08
小テストは週明けの月曜日に行われる。今日は金曜日だ。
「いいか、麻倉。小テストは、数学・現国・英語の3教科だ。範囲が狭まられている分、対策はしやすいが──」
しかし、どんな勉強も積み重ねだからなぁ。
とくに数学なんか、小中で習った内容が下地になってくるし。
「とにかく、放課後までに勉強計画を立てておくから」
「わかりました! 戸山さんがいてくれれば、十人並みですよ!」
「十人並み?……ああ、百人力と言いたかったのか」
先行きが不安すぎる。
▽▽▽
授業を受けつつ、同時進行で麻倉の勉強計画を作成。
さっそく昼休みから、家庭教師を開始しよう。
ところが肝心の昼休みに、麻倉が見つからない。
麻倉のクラスにも、学食にも、昼だけ解放している屋上にもいない。
「まさか逃げたか?」
と思ったら、校内放送で麻倉の元気な声が聞こえてきた。
放送部だったのか……よりにもよって今日が当番とは。これで昼休みは潰れてしまった。
気を取り直して、放課後。
麻倉のクラスまで迎えに行く。
すると用のない女子生徒が出てきた。
「げっ、戸山俊哉! こんなところで何しているのよ? さては、アタシが目当てね」
鴨下瑞奈だ。
こいつ、麻倉と同じクラスだったのか。あまりに興味がないので知らなかった。
「お前に用はない」
教室内にいた麻倉も俺に気づき、鞄を持って駆けてきた。
「戸山さん!」
「あら、麻倉さん。戸山俊哉と知り合いなの?」
鴨下瑞奈は、なぜ俺をフルネーム読みするのか。
「はいっ! わたしの家庭教師になってくださいました!」
「ふーん、家庭教師ねぇ。戸山、余裕じゃない。次の期末テストの勝負、忘れてないでしょうね?」
「勝負? お前と勝負する予定なんかあったか?」
「昨日の放課後のことよ! もう忘れちゃったの!?」
「まぁ、どうでもいいことだからな。さ、行くぞ麻倉」
「はぁ。あの鴨下さんが怒りでふるえていますけど?」
「ふるわせておけ。それより、どこで勉強するかな。自習室だと邪魔が入る可能性もあるし──」
今朝の小内のようにな。
「図書館か、カフェか……」
「わたしのお家は、どうでしょうか?」
「……え、麻倉の家に? 親御さんは許してくれるのか?」
「はいっ。実は今日から週明けまで、両親ともいないんです。パパは出張、ママは旅行でして」
「じゃあ麻倉一人で? 危なくないのか?」
女子高生で独り暮らしもいるが、麻倉は理事長の娘だからな。
つまり、金持ちの娘だからな。
「いえ、一人じゃないですよ。メイドさんがいます」
「メイド……だと。さすがだな麻倉。俺は初めてお前を見直した」
「あの、見直すポイント、おかしくないですか?」
「それはそうと、俺は決めた。お前の家に行こう」
麻倉がテンションを上げる。
「はいっ。お勉強会ですね。なんかワクワクします」
「ついでに泊まり込みだ」
「はいっ。泊まり込みでお勉強会ですね。なんかワクワク──えっ?」
西成、山白、小内、有本の四人のうち、いちばん成績がいいのは小内だ。
というのも、小内は数学が得意(得意といっても、ギリで平均点レベルだが)。
勝負する小テストには数学もあるので、小内はそこで得点を稼ぐだろう。
麻倉を勝利させるためには、週末、みっちりと勉強を教える必要がある。
「お前のご両親がいないのは好都合だ。週末は朝から晩まで勉強漬けだぞ。『許して』とか『助けて』とか言っても、解放してやらん。勉強のしすぎでヒイヒイ言う覚悟はできたか!」
麻倉は顔を真っ赤にして、今にも倒れそうな様子だ。
「……お泊り……朝から晩まで……ヒイヒイ……はわわ」
睡眠と食事の時間はちゃんと確保するとして──土日で28時間は勉強に充てられるかな。
しかし、それで足りるかどうか。
「ところで麻倉の家って、どこなんだ?」
「は、はい、ご案内します!」