表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/63

11

 



「シャンプーの匂いか」


「はい?」


 麻倉がキョトンとした顔で見てくる。


「お前のシャンプーの匂いがくすぐったい」


 麻倉は椅子に座り、俺は立ったまま後ろから机を見る格好。

 これだと麻倉の頭が近く、シャンプーの匂いが凄くするわけだ。


「……あの、わたしにどうしろと?」


「別に。文句言ってみただけ。いいか、まずはこの数学のテストを受けてもらう。お前のシャワーを待っている間に、俺が作成しておいたものだ。名付けて、『麻倉彩葉のバカさ加減が分かる』テストだ」


「戸山さん。もう少し優しさのあるテスト名が欲しかったです」


「このテストを受けることで、麻倉がどの段階で数学を理解できなくなったかが分かる。数学はとくに、積み重ねの教科だからな。分からなくなったところに遡って、学んでいく必要がある」


「頑張ります!」


 麻倉は頑張ったが、結果は悲惨だった。


「これは……想定以上の酷さだ」


「そ、そんなっ……」


 そして、ここから真の意味での勉強会が始まったのだ。


 スパルタでしごいていく。


 麻倉は5分に一度泣き言を言ったが、俺は無視。


 もちろん俺も、鬼じゃない。心は痛む。

 できることなら小内たちに教えていた時のように、もっと麻倉の負担が軽い方法で教えてやりたい。


 だが時間が致命的にないのだ。

 小内に勝つためには、スパルタでいくしかない。


「戸山さん……あの、少し休ませてください」


「ダメだ。あと3問は解け」


 麻倉が貧乏ゆすりしだす。


「集中しろ、麻倉」


「……お、おしっこがしたいんです!」


「それを早く言え!」


 麻倉をトイレに送り出してから5分。

 遅い。小ではなく大のほうだったのか?


 麻倉の様子をうかがおうと廊下に出たら、メイドの水元とばったり会った。


「麻倉は?」


「お嬢様は、お逃げになりました」


「お逃げに……つまり、勉強会からの逃走?」


「はい」


「麻倉ぁぁぁぁ!」


 10分後、捕縛した麻倉を連れ戻し、机に押しやる。


「勉強から逃げられると思うな」


「鬼です、悪魔です~」


 そんなこんなで1日目、終了。


 俺は来客者用の寝室をあてがわれた。

 にしても来客者用の寝室があるとは、これがセレブか。


 明日の麻倉の勉強計画を立ててから寝ることにする。

 いまごろ麻倉は爆睡していることだろう(最後らへんは、半分寝てたし)。



 △△△△



 ──土曜日


 朝。洗顔してから麻倉の部屋をノックするも反応なし。

 水元が通りかかったので、尋ねた。


「麻倉は?」


「お嬢様は、お逃げになりました」


「麻倉ぁぁぁぁ!」


 朝っぱらから逃げるとか、根性を叩き直す必要がありそうだ。


 パジャマ姿の麻倉を捕縛し、連れ戻す。


「勉強しろ、勉強!」


 ひたすら勉強し──あっという間に時間は過ぎていく。


 気づけば、もう陽が暮れようとしていた。


 麻倉は憔悴しきった様子で、


「戸山さん、わたしはもう耐えられません。こんなに勉強したら、頭が破裂します」


「大丈夫だ、麻倉。頭は、破裂しない」


「……いえ、わたしは比喩で言ったわけで、それだけ辛いと伝えたかったわけで──」


 ドアにノックがあり、水元が入室してきた。


「お嬢様。夕食の献立ですが──」


 さすがに専属シェフは雇っていないらしく、食事はメイドの水元が用意していた。

 昨夜は俺も、豪華な夕食をご馳走になったが──もうそんな余裕はない。


 麻倉が答える前に、俺が言う。


「おにぎりだ、おにぎり。勉強しながら食べられる」


「うう、戸山さんの鬼~、悪魔~」


「今の気持ちを英語で言ってみろ」


「えーと……That pisses me off (ムカつく)!」


「いいぞ」


 ふと見ると、水元が俺を睨んでいた。


「戸山さま。少々、ご相談があります。よろしいですか?」


 どうやら、麻倉の前で話したくないことのようだ。


「え? ああ──じゃ、麻倉。そこの問題を解いておけ。間違えたら、おにぎりの具がなくなると思え」


「具がなくなったら、ただの丸まった白米ですよぉ」


「嫌なら間違えるな」


 廊下に出る。


「で、水元さん、相談というのは何──」


 水元が氷の声で言う。


「これ以上、お嬢さまを虐めるようでしたら、私にも考えがありますよ」


 ……え。

 俺、勉強教えていただけなのに?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ