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 自分のクラスに戻ると、三時間目のチャイムが鳴った。小内はすでに自分の席にいる。


 俺は足早に近づき、小内の耳元で言った。


「現国テストでも不正したら、教師に報告するからな」


 小内はニヤニヤと笑って、


「戸山さ、言いがかりはやめてくれるかな?」


「相沢と今井を利用しているのは分かってるんだ。いいか、英語での不正は見逃してやる。だが、次はないぞ」


 小内の顔からニヤニヤ笑いが消え、余裕がなくなる。


「……な、何の話か、わからないなぁ」


 監督の教師が入ってきた。俺は水元のもとに向かい、麻倉の判断を手早く伝える。


「お嬢様がお決めになられたことに、異存はありません。ですが、小内礼が現国でも不正を働いたならば、私は容赦いたしません。水元家に代々伝わる108の拷問が、小内の柔な身体を襲うことになるでしょう」


「はは、それは面白い……冗談だよな? 冗談なんだろ?」


「おい戸山、席につけ」


 と教師に注意されたので、俺は自分の席に急いだ。


 △△△


 次に俺が麻倉と会ったのは、放課後だった。


 昼休みに会えなかったのは、月曜の放送も麻倉が担当だったため。


 ちなみに五時間目には、役目を終えた水元は4組に戻っていた。


 帰りのホームルームで、テストの返却。


 その後、俺が教室を出ようとしたら、小内が声をかけてきた。


「戸~山。早く麻倉ちゃんの泣き顔が見たいんだけど」


 たいした自信だな。現国は不正できなかったはずだが──よほど英語が高得点だったか。


「5分後、自習室で会おう」


 小内と別れ4組へ行くと、水元が廊下で待っていた。


「麻倉の点数は?」


 なぜか水元から殺意の眼差しを向けられる。


「お嬢様は教えて下さらないので、分かりません」


「なんで?」


「まず、家庭教師の戸山さまにお教えしたいのだとか」


 義理堅いな、麻倉。

 おかげで、お前のメイドから嫉妬による殺意を向けられているが。


「で、麻倉は?」


「日直の雑務を終えてから、いらっしゃいます」


 などと会話している間に、麻倉が出てきた。

 採点された答案用紙を差し出してくる。


「戸山さん! わたし達の愛の結晶です!」


「とりあえず、その誤解されるような言い方はやめような」


△△△


 俺たちが自習室に行くと、すでに小内は来ていた。


「さ、早く決着を付けちゃおうよ。私の点数は──数学55点、英語88点、現国32点。トータルで、175点」


「へえ。だいぶ英語が高得点だな」


 俺が皮肉を言うと、小内は顔をしかめた。


「証拠もないのに、不正したとか言わないでくれるかな? そんなことより、麻倉ちゃんは何点なのかなぁ?」


 すっかり勝った気でいやがる。


 まさか小内礼に憐みを覚える日が来ようとは。


 不正までしたのになぁ。


「192点」


「……は?」


「数学41点、英語71点、現国80点。トータルで192点。これが麻倉の結果だ」


 俺は証拠とばかり、麻倉の答案用紙を突きつけた。


 小内は顔面蒼白になっている。


「そ、そんな……だって麻倉彩葉は全教科赤点のバカなのに……」


「言っただろ、麻倉の潜在能力はSSSランクだと」


 実際は、麻倉の潜在能力はいいとこEランク。


 だが麻倉には素晴らしいスキルがあった。


≪努力≫というスキルが。


「お前の負けだ、小内礼」


「信じられない……私が、麻倉彩葉なんかに負けるなんて……」


 小内はふらつく足取りで、自習室のドアへ歩き出す。


「待てよ、小内。負けたら麻倉に土下座して謝罪する約束だろ?」


 小内がハッとする。それから俺を睨みつけた。


「バっカじゃないの! 土下座なんかするわけないじゃん! 死ね!」


 水元が小内の左手をつかんだ。


「な、なによ?」


 握手するようにして、握る。


 とたん、小内が悲鳴を上げる。


「痛っ! 痛いってぇぇ、痛いぃぃぃからぁぁぁあぁ!!!」


 とんでもない握力をかけているらしい。

 それこそ、小内の手を握りつぶすほどの。


 麻倉が慌てて水元を止める。


「美園、やめなさい! こら、美園!」


 水元は渋々といった様子で、小内の手を放した。


「小内礼。お嬢様に土下座されないのでしたら、次はお嬢様のいないとき訪問させていただきますよ」


 小内は苦痛と恐怖の涙目で水元を見返した。


 それから麻倉に向かって、土下座する。

 身体が屈辱のあまり震えている。


「も、申し訳、ご、ございません」


 水元が冷ややかに言う。


「『どなた』に対して、『何を』申し訳なくお思いですか? 明確にして頂かないと納得できませんが?」


「……麻倉彩葉、さん。バカにして……も、申し訳ございませんでした」


「お嬢様、いかがいたしますか?」


 麻倉はオロオロする。


「え? あ、あの、もう頭を上げてください小内さん。もういいですから」


 残念だ。

 麻倉がドSなら、もっと小内をいたぶれたのに。


 小内は許されたとたん、走って逃げだした。

 これに懲りたらいいんだがなぁ。


 俺は改めて、麻倉の答案用紙を見た。


「数学。よくテスト時間が限られていたのに、41点も取れたな?」


「家庭教師が良かったからですよ」


「よし、祝勝会だ。好きなものを奢ってやるよ。なにがいい?」


 麻倉はニコッとした。


「でしたら、勝利のクレープを」




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