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 麻倉は恋バナに燃えだした。


 麻倉はこういうのが大好物らしい。


「戸山さん、詳細を!」


「……確かに、俺は鴨下に告白した。が、振られたんだ。そこで傷心を癒すため、エクストラ部門に出てもらうことになった」


「そうだったんですか。戸山さんも、ちょうどエクストラ部門に出てくれる方を探していたんですよね? タイミング抜群でしたね」


 麻倉、余計なことを。

 告白の件が誤解だったと、鴨下に感づかれたらどうする?


 と思ったが、鴨下は「運命だったのね~」と気づく様子なし。良かった。


「俺はトイレ行ってくる」


 トイレ帰りに自販機を探していたら、水元を見かけた。


「戸山さま。先ほどの修羅場は無事に回避できたようですね?」


「修羅場も何も、俺は麻倉と付き合っているわけじゃないからな。鴨下に告って振られたと話しても、何ら問題はない」


「しかしながら、戸山さまが告白されたというのは引っかかりますね。実際のところ、告白というのは鴨下さまの勘違いでは?」


 さすが水元、鋭いな。


「まぁそうだが、鴨下には黙ってろよ。鴨下は俺を振ったお詫びとして、この大会に出てくれているんだ」


「大会といえば戸山さま。1回戦3試合目はご覧になりましたか? 板垣学園からご参加のペアですが、最短で第一ステージを通過されていましたよ」


「つまり、俺と鴨下よりも早く解いたということか」


「ええ。強敵出現というところですね」


「にしても、物好きがいるものだよな。俺は國重との賭けがなければ、こんなエクストラ部門なんかわざわざ出ないけどな」


「優勝賞金が30万円だからではないでしょうか?」


「そうだな。30万円だもんな──え、30万円?」


「ご存じなかったのですか? 國重がお渡ししたパンフレットに、記載されていたはずですが」


「見落としてたなぁ」


 30万円といえば、高校生の身分では大金だ。

 数学が得意な連中が、休日を潰して参加してもおかしくはないか。


「どうりで、結構な強敵がいるわけか」


「お嬢様のためにも、足元をすくわれぬようお願い致します」


「もちろんだ」


 しかし、足元をすくわれた。

 鴨下に。


 観客席に戻ると、麻倉が真っ青になって立っていた。

 何事かあったらしい。


「どうしたんだ、麻倉?」


「鴨下さんが倒れてしまいました!」


「な、なんだって?」


 鴨下が運ばれたという救護室に行く。


 そこで鴨下の相方だと名乗り、看護師に話を聞くことに。


 どうやら鴨下は、寝不足のあまり倒れたらしい。

 いまは点滴を打っているとのこと。


 その後、大会スタッフが来た。


「申し訳ありませんが、大会のほうはご辞退していただきます」


「え。でもいま点滴打ってるんで、すぐに相方は復活すると思います」


「残念ですが、出場中に事故が起こってからでは遅いので」


 大会スタッフとしては、トラブルが起きるのだけは御免だろうからな。


 しかし辞退だけは避けねば。


「なら、相方を変えるというのでは?」


「ですが、それは──」


「お願いします。せっかく2回戦に進出したんです」


 ここはごり押しだ。

 エクストラ部門は娯楽を優先しているわけだし、何とか通るんじゃないか。


 大会スタッフは『上』と相談してから、返答した。


「分かりました。特例としてペア取り換えを許可します。ですが、これ1度きりですよ」


「ありがとうございます」


「それで、どちらが新しいペアの方ですか? すぐに登録し直したいのですが」


 大会スタッフが、麻倉と水元を交互に見やる。


 そうだよな。この2人のどちらかだよな。


「……」


 どっちも戦力になりそうにない。


 悩んでいると、麻倉と目があった。


「戸山さん! ついに、愛弟子のわたしが力を発揮するときですね!」


「麻倉──!」


「戸山さん──!」


 俺は大会スタッフに言った。


「じゃ、新しい相方は『水元美園』で登録お願いします」


「なんでですか、戸山さぁぁん!」


 まだ水元のほうが戦力になるだろ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] いやあ、なんか最近すげえ面白くなってきましたね。 続きが楽しみ
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