異種族間の愛について。
「……そ、それから……」
抱きついていた私の肩をそっと押し返し、どこか気まずそうな表情でジャンは続けた。
「キース兄が王位継承権をエドワード兄に譲ることはないと思う……」
ジャンのその言葉に私は片眉を上げた。
「理由は?」
すると、ジャンはごくりと唾を飲み込み、それから意を決したように真っ直ぐに私を見つめた。
「クリス様はエルフ族だから……性別に関係なく子を作ることが出来る、ん、だ……」
最後の方はもごもごと告げたジャン。
その表情もとてもそそられるものではあるが。
……ん??
ちょっと待て、今なんと?
理解していない私に気が付いたのか、ジャンは恥ずかしげに種族間の違いを示した書物を差し出してきた。
そして、とあるページを開き、
「ん」
目をつぶって私にその本を突き刺してくる。
「ん」って!
「ん」って!!
そう興奮したのも束の間、差し出されたページに目を落とした私はその内容に愕然とする。
「……こ、これは!」
というか、ジャンはこのページの内容を読んだのだろうか?
いや、私にこのページを見せてきた時点で、内容を知らないわけはないのだが。
あぁ、悲しきかな。
ジャンもまた、立派な男の子なのである。
うんうん、今年でジャンも十三歳だ。
確かに、こういうものがそろそろ気になってくる年頃なのかもしれない。
そのページには、大きな文字で『異種族間による子の成し方』と書かれていた。
読んでみると、どうやら種族ごとに子供の作り方が違うらしい。
また異種族間においては、どちらの種族の方法でも子供が成せるらしい。
これぞ、世界の神秘。
そして、これが一番重要なのだが、男女の性別間でしか子供を成せないのはヒト族だけであるという。
なんと脆弱な種族か、と著者が嘆いていた。
例えば、エルフ族においては、彼らの神聖なる森にて番となる二人が婚姻のダンスを踊り、その踊りが森の神々に認められれば、女役の踊り手の身体に新たな生命が宿るという。
なんとファンタスティックな。
その他、ドワーフ族にはドワーフ族の、獣族には獣族の、それぞれの生命の作り方があるらしい。
つまるところ、異種族間であれ男女ならばヒト族と相手の種族の二つの方法で子供を作ることが出来るというわけだ。
それが同性同士の場合、ヒト族の方法では子供は成せないが、相手の種族の方法を取るならば子供を宿すことが可能になる。
流石はびーのえるに特化した世界といったところか。
ヒト族以外の種族においては、例え同種族であったとしても、性別に関係なく恋愛が出来るのだから。
うむ、この世界はハッピーゲームだったようだ。
だからこそ、エドワードの攻略対象者たちの中にヒト族はいなかったのかもしれないな。
ご都合主義、万歳!
なんと住みやすい今世なのだろう!!
最後に私は書物から顔を上げて、ジャンに向かって一言だけこう述べた。
「次の王妃は、クリス様なんだな」




