22
数学オリンピア関東大会の会場までは、麻倉家が送ってくれる。
待ち合わせ場所に行くと、すでにSUVが停まっていた。
そばで麻倉が手を振っている。
「戸山さん、こっちですよ~」
SUVの運転席を見ると、ドライバーは國重。
「おはよう、戸山くん」
「どうも……」
麻倉が周囲を見回す。
「ところで鴨下さんは、まだですかねぇ?」
「そういや遅いな。あいつ10分前行動するタイプなんだが」
「鴨下さんって、学校でもテスト当日はギリギリで登校してきますよ」
「え、そうなのか?」
「はい。目の下に隈を作って」
「え……」
嫌な予感に駆られていると、鴨下がようやく来た。
目の下に隈を作って。
「鴨下! なんでちゃんと睡眠取ってないんだ?」
「睡眠不足なんかじゃないわよ」
「鏡を見て、目の下の隈を見てから言ってみろ。睡眠不足じゃなきゃ、そんな隈はできない。昨夜は何時まで起きていたんだ?」
「……朝4時」
現在時刻、6時半。
「2時間半しか寝てないじゃないか!」
「実際は5時半に起きたから、1時間半ね……けど大丈夫よ、俊哉。アタシにとっちゃ、平常運転だから」
「そこ偉そうに言うところじゃないぞ。どうして前日までそんな無理して勉強したんだ。睡眠不足が脳にどれだけマイナスか知らないお前じゃないだろ」
「……」
鴨下の表情を見ていたら、俺はふいに気づいた。
さては勉強していたんじゃなくて、緊張のあまり寝付けなかったな。
定期テストでケアレスミスする原因も、これか。
テスト前ちゃんと眠れず、睡眠不足でテストを受けるから凡ミスをする。
逆に、よくこれで学年2位の得点が取れたものだ。
「とにかく、移動中に少しは寝ろ」
車内には水元もいた。
そういえば、弁当のお礼を言ってなかったな。
持って来てくれるのは麻倉だが、作ってくれたのは水元だった。
「弁当、ありがとうな」
「お気になさらず。全てはお嬢様のためです」
全員が車内に乗ったところで、出発。
鴨下はすぐに眠りにつき、俺の肩を枕がわりに爆睡。
車の揺れがいい感じに眠気を誘ったようだ。
45分後。会場に到着。
「あ、見てください戸山さん。テレビ局クルーが来ていますよ」
「どうせローカルだろ」
「えっ、テレビ!?」
と、鴨下が跳ね起きる。
「テレビごときで騒ぐなよ。テレビなんてもう斜陽産業だろ」
「テレビはテレビよ」
俺たちは会場入りした。
エクストラ部門の開始まで、まだ30分ある。
「勝ち進めば昼休憩を挟んで、15時ごろが決勝か」
麻倉がワクワクした様子で言う。
「エクストラ部門って、トーナメント形式なんですね。どういう対決方式なんです?」
「そこはエクストラだけあって、普通の試験とは違う。アトラクション方式らしいな。各ステージで問題を解いていき、先にゴールしたほうが勝ち──面倒だよなぁ」
「楽しそうですね!」
「楽しくない。超難問を解くだけでダルいのに、ステージによっては走らされるらしい」
「対戦は観覧できるんですか?」
これに答えたのは水元だった。
「観客席から可能です」
「え、応援もできるんですか? それなら応援グッズを持ってくれば良かったです」
水元が肩にかけていたダッフルバッグを置き、開いた。
そこには多様な応援グッズが詰め込まれていた。
「お嬢様が必要とされると思い、準備しておきました。どうぞお使いください」
「さすがの美園です。戸山さん、鴨下さん。応援はわたしにお任せください!」
「やめろよ、応援とか恥ずかしい。絶対するなよ」
麻倉がしょんぼりした。
「……分かりました。すいません。わたしの応援なんか不要ですよね」
麻倉、ガッカリしすぎ。
そして水元、殺意の視線を向けてくるな。
「……と思ったけど、やっぱり応援いいよな! 凄く嬉しいぜ、麻倉!」
麻倉の顔がパッと輝く。
「ですよねっ! このわたしに任せてください!」
そうこうしているうちに1回戦が始まった。




