アンフェアプレイ
昼に彼女が家に来るんで部屋の片づけをしてる。卓袱台に置いた三ツ矢サイダーの罐を睨みつける。罐はゆっくりとへしゃげ、やがて足で潰したかの如く平たくなる。朝飯のカレーパンの袋も、すーと滑らかな線を描いてごみ箱に納まる。俺自身は卓袱台の前に胡坐をかいた儘、殆ど動いていない。――俺は念力が使えるのだ。これに気が付いたのは一月程前だった。
ドアホンが鳴った。彼女の名は鍋島エツ子、黒髪ロングの 22 歳。
「今日はジャーマンポテト作ってきたの。一緒に食べよ。」
鍋島を部屋に連れ、テレビを点けた。スワローズ対カープ戦だった。今の所 0-2 でカープが勝っている。鍋島のジャーマンポテトは相変わらず美味い。
「佐川君、テレビ越しに念力操ったりできるの?」
鍋島は念力のことを知らせている。それどころか、念力で鞄を宙に浮かべる様を披露したこともある。
「さあ、どうだろ。テレビがぶっ壊れたりして。」
そんな冗談を交えつつもテレビの方に目を移した。3 回表ノーアウト、カープの桑澤がスワローズの渋谷に向けて投げた。
俺自身、意識的に桑澤の投げた球に念力を込めた記憶が無い。然し球はバッターボックスの手前で地面に転がったらしく、桑澤が態々拾いに歩いていた。
「今の、佐川君がやったの。」
「……知らねえぞ、俺は。」
テレビの実況と解説も「さっきのは何だったんでしょうか」「何だったんですかねえ」と困惑していた。そうこうしている内に桑澤が次の球を投げようとしている。何だから俺も、敢えて意識的に念力を込めてみた。
球は勢いよくストライクゾーンへ届いた。スワローズ渋谷がバットを振ると、球は真っ直ぐにライトスタンドの奥へ飛んだ。スワローズファンの歓声が響く。監督が桑澤を不調と看做したのか、交替させる。俺も又念力を送って、スワローズにホームランを打たせる。カープファンの悲鳴が聞こえる。
「鍋島、どうも俺の念力はテレビ越しでも伝わるみたいだ。」
「だろうね。こんな感じでスワローズ勝たせてよ。私、ヤクルトにソフールやクロレララーメンを注文するからさ、スワローズが勝ったらヤクルトレディーが負けてくれるの。」
「いいぞ。」
スワローズは立て続けにホームランを打った。俺は鍋島とジャーマンポテトを食べ終える迄に、スワローズに 20 本もホームランを打たせたのである。解説も言葉に詰まっている。一方鍋島はそろそろ飽きてきたようだ。
「明治神宮往きたいな。カープファンの顔が観たい。」
鍋島よ、そんなにカープが憎いか。