運が無いのか悪いのか
「シス? 何してんの?」
ゼビウスがそこを訪れた時、シスは地べたを勢いよくゴロゴロと転がりまくっていた。
「ゼビウス……! さっきから何度も試しているんだが元の姿に戻れないんだ……。もしかして呪いか病気なんじゃ……」
真剣な様子で話すシスにゼビウスは表情が顔に出ないよう気をつけながら目線を合わす為にしゃがみ込み、真ん中の頭を優しく撫でた。
「シス、お前はオルトロスだから今の姿が元の姿だ、何の問題もない」
「え、あれ? ……いつの間に戻ってたんだ……?」
ゼビウスに言われようやく気づいたのか自分の前脚を上げて肉球を確認し、シスは安心したように息を吐いた。
どうやら本気で気づいていなかったらしい。
「それよりここで何かあった? でっかい魔力を感じたから気になって来たんだけど、あれシスじゃないよな」
「あ、ああ。さっきまでムメイがいたんだ、少し混乱していたけどもう落ち着いたみたいでクラウスの所に戻るって言っていた」
「ムメイちゃんが混乱? しかも何でクラウス」
「俺も詳しくは知らない。フローラがどうとか言っていたが……」
「……フローラ……」
シスはムメイとフローラの事は全く知らない。
にも関わらずフローラの名前が出たという事は、考えられる事は一つ。
「やっぱ俺の嫌な予感は的中してたんじゃん、あいつの勘はやっぱ当てになんねえ」
「ゼビウス?」
「ん、何でもない。それよりムメイちゃんクラウスの所に行くって言ったんだよな、なら北か。ちょっと心配だし俺もクラウスの所行くか、シスもおいで」
「ん、んん……行きたいけど今度は人の姿になれない……何でだ?」
「ああ、強い喜びとか怒りといった激情に駆られると上手く姿を変えられなくなるだけだから大丈夫、時間が経って落ち着いたらまた出来るようになるよ。見た感じ嫌な事があったわけじゃなさそうだし……嬉しい事でもあった?」
ムメイがここにいてトクメは宿にいるので多分それだけでシスは嬉しかったのだろうが、それだけで感情が振り切ったとは考えにくい。
実際何かあったらしく、シスはキョロキョロと視線をあちこち彷徨わせている。
「えっと、まあ、その……あっ。なあゼビウス、このまま街に入ると騒ぎになると思うから俺はここで待っていた方がいいんじゃないか」
「俺が側にいるから大丈夫だよ、何があったかもう聞かないから。ほら、走った走った」
分かりやす過ぎる誤魔化しだが、悪い事じゃないならいいかとゼビウスは詳しく聞くのを止めた。
それよりも今はフローラと会ったムメイがまた暴走するかもしれない方が心配だった。
もし街中で暴走すれば大量の死者が出て無駄な仕事が増える。
とにかく少しでも早く現状を確認する為走っていたゼビウスだが、ふと我に返ったのかある事に気づいた。
「(これ、普通なら父親のトクメが行くべきだよな)」
しかしトクメは現在ムメイの姉である時喰い虫の側につき離れる事が出来ない。
どちらかの方が大事というワケではないだけに、今回ばかりはトクメは悪くない。
あえて悪いと言うならば。
「相変わらず運が悪い奴め……」
「ゼビウス?」
「何でもない、急ごう」