表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/63

09

 



 麻倉家は豪邸だったが、こんなことは想定の範囲内だ。驚くに値しない。


「住所は分かった。じゃ、俺はいったん帰宅して、着替えとか参考書を持ってくる」


「あの、戸山さん。わたし、クレープが食べたいです」


 きっと今のは聞き違いだったのだろう。これから地獄の勉強会をしようという女子が、クレープを食べたがるはずがない。

 しかし、聞き違いではなかった。


「クレープというご褒美があれば、週末の勉強会も耐えられると思うんです」


「いや、ご褒美のタイミングがおかしいだろ。なんで勉強会の前に要求するんだ。普通なら小テストで小内に勝ってから──せめて勉強会を乗り越えてからだろ」


 麻倉が弱った様子で言う。


「……終末の勉強会のためのエネルギー補給が必要なんです」


「漢字が違うぞ」


 俺は溜息をついた。ここで無理やり勉強会に持ち込んでも、麻倉のモチベは上がらなさそうだ。モチベと集中力は比例するわけだし。


「仕方ない。クレープだな。だがタピオカでなくていいのか。タピオカ」


「いえタピオカ、不味いですし。あれって、何がいいんですか?」


「知るか」


 ショッピングモール内のクレープ店に行き、そこのフードコートで食べる。甘いのは好きじゃないが、付き合いで俺も食べることになった。


 周囲を見回すと、やたらとカップルが多い。


 俺はカップルに否定的ではないが、ソロだった時より勉強をしなくなるのは統計的に証明されている。

 お互いに励ましながら勉強できます、とか言うのも嘘だ。

 真面目に勉強しているのは、初めの5分だけ。

 どうせ、6分めからは乳繰り合っている。偏見ではない。


「……あの、戸山さん。カップルさんたちを睨まないでください」


「食べたな、行くぞ。勉強会だ──あ、そうだ。その前に着替えを取ってこないと」


「わたしもお供していいですか?」


「いいけど、なんでだ?」


「戸山さんの妹さんにもご挨拶したいですし」


「そうか……まてよ。なんで妹がいると知っている?」


 すると麻倉は、謎のドヤ顔になった。


「戸山さんのような方は、まず妹さんがいらっしゃいますからね。わたしの観察眼が、そう語っていました」


「……」


 悔しい。

 麻倉の発言は、どう考えてもアホだ。

 なんだ、観察眼で妹がいると分かるって。


 しかし、俺に妹がいることを当てられた以上、何もツッコめない。


 というわけで、俺は麻倉を連れて家に帰った。


「あ、お兄ちゃんが彼女さんを連れて来た!」


 14歳になる妹の由香が、玄関で迎える。


「由香、麻倉彩葉さんだ。俺の彼女さんではない」


「ふふん、お兄ちゃん分かってるよ。彼女さんを手籠めにするため、自宅に招いたんだよね」


「失礼だろ、麻倉さんに」


 さらに言えば、理事長の娘さんに。


 二階の自室に入り、さっそく支度を始める。

 

 その作業中、俺は改めて考えた。

 麻倉の学力は、どこまでヤバいのだろうかと。


 俺は階段の降り口から、一階へと声をかける。


「由香、ちょっと部屋に入るぞ」


「下着、漁っちゃダメだよ!」


「はい、はい」


 由香の部屋に入り、中二の数学の問題集を取った。

 

 一階に降りてみると、麻倉と由香は談笑中。

 俺は問題集をリビングのテーブルに置いた。


「2人とも来てくれ。ちょっと同じ問題を解いてみてほしい」


 由香が嫌そうな顔をする。


「えー。宿題もあるのに、別の勉強もするの?」


「少しだけだから頼むよ」


 麻倉に中学生の問題を解かせて、学力を測定してみようと思ったわけだ。

 そのさい、比較対象として現役中学生の由香が役に立つ。


 ちなみに由香の学力は、よくて中の上だ。俺の妹なのに情けない。


 麻倉は中二の問題集を見て、不満そうに言った。


「戸山さん。さすがのわたしも、中学生の問題は解けます」


「昨日、俺が作ったテストは0点だったろ。小学生でも解けるテストだったのに」


「あ、あれはズルいですっ。小学生でも解けると言いつつ、超難問だったじゃないですか。けど、そこにあるのは一般の問題集ですよね」


 麻倉は中二問題集を指さして、自信満々に言った。


「これなら全問正解ですよ~」


 フラグを立てたな、こいつ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あほの子可愛い。続きを楽しみにしてます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ