ジャンの嫉妬。
「兄上! セシリアと婚約したと聞きましたが、一体どういうことですか?!」
僕はセシリアからの手紙を手に、学園へと乗り込んだ。
王城に住む僕にとって、王都にある学園などほんの目と鼻の先なのだ。
僕の言葉に兄のエドワードは、にっこりと微笑んだ。
昔はコンプレックスを感じながらも、裏表のない兄は、どこか憎めない人だと思っていた。
だが、ここ最近は、いいや、セシリアが関わる話だけ、どうにも昔の兄はいないように思う。
なんだか、何を考えているのか分からない笑顔をするのだ。
まとわりつくような、溺れてしまうような、そんな笑顔を。
「どういうことも何も、そういうこと。俺とセシリアは、婚約したんだ。つい先日、国王と王妃にも宣言したから、今頃ブラッドレイ家にも文が届いているはずだよ。王子妃教育のために、王城に住むようにって」
「……っ」
何も言い返せない僕は、いつの間にか手紙を握りしめていた。
セシリアの綺麗な文字が綴られたそれは、僕の心みたいにくしゃくしゃになっていた。
婚約なんて冗談じゃない!
そう叫びたかった。
セシリア、君は兄上のことが好きだったのか?
そう問いかけてみたかった。
だから、手紙の返事なんて到底書ける心情ではなかったのだ。
それなのに、数日後、兄上の宣告通り、王城にやって来た彼女は相変わらずの無表情で、僕に言うんだ。
「ジャン、手紙の返事がなかったが。体調でも悪かったのか?」
「いや。……それより、兄上と婚約したって」
「あぁ。そのお陰で、王城に住むことが出来るのだからな、感謝している。やはり、王都の方が資料も人脈も良いものが沢山あるだろうからな。それで、まずはトランプというものに関してだが、」
「それだけ?」
「それだけ、とは?」
「兄上との婚約に関してのこと、というか」
「あぁ、心配しなくても良い。私が学園を卒業する頃には、破棄されているだろうからな。私とて、国を放って中央地に旅をするつもりはない」
「……それなら、どうして婚約したのさ」
「エドワードは、大層可愛らしいからな。不埒な者たちを少しでも出さないようにする為の措置だ」
そんなことを至極真っ当に言うものだから。
何一つ気持ちの通じていない兄上が、少しだけ憐れに思えた。
「そっか」
「何だか、嬉しそうだな」
「そんなことないよ。それより、その中央地の開拓なんだけどさ。僕も一緒について行って良い?」
「本当か? それは嬉しい。誘うかどうか迷ったんだが、やっぱりジャンは王子だから、あまり無理は言えないと思ってたから」
「あはは、そんなこと考えてたの? 今更だよ。それに、僕とセシリアの仲なんだから。ここまで一緒にやって来て、旅は行けないって悲しいだろ?」




