子供組
「ムメイっ、ムメイ!」
「ん……シス?」
名前を呼ばれゆっくり目を開けると、心配そうなシスの顔がすぐ目の前にあった。
「よかった、気がついた……怪我はないか?」
「けが?」
まだ上手く働かない頭を何とか動かし周りを見回すと部屋の中の床で寝ていたみたいだが、辺りにはガレキが散らばっている。
「えーと……何があったの?」
「う……えっと、どうも歩いていた道の下が空洞になっていたみたいで……俺が踏み抜いて……その、俺のせいで何かよく分からない遺跡の中に落ちたみたいだ……」
「シスのせい、とは少し違うな」
「ヴィルモント」
はぐれたと思っていたヴィルモントが特に慌てた様子もなく部屋へと入ってきた。
どうやら近くを探索に行っていたらしい。
「軽く見てきたがここは放棄された研究施設のようだ、残された魔道具を見るに数十年は経っている。どうやらこの施設を捨てる為に地下に空洞を作り放り込んだみたいだな。という事は時が経てばいずれ誰かが踏み抜いていた、それがたまたまお前だったと言う事だ責める程の事ではない。それにお前は落ちる際に私とムメイが傷を負わんよう庇っただろう、従者としての自覚が芽生えてきた証だ誇るがいい」
「? そ、そうなの、か……?」
「……もしかしてシスを慰めてくれている?」
早口で一気に捲し立てられるように話されシスは圧倒されているみたいだが、しっかり聞き取れていたムメイが小声で尋ねてみればヴィルモントは嫌そうに顔を顰めた。
「事実を述べているだけだ、他意はない。それよりも、今優先すべきは現在地の把握ではないのか」
「え?」
「見取り図などが見つからず、簡易案内板すらもない為ここが最上階なのか地上なのか、出口が何処にあるのかも分からん」
「それって、つまり……迷子?」
「研究施設という事は労働場ともいえる。責任者ならばここに働きに来た者達が迷わぬよう、またすぐに位置が把握出来るようにするのが義務だというのに最低限の配慮すら全くできていないとは……この施設も責任者もたかがしれるな」
「あ、うん」
どう考えても迷子なのだが、ヴィルモントはそれを頑なに認めようとしていない。
こういう場合は話していても埒があかないとムメイは早々に諦めた。
「……とりあえずどうしよう……」
「ムメイ、その、転移魔法は使えないか?」
「うーん、使えなくはないけど、落ちてきた高さが分からないと壁とか土の中に埋まっちゃうから……」
上を見れば天井に大きな穴が空いているが、相当高い所から落ちたのか日の光が全く見えず把握しようがない。
「このままここに留まっていても事態は解決しない。とりあえず下へ行くぞ」
「動くのには賛成だけど何で下?」
「相当な高さから落ちたようだからな、それならば下っていった方が最上階を目指すよりも早く最下層に着く。こういう建物は構造上それぞれの階層に移動出来る装置がある筈だ、それを見つければ最悪起動しなくとも現在の大体の位置は把握できる」
とりあえず目的は出来たとムメイは立ち上がり、服の裾を払っているとシスが近づいてきた。
「ムメイ、顔にも汚れ、がっ」
そのまま顔を近づけてきたところで急にシスの頭がガクッと下がった。
「教育的指導」
ヴィルモントのチョップが綺麗に決まったようだった。
「何もやっていないだろう……」
「やったから指導している。元の姿ならともかく、人の姿をしている時は人らしく振る舞え。ムメイもだ、シスをオルトロスではなく人、むしろ男として扱え。何かあったら容赦なく叩け、ゼビウスから許可は得ている」
「えっ」
「いつの間に……?」