第三話 お金稼ぎの必勝法
「そっちに薬草あるか?」
『雑草ならあるわよ!』
「じゃあ一旦持ってきてくれ、お前が言う雑草はアテにならん」
冒険者登録を拒絶されてしまったアレイヤ。
誰でもなれるがウリの一つでもあるはずの冒険者を拒絶されれば後は職に困る。
学歴もないアレイヤが何かしらの職につくことができるわけもなく、薬草などの金に変えることのできるモノを森から採取して街に売りに行く、そんな狩人のような事をして日銭を稼いでいた。
「お金があればなぁ、もっと良い宿泊まって美味しい飯を食えるのに」
地面に生えている薬草らしき物を摘んでは背負っているカバンの中に放り投げようとするが、突如としてアレイヤは作業の手を止める。
「……で。それをするからには覚悟あるんだろうな?」
背後から突きつけられている剣に振り返ることなく口を開いた。
「死ぬ覚悟、できてんだろうなってんだよ」
背後から首元に突き付けられている剣を微動だにしないアレイヤに負け惜しみかと剣先を動かすと、
『できてるらしいよ』
いつのまにかそこにいたリアーナによって剣を持っていた男が切り裂かれて絶命する。
「どこのどいつだよコレ。見た感じは山賊っぽいけど」
斬り刻まれて死んだとはいえなんとか人の形を保ってはいる。
服のセンスはチグハグで捕った物をとりあえず来てみたというような感じ、そして山賊の男が持っていた剣に手を伸ばしどんなものかと持ち上げてみるが安物のゴミ。
『襲ってくるとは命知らずなことよ』
「人間にはお前が見えないからな。それよりも山賊は1匹みたら10はいると思えだっけ?」
山賊は馬車を襲い、積み荷を狙う。
こんなボッチの冒険者ですらない人間を狙う理由は無いはずだろうが、アレイヤに剣を突きつけて脅しにかかっていたのを見るに「殺す気はなくあの場所でやるべき事は生け捕り」もしくはここから離れろという命令。
「隠れてる奴ら出てこいよ。そんでお前らの隠している財宝全部貰い受ける」
隠れるという行為自体がアレイヤには通じない。
万物を見通す目を持っている彼に見えないものは存在しない。
潜伏がバレた以上、相手を始末するしかないと理解したのか草木の合間から出てくる山賊。
数はおそらく13はいる。その数全てを相手するのは常人なら不可能だろうが、
「リアーナ。やってくれ」
『楽勝よこんなもん』
■
「アレが盗賊のアジトか」
口封じに殺しにかかってきた盗賊たちを見事フルボッコにしたアレイヤ達、適当に拷問じみた痛めつけを終えると、何も聞いていないのに情報を次から次へとベラベラ口を割ってくれた。
お金が無いアレイヤにとって盗賊のお財布は渡に船。
盗賊から物品を回収した場合、基本的にはその人の物にはならない。
一度冒険者ギルドか衛兵に回収されてから分け前をもらうというシステムをとっているが、そんな物を守る気はさらさら無い。
冒険者になっていない時点で彼らに持っていき分け前をなんて言うわけもないし、衛兵にプレゼントするほど善人でも無い。
大切っぽいものは取らないでおく代わりに大量の金だけはくすね取ってやろうと思い立っては山賊のアジトを森の影から隠れて監視していた。
「洞窟をうまく利用しているタイプのあれだ。一番簡単なのは内部を爆発させることだが、できるか?」
『もちろん』
息巻いているリアーナを野放しにしておくのは色々とアウトだが、彼女が高スペックな女神である事に変わりはない。それに魔法に関しては任せるのが一番楽だ。
そうして彼女が手を洞窟の方角にかざすと内部から強烈な爆破音が鳴り響き、入り口から黒い煙がモクモクと上がっていく。
これで大半の奴らはくたばっているだろうから後は、
「身体強化を頼む」
先ほどの山賊から奪い取った安物の剣を引き抜くと、身体強化の奇跡をもって剣を軽く振ってみる。
「これなら戦えそうだ」
目の前の邪魔な草木を切り落として山賊達の前に姿を表す。
突如として起こった爆発と、それに伴って出てくるアレイヤの姿に何かしらの関連性を疑うのは当然。そして剣をぶら下げて近づいてくる彼を始末するために切り掛かってくる数名の山賊達を、
「邪魔だ」
息一つ乱さぬまま、一瞬の隙に全て斬り伏せる。
『剣の心得は無いんじゃなかったの?』
「心得は無いよ。ただ相手の動きが理解できて、ひとを殺す心得があるだけ。それはお前が一番わかってるだろ」
リアーナの姿は山賊達には見えない。
だから一人でブツブツ喋っているアレイヤに恐怖と同時に敵意を抱いて殺しにかかるが、すでに先の一手を見抜かれているとは知らずに一太刀で斬り伏せられる。
「金目のモン全部出せ! そうすれば命だけは助けてやるよ」
血のついた剣をぶら下げて山賊達に斬りかかるアレイヤの姿は、どっちが悪者か判断できないほど染まっていた。
アジトには行かせまいとして立ち塞がる山賊を斬り捨て、背後から突こうとする敵を回し蹴りにて武器を弾き飛ばし、流れるような斬撃で敵を排除する。
敵の動きを完全把握している彼にのみ許される、流派もクソも無い圧倒的な先読みによるアドバンテージ。
対処法は随時展開され、常に敵の手の内がわかる。
そんな相手に剣をかじった程度の山賊が勝てるわけがないのだ。
湧き出てくる敵を斬り伏せて前に進むアレイヤに大剣を担いだ野蛮人のような大男が立ち塞がる。
「お前が爆発の犯人か?」
「俺じゃ無いとも言い切れない。でも加担したのは俺だよ」
「だったらこっちの商売潰してくれたお礼に……殺してやるよ」
屈強なガタイから繰り出される高速の大剣。
それを防御するのは普通の人間では不可能だろう。圧倒的な体格差とパワーから防御しても衝撃を殺しきれずにダメージを受け、回避しても次の攻撃に間に合うかは不明。
だが回避しなければ死ぬのなら、普通の人間は回避に専念するだろうが、
あいにくとアレイヤは普通では無い。
本人も認める異常者だ。
「なんでお前……!」
正面から大剣を防御して立っている。
それも防御に回した剣は破壊され、大剣を止めているのはアレイヤ自身の腕だ。
「お返しだ。死ぬなよ」
拳を引いたアレイヤの姿に本能的に恐怖する。
今まで格上と当たる事はあった。
だがその誰でさえもこんなデタラメな防御をする事はない。
回避するなり、インパクトの前に封じるなりと、手段は多くある。けれどアレイヤのとったそれは「正面から受け止める」そんなものは正気の沙汰じゃ無い。
放たれる拳を防御しようと剣を引き戻すが、アレイヤによって掴まれているため引き戻すことができない。
そして正面からぶち抜かれて洞窟の奥深くまで吹っ飛んでいく。
「お前の溜め込んだ金は有効活用させてもらうよ。ありがとな」
洞窟内部に叩きつけられた衝撃で気絶している山賊のボスらしき男を見下ろし、山賊から窃盗するという前代未聞の大悪党を成し遂げて見せた。
いっぱいくれたらやる気出る