01
野球部のエース、西成成人。
学園のアイドルでテニス部員の、小内礼。
ジャ〇ーズにいてもおかしくない容姿である、山白大輔。
ファッションモデルをしている、有本亜美。
そして俺、戸山俊哉。
これが箔日学園:高等部1年の頂点にいる、リア充グループだ。
俺の役割は、西成たち四人が赤点を取らないようにすること。
なぜって四人とも学力はお粗末だから。
バットを振ったり、ファッション雑誌の表紙を飾るのに学力は関係ないわけだ。
しかも、四人とも勉強嫌いときた。
だから俺は、四人の勉強への負担を減らすようにしている。
テスト範囲を精査し、どの問題が出るか分析する。テストは各教科の教師が作成するから、先輩などから過去問をもらうのも大事だ。
その教師によって、出題の傾向が見えてくる。
こうして、テスト対策『虎の巻』を作成。
ここから四人それぞれに、効率よく教えてやる。
四人それぞれ、科目によって得意不得意がある。そういうのを頭に入れながら、俺は四人の個別教師となる。
はたから見たら、俺は四人の腰巾着に見えることだろう。
仕方ない。俺には四人のような取り柄はない。顔も普通だし、スポーツも不得意だ。
だが俺は、四人にとって欠かせない存在だ。
俺がいるから、四人は赤点を取らずに済んでいるのだから。
四人だけは、俺を高く評価してくれている。
そう信じていた。
だが──
ある日の放課後。俺は教室に参考資料を忘れた。
二学期の中間テストに備えて、四人のために必要な参考資料だ。
教室に取りに戻ると、廊下まで声が聞こえてきた。
西成成人の声だ。
「ってかさ、俊哉って正直ウザくね? 勉強のことばっか言ってきてよ、ウザいわぁ」
俺は廊下で固まった。ここだと教室内からは見えない。
成人、この恩知らずが。俺のおかげで数学の赤点を回避できたくせに。
どうやら四人だけが教室内に残っているらしい。
続いて有本亜美が言う。
「まぁーね。でもさ俊哉も一生懸命なんじゃない? アタシたちの仲間でいるためにさ? ほら、俊哉って勉強以外に取り得ないし」
山白大輔が言う。
「つーか、俊哉ってオレたちの仲間なわけか? 正直、オレらと釣り合ってなくね?」
大輔、テストに出る英文法を叩き込んでやった恩を忘れたか?
亜美も、かばってくれていいはずだろ? 俺がいなきゃ、夏休みは補習授業で潰れてたぞ。
「礼はどう思う?」
そうだ、小内礼。
一月期の期末テストで、俺は付きっ切りで礼に現国を教えた。
おかげで礼は、苦手な現国で平均点を超えることができた。そのことを言ってくれ。
「実はさ、わたし──一月期のテストのとき、俊哉に付きっ切りで教わったんだけどさ」
ありがとう、礼。
俺のおかげで平均点を超えられた、と言ってくれるつもりだ。
だが現実は違った。
「なんか、わたしのことイヤらしい目で見てきてたんだよね。ちょっとキモかったかも」
俺は立ってられなくなった。
イヤらしい目で見てなんかいない。
俺はただ、礼が苦手な現国を克服できるよう努めていただけだ。
大輔が大笑いする。
「アイツさぁ、うまくすりゃ礼とヤレるとか思ってたんじゃねぇの?」
亜美もへらへらと笑う。
「うわっ、きっしょ」
礼が真剣な口調で言う。
「それ、マジで最低なんですけど」
「やっぱアイツ、いらねぇな。追放だ追放」
「追放とかウケる~。けど、だよねぇ」
俺は肩を落として、昇降口へと歩いていった。
最低なのはお前らだ。
俺のことをそんなふうに思っていたなんて。
家に帰った俺は、勉学に勤しんだ。
これまで、四人のため自分の勉強時間を削ってきた。
だから、テストの学年順位は30位が最高だ。
だが、もう時間を削る必要はない。
俺は、俺のためだけに勉強の時間を使おう。
そして──期末テストが始まり、終わった。
廊下の壁に、上位50名が張り出される。
1位には、俺の名前、戸山俊哉の名があった。
全教科満点という、箔白学園の記録を打ち立てて。
しかし、俺に喜びはなかった。