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麻倉が適当なことを言うものだから、事態はややこしくなった。
ただでさえ、ややこしかったのに。
國重はしてやったり顔だ。
「彩葉お嬢様、ご提案があります。来週末、数学オリンピアの関東大会が開催されます。これに優勝すると全国大会へ進めますが──そこまでは要求いたしません。戸山くんが関東大会で優勝できれば、私も認めましょう。戸山くんが彩葉お嬢様の家庭教師となることを」
関東大会レベルでも、難易度は高すぎだ。
俺は天才型ではない。
よって数学の閃きは天才に負ける。
麻倉の脇腹を突いた。
ムリだぞ、と知らせたくて。
麻倉は「ひゃん!」と変な声を上げた。
「な、なんですか、戸山さん?」
「優勝は無理だ」
麻倉は落胆するかと思ったが、そうではなかった。
「戸山さんが無理というからには、銀河系レベルの天才たちが集まる大会なのですね」
「いや、そこまでじゃないと思うが」
「それなら戸山くん──」
と、國重が会話に入ってきた。
「エクストラ部門の優勝ならば、どうかな?」
「エクストラ部門だって?」
「言うなれば娯楽的な催しだ。本選と違い、お遊びで参加する者がほとんど。つまり、戸山くん。君が恐れる天才たちは、エクストラ部門には出場しない」
エクストラ部門か──
一考してみる。
まず大会で出題される数学の範囲は、高3で習うまでだろう。
こっちは高校3年間で習う範囲、ざっと予習してはある。
それに國重はかなり譲歩してきた。これ以上は望めない。
「分かった。エクストラ部門とやらで優勝してやる。しかし、大会は来週末だったか? いまからで出場手続きは可能なのか?」
「受付期限は明日の深夜零時までだ。ネットで参加手続きできる」
それから國重は、麻倉を見やる。
「よろしいですね、彩葉お嬢さま? 戸山くんが優勝できなければ、諦めていただきますよ?」
「はいっ。戸山さんなら余裕で優勝です!」
麻倉め、簡単に言ってくれる。
その後、國重から大会のパンフレットを渡された。
「じゃ麻倉。いまは赤点補習を頑張れよ。俺はいまから数学漬けだ」
「頑張ってくださいっ!」
自宅に帰って、初めてパンフレットを開いた。
エクストラ部門は──
なんだと。
國重に嵌められた。
エクストラ部門はペアと参加するものだ。
合計点で勝負するのではなく、2人で超難問を解いていくシステム。
「あの女──」
△△△
翌日。
朝からずっと考えている。
エクストラ部門の相方をどうするかと。
数合わせでいいなら、水元あたりに頼める。
だが数学の超難問を解くとなると──やはり相方も戦力になってほしい。
「どうしたもんかな──俺並みに賢く、かつ大会に出てもいいという暇人。そんな都合の良い奴が、簡単に見つかるはずがない」
廊下を歩いていると、後ろから呼びかけられた。
「待ちなさい、戸山俊哉!」
振り返ると、鴨下瑞奈が駆けてくる。
なぜ鴨下は、いつも俺に構ってくるのか。
よほど暇人らしい。
まてよ、暇人?
それに鴨下の学力は、俺の次には高い。
鴨下が俺の前で急停止。
「戸山俊哉。このまえ保健室で会わなかった? あたし具合が悪くて、記憶が曖昧なのよね。それで──」
俺は鴨下の手を取った。
「な、なによ?」
「鴨下、是非とも俺のパートナーになってくれ!」
「え、ええっ!」
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