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「うわぁぁぁん! 戸山さんに捨てられましたぁぁ!」


 と泣き出す麻倉。


「別に捨ててないだろ」


「おかしいじゃないですか。鴨下さんを相方に選ばれたのは、理解できます。鴨下さん頭いいですし。けど美園とわたしで、なぜ美園なのですかっ! ここは戸山さんの愛弟子であるわたしを選ぶところでしょ! 納得いきませんっ!」


「あのな、よく考えてみろ。お前は全教科赤点だったろ。もちろん数学も。一方、水元の赤点は物理と化学だけ。つまり数学の戦闘力ならば、水元のほうが上」


 麻倉は口をぱくぱくさせた。


「ど、どうした麻倉?」


 水元が進み出る。


「お嬢様──」


「……美園」


「現実を直視してください。お嬢様は戦力外通告を受けたのだということを」


「あぁっ、戦力外通告っ!」


「……水元。麻倉が好きなわりに、容赦ないな」


「お嬢さまには、現実を理解していただきたいのです。お嬢様が出場されては、足を引っ張ることしかできないという事実を」


 麻倉はうなだれた。


「そんな、わたしはそこまでダメな子だったんですね……噫無情ああむじょう


 なぜ、そこでレ・ミゼラブル。


 水元が熱っぽく言う。


「なんでしょう、この感情は。お嬢様を虐めてしまったというのに、罪悪感とともに歓びを感じてしまっています」


 メイドはメイドで、変な方向性に目覚めようとしている。


 何はともあれ、2回戦が始まった。


 ちなみに俺と水元は、2回戦の第2試合。

 もうすぐ出番だ。


 頭の中でトーナメント表を確認。

 すでにベスト8は出そろっているので、あと3回勝てば優勝だ。


 そうすれば、俺は麻倉の家庭教師となる。それは國重に勝利したことを意味する。

 あと賞金30万円もゲットだぜ。


「しかし、30万円はお前と山分けか」


 スタート地点へ移動しながら、俺は水元に言った。


「それでしたら、鴨下さまにもお分けしないと悪いのでは?」


「だな。じゃ俺の懐に入るのは10万円か。ま、一日で稼いだ額にしては悪くない」


「戸山さま。捕らぬ狸の皮算用といいますよ」


 正しい使いかただな。


 さて俺たちの番だ。

 スタート。


 ステージ自体は、1回戦と同じだ。

 まずは教室を模した第一ステージ。


 ただし超難問の内容と、隠し場所は変更されていた。


 今回は、隠し場所からして凝っている。


「黒板の落書きの中に、超難問が隠されているようだな。まずは問題を正しく取り出すところから、始めなきゃならない」


 水元は椅子に腰かけた。


「お邪魔にならぬよう、私はここで口を閉じております」


「……まぁ、そうだな」


 よくよく考えれば、水元の数学レベルじゃ戦力にはならない。

 つまり、麻倉を選んでいても同じことだった。


 黒板の落書きから問題を取り出し、さらに解き明かす。


 あー、疲れる。


 端末に解答を入力したら、扉が開いた。


 その後、第二ステージもクリアし、第三ステージまで進んだところでタイムアップ。


 今回は俺たちが先攻だった。

 つまり、対戦相手ペアが第三ステージもクリアしてしまったら、俺たちの負けだ。


 だが心配なかった。

 対戦相手ペアは、第一ステージでもたつきタイムアップ。


 余裕で勝ち進めたわけだ。


「さてと──」


 俺は観客席に行き、麻倉に言った。


「やっぱり、お前をペアにしてもらおうかな」


「戸山さぁん! やっぱり愛弟子が一番ですよねぇ!」


「まあな」


 どっちとも戦力にならないのなら、麻倉といるほうが気が楽だ。


 見ると、水元が地味にショックを受けていた。




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