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第4話 さようなら



山賊たちが貯めてあった金のうち2、3割を勝手にもってきたわけだが、それでも当分働かなくてもいい額は手に入っている。

そのためこのままゴロゴロと時間が過ぎるのを自堕落に待っててもいいが、それでは面白くない。どうせならもっと楽しいことをしたいし、なんならギャンブルだってやりたい派のアレイヤである。


だがそれを許してくれないのがこの国の法律であり、彼の見た目の幼さだ。

15歳という年齢は法律上で未成年である上、通常なら学園に入る入らないのお話が勃発しているところだ。

だからこんな宿でゴロゴロしているような年齢ではない。


けれどそんな当たり前はとうの昔に捨てている。


『これからどうする?』


「どうするってそりゃ……なんかはするよ。でもそれは未来の俺に全部任せる。とりあえず今は寝ることにするよ」


ベッドの中に潜り込んだアレイヤはぬくぬくの奥に入っていく。

そんな彼の姿を眺めながらリアーナは少しだけ視線を落とした。


『学校……未練はないの? 教会に売られて神託者として部屋に閉じ込められて、もっと普通の生き方があったんじゃないかって後悔してたんじゃないの?』


「………………」


『私はアレイヤがいればどこでもいい。だから人間嫌いな私に気を使わなくても行きたいところに行っていいんだよ』


「……今更お前を置いていけるかよ」



アレイヤという人間は生まれながらに見えた。

人には見えないものが見え、人に見えるものが見えなかった。


彼の眼は微弱な魔力の流れ、大気に存在する精霊、世界そのものの座標すら見ることができ、そのうえ神や魔の者という人間より上位や下位の存在すらも認識することができた。


だが精霊というのは人間とは形が違う、上位の存在になるに連れ人と似たような形をしていくのは『最高神が自らを形作ったのが人形こそが人間』とされているからなのだろう。

だが下級の精霊たちは歪な姿をしており、それを精霊だと教えてくれる存在も彼にはいなかった。


最初の内は動物か何かだと思って近づいたこともあった。


だがアレイヤが彼らを見ることができると知った精霊たちは


『今まで人間にされてきた悪意をアレイヤという視認できる者』と認識したことにより、彼を責め立てる。

人間にされてきた悪意を、森を焼き払った知らない誰かの罪を咎められる。


自分のせいではないのに、他人の悪意の尻拭いをさせられる。

そして彼らの罵倒を聞き続け、陰から現れる魔の者たちの声を聞き続け、アレイヤの精神は幼いながらも限界だった。


常に彼しかいないという理由で知らない罪を責め立てられ、見かけるたびに逃げ出すことで逃れていた。だがそんな『虚空を見つめて逃げ出す』ような気味の悪い少年を村の人間は追い払う。


そして両親でさえも「気持ち悪い」といって拒絶する。


常に石を投げつけられる生活、そんな気味の悪いアレイヤに同年代の友達ができるはずもなく常に独り。全ての人から後ろ指を刺され続け、 ずっと一人で生きてきたところで出会ったのがリアーナだった。


彼女に出会い、神を知った。

そしてアレイヤが見えていた者たちがなんなのかを知った。

ついでに人間の愚かさも知った。


見えないものが見える少年はある取引の下、教会に売られることになってもリアーナはついてきた。


神託を受けるという行為をアレイヤは知らない。

他の人は礼拝堂で祈るように時間を潰すと聞くが、アレイヤにはすぐ横に神がいるわけだし、わざわざ祈る必要もない。

それにリアーナと話す内容は適当な世間話や下らない会話だ。

神託なんて言葉は盛りすぎている。


そして結局、アレイヤは追い出される。


理由は単純な職務怠慢。


彼らの思う神託を受けるやり方すら知らないアレイヤには神託など降りてこない、天から神のお告げという予知が届く事はなく、ただ目の前の神から話を聞くことしかできない。

長い時間拘束されて、自由を奪われた挙句捨てられる。


そんな時間もあれば希望を捨てるには十分だ。


事実上、今のアレイヤに目的はない。

ただ教会を追い出され、これからどうにかして生きようとしかなく、金を得たら働く気すら失せている。

夢も希望もなければ、ただ生きるというだけの生存本能。


人間が産んだ悪意が普通の少年を蝕んだ。


それをリアーナは不憫に思うと同時に、今度は自分が縛っているのだとも理解している。


アレイヤにとって彼女は幼少期の頃からの精神的な支え、そして教会にいる時もずっと共にいた親にも捨てられた彼にとって家族のようなもの、そう簡単に切り捨てる事はできないし、彼は切り捨てるような選択肢が取れるほど大人でもない。

おそらくリアーナがいる限り、アレイヤは友人を作らない。

共にいてくれた大事な人を不快にさせてまで自分のわがままを通そうとしないのがアレイヤだ。


それは長い間共にいた姉のような存在の彼女が一番よく理解している。


世界で一番愛している彼を自由にするには、


彼が本当にやりたいことを見つけるためには、


アレイヤがもう一度当たり前の生活に戻るためには、


手段など一つしかないと分かっているのに躊躇する。


『ごめんねアレイヤ。でも私は君に幸せになってほしい、いや……君だけは幸せにならなくちゃいけない、だから君を縛りつける私は消えなくちゃいけない』


アレイヤにとって本当の自由。

それは道を示してやることでも、共にいて支えてやることでもない。


彼の届かない一歩に背中を押してやることだ。


『本当ならずっと一緒にいたかったけど、私がいたら君は自由にはならない。だからさようなら、私の愛しい人』


消えるわけではない、いつでもこの世界には戻ってこれる。


だが次に会うのはきっとアレイヤが大人になってから。


彼が本当の意味で自由になってからだ。


そうしてリアーナは元いた場所に戻っていく。

ベッドの上で寝ているアレイヤにそっと触れてから天界へと転移した。






「………………ばかやろう」




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