ロリコンとマッチ売りの少女
タイトルから感じるハッピーエンド臭
雪の降る季節。
仕事を終わらせて、雪の上を歩いてると、声が聞こえた。
「マッチいかがですか?」
か細い声だった。
声のほうに振り向くと、そこには小さな女の子が一人。
明るい黒髪を腰まで靡かせ、腕には籠を掲げている。
印象に残るは、女の子の眼だ。
エメラルドグリーンの瞳をしている。
それは、とても儚げな瞳だった。
「あの、マッチいりませんか?」
「え? あ、いや……」
急に話しかけられて、思わずどもってしまう。
近くでよく見たら、将来有望な子だと思った。
そして何よりすごく背が小さい。
平均よりも少し下だろうか?
「やっぱり、いらないですよね……」
誰も買わないだろう。
今ではライターやジッポがある時代だ。
今更マッチを買う人は少ないだろう。
買う人だって、スーパーやコンビニで買うに決まっている。
そこで女の子のお腹が鳴った。
「うぅ…」
「お腹空いたの?」
「……はい」
膝を曲げて、目線を合わせて問いかける。
女の子は素直に頷く。
「丁度そこにレストランあるから、入ろうか」
「私、お金持ってないです」
「大丈夫。奢るよ」
「そ、そんな! 申し訳ないです!」
「大丈夫。さあ、行こう」
女の子の手を優しく握り、お店の中に入った。
☆☆☆☆
「飲み物は、ココアとコーンスープ、どっちがいい?」
「えと、ココアで」
「了解」
冬季限定のおすすめメニューを二つ選び、女の子に話しかける。
「それで、君の名前は?」
「リアです。野村リアです」
「俺の名前はコダイ。高町コダイ」
「コダイ、さんですか?」
「そうだね。それでいいよリア」
「はい」
女の子──リアは恥ずかしそうにはにかむ。
「リアは、どうして今どきマッチなんかを売っていたんだ?」
「えっと……、実は──」
そこから話は、とてもひどい話だった。
父親がギャンブルで大赤字。
母親は父親のストレス発散のために数々の暴力。
リアは母親を助けるために庇うと、顔を叩かれて家を追い出される。
せめてものの抵抗として、母親はコートとマッチを渡したようだ。
まともに暖を取れるものが無かったらしい。
「昼過ぎからずっとあそこにいて、コダイさんにこうしてご飯をご馳走になり、とても感謝しています。ですけど、これ以上お手を煩わせるわけにはいきません」
「……そっか」
「今日は本当に、ありがとうございました。この恩は忘れません」
「……ああ」
「私はこれから、一人で生きていきます」
「当ては、あるのか?」
「ありません。こんなご時世です。助けてもらうことなどないと思います。一人で、衣食住を作らないといけません。本日は本当に、ありがとうございました」
そう言って、静かに立ちあがる。
俺は咄嗟に、その腕を掴む。
「?」
「当てはない。衣食住もない。現金もない。そんな状態で、女の子一人で生きていくなんて無理だ」
「ですが、私にはそれしか残っておりません」
「だったら、俺のところに来るといい」
「えっ?」
俺の言葉に、心底驚くリア。
無理もない。おまけに、初対面の男の家に上がり込むなんて、ほぼ自殺行為だろう。
「で、ですけどそれは……っ!」
「ウチなら、衣食住だって揃ってるし寒さも凌げる。どうかな?」
「そんな、そこまでお世話になることなんてできません」
「俺だって世話ができるなんて言っていない。だから、これは等価交換だ」
「等価、交換……?」
「ああ。俺は君に衣食住を提供する。その代わり、君は俺の身の回りのお世話をする。どうかな?」
「……」
心が揺れているんだろう。
これからの自分の人生が、どれほど悲惨かわかっているはずだ。
しばらく葛藤を続けたリアは、
「お願いします」
そう言って、頭を深く下げた。
☆☆☆☆
リアが我が家に来て一か月。
彼女は順調に回復している。
「コダイ、晩御飯は何が食べたい?」
「そうだなぁ。リアの作るご飯はどれも美味しいからな」
「も、もう! おだてても何も出ないよ」
「ご飯なら出るじゃないか」
服を着替え、玄関に立つ。
そこで、リアが近寄ってくる。
「ちゅっ。いってらいってらっしゃい」
「行ってくるよ」
たったひと月で、親交がかなり深まった。
家事全般を引き受けてくれるため、かなり助かっている。
本当に、あのとき助けてよかったと思う。
ただ、身の回りの世話に、夜のほうも入ってるとは思わなかった。
しかし、彼女が来てから、毎日が充実しているように思える。
幸せとは『今』なのかもしれない。
玄関を閉めながら、俺はそう思った──
Merry Sabisimas