57
どこでもいいというので──
科学博物館に来たところ、麻倉が『正気ですか』という顔をした。
安心しろ、俺は正気だ。
「それでは、デート楽しかったです」
「いやいや帰ろうとするな。デートの本番はこれからだぞ」
「あのですね、戸山さん。私が求めていたのは、たとえばニューファンタジーランドですよ」
「放課後に気安く行ける場所じゃないだろ」
「私の美女と野獣への期待を返してください!」
「あのな、麻倉。俺がお前に伝えたいことは、学ぶことの楽しさだ。そのために、この科学博物館に来たのだ」
「学ぶことの楽しさ、ですか。さては、これから何か深いことを言う前振りですね」
「えーと、もう言ったんだけど、深いこと」
「あ、終わりですか」
「はい」
というわけで、科学博物館内を見てまわる。
興味深い展示が多い中で──
「あれ。前来たときは月の石が展示していたんだけどな。終わっちゃったのかな」
「戸山さん、戸山さん。あんなのはただの石ですよ」
俺からの非難の眼差しを受けて、麻倉が弱る。
「そんな目で見ないでくださいよ」
「あのな。ただの石というのは、そこらへんに落ちている石だ。月面に落ちていた石は、ただの石じゃぁない。人類の科学技術の勝利を示す石であり──」
「ティラノサウルスの骨、見にいきましょう」
「だな」
ティラノサウルスの偉容を眺めていたら、唐突に麻倉が言った。
「恐竜さんの時代は、地球の重力が今よりも軽かったんですよね?」
「またそんなトンでも理論を」
「え、何を言うんですか、戸山さん。ブラキオサウルスみたいな図体の大きい恐竜が、いまの地球の重力で歩き回れたはずがありませんよ。ゴジラじゃないんですよ」
「あのなぁ。重力が変わるって、とんでもないことだからな。地球物理学的にいっても超大事件だ。必ずや痕跡を残しているのに、しかし誰もそんな発見はしていない」
「ならどうしてブラキオさんは歩き回れたんですか。あんな高いところに頭部があって、血は回っていたんですか」
「実際に歩きまわっていたんだから、生物学的にOKだったんだよ」
「じゃあどうして、今はあんな大きな動物がいないんですか」
「はぁ?」
「いいですか。現生する最大の陸棲動物はアフリカゾウさんですよね」
「ああ」
「しかしブラキオさんに比べれば、アフリカゾウさんなどチビです。ウッカリ踏んづけてしまって、あっいたんですか、という感じです」
「いや、そこまでじゃないだろ」
「とにかくですね、なぜ今はもうブラキオさんクラスの陸棲動物がいなくなったのか。これはもう重力が重くなったから、としか考えられないのです」
「それは恐竜と哺乳類との違いだろ。哺乳類の場合、陸棲でいけるところまでいったら、アフリカゾウだったわけで──」
あれ。だけど絶滅したのも含めれば、哺乳類最大はパラケラテリウムとかいう奴だったか。
確かアフリカゾウよりも一回りは大きかったはず。
つまり陸棲の哺乳類も小さくなっているのか。別に重力は関係ないだろうけど。
なんでだろ。進化論的な理由だろうか。
「それはそうと、戸山さん。ビッグフットは実在しますよね?」
「……いませんよ」
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。
すでにブクマ・評価してくださった方、ありがとうございます! 励みになります。




