表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/63

10

 



 問題集から、俺が指定したところを解いてもらう。


 そして30分後。


 100点満点のところ、


 由香は72点。


 麻倉は54点。


「……麻倉」


 由香がどう慰めればいいのか、という顔で麻倉を見ている。


 一方、麻倉はがっくりとうな垂れていた。


「麻倉……ガチで中二に負けるとは。本当に裏口入学じゃなかったのか?」


「不正なんてしてませんから、信じてくださぁぁい!」


 涙でぐっしょり顔で、麻倉がしがみ付いてきた。


「わかった、わかった。ヤマが当たってしまったんだよな──ある意味、不幸なことに」


 由香が麻倉を見ながらつぶやいた。


「可哀そうな人っているんだなぁ」


 間違ってないけど、そんな言い方はやめてあげなさい。

 間違ってないけど。


「由香、俺は麻倉家に泊まり込みで勉強してくるから。母さんたちに伝言、頼む」


 うちの両親は大らかなので、反対はしないだろう。


 荷物を持って、まだ嘆いている麻倉と家を出る。


 麻倉家に向かいながら、俺はある選択肢について考えていた。


「麻倉。小テストだが、数学を捨てるという手もある。たとえば小内が3教科合計で140点だったとしよう。対して麻倉は、2教科で150点を目指す」


 小内の学力が低く、かつ小テストの範囲が狭いからこそ取れる策だ。


 しかし麻倉は首を横に振った。


「いえ。そんな形で勝っても、嬉しくないです。それに、この先にある期末テストを思えば、今のうちに苦手な数学も勉強するべきです。戸山さん、お願いします!」


「そうか……その心意気はいいが、賭けのこと忘れてないか? 麻倉が負けたら、俺はもう家庭教師できないからな」


「うう、そうでした……ですが、わたしはちゃんと勝ちます! SSSランクの底力を見せるときです!」


 Fランクの底力って、どんなものだろうなぁ。


 麻倉家に到着。

 さっそくメイドが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 思っていたより若いメイドさんだ。

 というか、麻倉と同級生で通りそうな年頃だ。

 あまり装飾のないメイド服が、スレンダーな肢体を包んでいる。


「紹介しますね、戸山さん。水元みずもと美園みそのです。わたしのお友達であり、優秀なメイドさんでもあるのです」


「水元さんね。もしかして、高一?」


「はい」


「なら水元さんに勉強を教わればいいのに。お前のメイドなんだし」


 すると麻倉は、ぷぷっと笑って、


「美園は、わたしよりおバカですよ」


「……ま、まさか」


 俺は水元を見た。

 水元も俺を見返したが、無表情のままだ。


「あ、さては住み込みのメイドだから、学校に行かせてもらってないとか?」


「失礼ですね。美園も箔日学園の生徒ですし、学費はパパが出してますよ」


「そうなのか。……じゃあ、水元さんの前回の中間テストの結果は? 赤点は何教科取ったんだ?」


「どうでしたっけ、美園?」


「はい、お嬢様。お恥ずかしいことですが、物理と化学で赤点を取ってしまいました」


 麻倉が「ね?」という顔をしてきた。


 え、全教科赤点の分際で、なに腹立つ顔してきてるの?


 その後、俺は麻倉の自室に案内された。

 いま思ったが、女子の部屋に入るのは初めてだ。


 なるほど、これが女子の部屋か。

 意味なく甘い匂いがするのは、なぜなのか。


 麻倉がもじもじし出した。


「あの、わたし、男の子を部屋に招くの初めてです。なんだか恥ずかしいですね」


「恥ずかしがっている暇があったら勉強しろ」


「ええっ!」


 勉強机を指さして、


「一秒も惜しまず勉強だ。座れ、教科書を開け」


「は、はい!」


 麻倉が席につく。


 で、俺の立ち位置って、どこ?


 とりあえず、麻倉の後ろに立った。これだと机がよく見えない。

 そこで軽く屈むと、やたらと麻倉に密着することに気づいた。


「あの、戸山さん」


「まずは数学からいくか」


「戸山さん」


「なんだ?」


「今日、六時間目、体育だったんですけど……」


「で?」


「……あのー、汗くさいと恥ずかしいんで、先にシャワー浴びてきてもいいですか?」


「……シャワー浴びてきたら、ちゃんと勉強するんだな?」


「もちろんです!」


「なら行ってよし」


「はいっ」



 △△△



 ひとり女子の部屋で待たされること、数十分。


 ようやく麻倉が帰ってきた。やたらと子供っぽいパジャマ姿で。


「戸山さん、わたしはやる気に満ちていますよ!」


「……本当に?」


「本当です」


「ちゃんと勉強する?」


「します」


「……やっとか」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ