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自由の精霊

前に載せていた「異種族混合放浪記」の改稿版です。

 現在フツルダ国は存続の危機に瀕していた。


 度重なる敵国や魔族からの侵攻、略奪。


 追い詰められた王は強力な助けを求め、異世界から勇者を呼び出す決意をした。


 今、城の地下では宮廷魔導師達が集まり異世界の勇者を呼び出す儀式を行なっている。

 そこには王と妃もおり、騎士達が護衛の為に部屋中を囲むようにグルリと壁に並び微動だにしない。


 その中の一人、マルスも黙ったままジッと異世界の勇者が現れるのを今か今かと見つめていた。


「異世界の勇者よ! 今こそ我らの声に応えたまえ!」

「勇者よ!」


 魔導師達の声が重なり、床に描かれた魔法陣から光が放ち始めた時だった。


「ああ、ここだったのね。随分と面白い事をしているのは」


 突然後ろから女性の声が聞こえ、マルスは反射的に剣を抜き構えた。

 他の騎士も一斉に剣を抜き声の方を向いたが、そこには誰もいない。


 恐る恐る視線を上にやると、そこには二十代ぐらいの黒髪の女が空中で足を組み座っているように浮いていた。


「はーい、ご機嫌いかが?」


 女は軽く挨拶をするように手を上げるが返事をするものは誰もいない。


「お前は誰だ。もしかして異世界から来た勇者なのか?」


 剣を構えたままマルスは女に尋ねる。


「まさか。私は元からこの世界に住んでいるし、ここには中々禍々しい事をしているから見に来ただけ」

「貴様! 神聖な儀式を侮辱するとは何事だ! 叩っ斬ってやる!!」


 女の発言に怒った一人の騎士が斬りかかろうとすると、他の騎士達もつられたのか一斉に斬りかかった。


 マルスは一歩乗り遅れ思わず数歩下がって目を瞑ったが、ガキィン!と響いた固い音にすぐ目を開けた。


「乱暴者め」


 騎士達に斬りかかられた女は誰一人の剣も受けておらず、余裕の笑みを浮かべている。

 よく見ると薄紫色の壁が女を守るように包んでおり、騎士は諦めずに力を込めているのかギチギチと音は鳴っているが壊れる気配は一切しない。


「これは……魔力を具現化させたのか!? どれ程の魔力を持っているんだ……」

「心配しなくてもソレをどうこうする気はないから、私は。でも平和が大好きなあの子はどうするかな、それとも正義と規律をこの上なく大事にする子が怒ってやって来る方が先かな」


 笑いながら楽しそうに話す女の後ろでカタカタと音が鳴った。


「おお! ゆ、勇者が来るのだな!」


 マルスが振り返ると魔法陣の周りに置かれていたロウソクの皿が揺れてカタカタと音を立てており、王は勇者が現れると喜びの声を上げているが魔導師達はヒソヒソと話しどこか落ち着きがない。


「ち、違う。召喚ならば魔法陣が光る筈なのに……王様、お逃げください! 何が起きるかこの私でさえ分かりません!」

「おらああああああ!!」


 魔導師達の長がそう叫んだのと魔法陣の描かれた床が壊れ、剣を持った金髪の少女が現れたのは同時だった。


「お前か! この禍々しい呪いで世界の壁に穴を空けようとしている愚か者は!」


 そう言って魔導師の長に剣を向けて睨んでいるのは十二、三歳に見えるボブカットの少女だが、黒髪の女と同じようにフワフワと宙に浮いている。


「な、何なのだ先程から……勇者でないのならお前達は何者なのだ!!」

「問答無用!! 己の私欲の為だけに呪いを行うお前らに交わす言葉など無い!!」

「お下がりください王様! この神聖な儀式を呪いなどと言うのは悪魔である証拠! これ以上悪魔と関わっていては災いを呼び寄せられます!」

「あーあ、言っちゃった」

「え?」


 魔導師の言葉に黒髪の女はクスクスと笑っているが、金髪の少女はブルブルと肩を震わせている。


「正義大好き規律至上の子を悪魔と間違えるだなんて……ただでさえあの子は短気で怒りやすいのに」

「ど、どうなるんだ?」

「私をよりにもよってあの悪魔だなんて……! 許さない!!」


 マルスが黒髪の女に聞いた瞬間、辺りは真っ白な光に包まれた。


 ******


「相変わらず魔力の扱いは下手ね」


 黒髪の女の声にマルスはうっすらと目を開け、周りの景色に驚愕した。


 城の地下にいたはずが、今は辺り一面ガレキの山しかなく城は何処にも見当たらない。

 マルス以外の騎士達も同じように驚いて周りを見まわしたり呆然と突っ立っていたりしている。


「あっ! お前! いつからここにいた!」

「そっちが来る少し前から。気づいていなかったの?」

「私より先に来ていたなら何であの魔法陣を壊さなかったの!」

「来たのはそんなに大差なかったのだからいいじゃない。それに、私はアレに触れないの」


 金髪の少女は黒髪の女と知り合いなのか、キャンキャンと何か喚いていたがマルスはそれどころではない。


「王様! 王様! 何処におられるのですか!」


 周りの騎士達はいるのに、王と儀式をしていた魔導師達の姿が一人も見えない。

 騎士達も王の姿がない事に気づいたのかあちこちでガレキの山を掘り返したりしている。


「王とあの魔導師達なら消滅したわ、当然の結果よ。己の欲だけで世界に穴を空けようとして、しかも召喚した相手を呪いで縛るなんてそんな外道はこの私が許さない!」


 金髪の少女は自慢気にそう言うと、そのまま何処かへと飛び去ってしまった。


「な、何者だったんだ……アレは」

「精霊」


 まだ残っていた黒髪の女がマルスの疑問に答えた。


「あの子は正義を願い想う感情から生まれたからか、やたら正義や規律にこだわっているのよ。元になる感情によって性格ってある程度固まるみたい」

「正義……王様は、ただこの国の為に勇者を召喚しようとしただけなのに……」

「うんうん、贅沢三昧な生活を存続する為に異世界の者を呼び出して奴隷みたいに扱おうというのは、あの子にとって正義とは言えなかったみたい」

「……俺は、これから一体どうすれば……」

「自由に生きればいいじゃない」


 膝から崩れ落ちるマルスだったが、女の言葉に力なくそちらを見上げた。


「いなくなった王に変わらず忠誠を誓い城を再建するもよし、他国の王に忠誠を誓うもよし。後は……国に関係ない冒険者や盗賊になったり?」

「自由に……俺のやりたいこと……」


 一度光を失ったマルスの瞳が再び力強くなっていく。


「そうだ……俺には目指している憧れの人がいる。その人のようになりたくて俺は騎士になったんだ。決めた、俺は……あれ?」


 決意表明しようと勢いよくマルスが立ち上がった時には、黒髪の女の姿はどこにもなかった。


「自由。自由ねえ……」


 黒髪の女は既に遥か上空へ留まり、自分の魔力を固めて作った椅子に座りマルスの事を眺めていた。


「確固たる自分の意思があって、自由に生き方を決められるなんて。ほーんと、羨ましい限りで」


 黒髪の女は自由を望む心から生まれた精霊。


 しかしそれに反し彼女自身に自由というものは、ない。

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