくるだろうし、その靴の事知ったら絶対奪おうとするから」


 ムメイの視線を無視していたが、一応気にはしていたのかあまりにも不用心に自分達の事を話すレイとジンにヴィルモントなりの注意だった。


「は、はい! あの、ありがとうございました!」


 ヴィルモントから地図を受け取るとレイとジンは丁寧に頭を下げて部屋から出て行った。


 しばらくは二人が去った後を眺めていたが、完全に二人がいなくなってからヴィルモントはぼそりと呟いた。


「……隠したいのかそうでないのかどちらだ。むしろアレはわざとだと言った方が納得出来るぞ」

「? どういう事だ?」

「この建物について詳しすぎるという事だ。構造は元より、ここが今どんな状態なのかを知っているだけでなくここに生息している魔物についても知っていた。恐らく、いや確実にこの研究所の関係者……というよりその研究所で働かせられている罪子だな」

「肝心な事は話さないようにしていたみたいだけど、それ以外はボロボロ話しているし……あの冒険者達に見つからなければいいんだけど」


 助けられたという事もあり二人を純粋に心配するムメイ達だった。

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