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 鴨下を見舞った翌日。


 自習室で会うと、麻倉が難しい顔をしていた。

 これは真剣に思考しているときの麻倉だ。


「どうした麻倉。何を考えているんだ」


「セフィクラなのかクラセフィなのか、それが問題です」


「じゃお疲れさん」


 俺が帰ろうとしたら、麻倉がしがみ付いてきた。


「待ってくださいよっ! いまのは可愛い冗談ですよっ!」


「なら何を考えこんでいたんだ?」


「戸山さん。わたしは将来を決めましたよ」


「理事長だけは継ぐなよ。箔日学園が滅びるから」


「理事長など興味はありません。わたしが目指すのは……」


 麻倉がそこで言葉を止め、何かを訴える眼差しを向けてきた。


「なんだ?」


「戸山さん。ドラムロールお願いします」


「……本気か、お前。家庭教師にドラムロールを用意させようというのか」


「はい、本気です」


「……」


 仕方ないので、動画共有サービスでドラムロールを探して流した。


 ドラムロール──

 からの宣言する麻倉。


「わたしは人権派の弁護士になりますっ!」


「な、なんだって? どうしていきなり弁護士なんだ?」


「昨日、鴨下パパさんの窮状を見て思ったのです。世間には、助けを必要とする弱い立場の方がたくさんいると。そんな人たちを助けるために、どうすればいいのか。わたしは一晩じっくりと考えました。FF7リメイクもやらず考えました」


 いや、さっきセフィクラとか言ってたじゃん。


「その結論が、弁護士だって?」


「ただの弁護士ではありませんよ。社会的弱者に寄り添う、人権派です」


 人権派だろうと、弁護士は弁護士だろうが。


 麻倉彩葉が弁護士になりたい、だと?


 俺は、自分が6歳のときを思い出した。


 ガキのころから運動神経が悪かった俺。

 なのに身の程知らずなことに、『将来はサッカー選手になりたい』とほざいた。


 そんな6歳児に、我が父は言ったものだ。


『なれっこないんだから、やめておけ』と。


 で、俺はやめた。


 ありがたい助言だった。俺にサッカー選手の才能はなかったし。


 そして麻倉の頭では、弁護士になれるわけがない。


 なぜなら、弁護士になるためには司法試験に合格せねばならないからだ。

 そして司法試験とは、『日本で一番難しい試験』とも呼ばれている。


 だいたい、それの受験資格を得るまでがまず大きなハードルだし。


 だから俺が麻倉にかけるべき言葉は、『なれっこないんだから、やめておけ』だ。


 しかし──


 麻倉の無駄にキラキラしている目を見ていると、俺も夢を見たくなってきた。


 ……麻倉のバカが感染したのか?


「……分かったよ。ならお前が目指すのは、司法試験に強い大学だな」


「はい」


「長い道のりだ。まずは次の期末テストで赤点を取らないことだ。そこから始めるぞ、麻倉」


「はい、戸山さんっ!」


「覚悟はできているな!」


「もちろんですっ!」


「よし! なら今日から放課後は、地獄の勉強会だっ! ──いや違う、地獄の中の地獄の勉強会だ!」


「……え、勉強会ですか? わたし、まだミッド〇ルズ脱出してないんですけど?」


「…………………………麻倉、お前やっぱ無理だな。なれっこないんだから、やめておけ」


「そんな戸山さん、見捨てるのが早いですよぉ! わたしを諦めないでぇぇぇぇ!」


 嗚呼、前途多難。



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