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下校時刻。それは、学生達が勉強という鎖から解放される時。それと同時に、学生達の一番気が抜ける時でもある。
しかしここ、蓬莱学園の生徒達は違った。汗もかかず、優雅に「ごきげんよう」と挨拶を交わし、帰路についている。……一部の生徒を除いて。
「ふぁぁ! やっと終わったぁ!」
「あー……。ボクは早く家に帰りたい……」
「何を言ってるんだ、ゆぅ。今日はあの場所に行く予定だろう?」
「……そうだった。忘れてた」
千秋が言う、あの場所というのはー。
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「来たぜっ! 我らの聖地、アニメイトっ!」
琴羽達3人は、おしゃれなカフェ……には行かず、ヲタクの聖地、アニメイトへ直行していた。千秋が言うあの場所というのは、アニメイトのことだったのだ。
「ふ……ふふっ。ここが、オアシス……!」
「こと。キモイ。顔が」
優月の辛辣な言葉が琴羽の胸を貫いた……が、そんなことでへこたれる琴羽ではない。
「ゆーぅー、キモイなんて言うなよー!」
琴羽はそう言うと、優月をぎゅっと抱きしめる。腕の中にすっぽりはまる優月に対して「はぁ……!ロリ最高っ……!」と、呟いた。即座に否定されるが、そういうツンデレな所も好きだ! ……と、思うのだった。まぁ、さすがに次そんなこと言ったら本気で怒るだろうから言わないが。
「私達は、もうこのやり取りに慣れてしまったけど……学園の生徒達がことのこんな姿を見たら、みんな泣いてしまうかもしれないね」
「……え? 何で?」
琴羽は心底不思議そうに聞いた。
「こと、知らないのか? お前、学校で『蓬莱学園のかぐや姫』って呼ばれてるんだぞ」
「……まぁ、実際は『蓬莱学園のかぐや姫(笑)』だけどね」
口を開かなければおしとやかなお嬢様なのだが、残念ながら口を開いてしまうので、結局、残念美少女なのだ。それは、他の2人にも言えることである。
「私のことを誰が何と呼ぼうが関係ねーよ。……そんなことよりさぁ、何なのこのガチャガチャ⁉ 私の推しが全然出ねぇ……!」
そう言いながら、琴羽は財布に手を伸ばす。ちなみに、これで11回目になる。琴羽の横には缶バッジが山のように置いてある。
「ことの財布はブラックホールなのかい……?」
千秋は呆れ半分感心半分というように、「両替に行ってくるであります!」と言い残して、両替機に向かってダッシュしていった琴羽の後ろ姿を眺めた。
「……ちあ。あいつが帰って来ないうちにボク達もガチャガチャ、やるぞ」
「そうだね。そうしないと、ことに全部取られてしまうよ」
……笑えない冗談だった。というか、琴羽だったら全部取りつくすだろう。……とまぁ、そんなことはさておき。優月は見事な強運で、無事に推しの缶バッジを手に入れた。
そして、千秋がひくと……。
「……あれ?これってもしかして……」
「あぁ。もしかしなくても、ことの推し……だな」
優月がそう呟いた瞬間、2人は背後に凄まじい殺気を帯びた何かがいることに気が付いた。その何かは、言うまでもなく琴羽だった。
「ガッッッッデム‼ 何で私の時に出ねぇんだよっ⁉」
その狂乱ぶりは、定員も引くほどだった。
……まぁ結局、千秋の缶バッジと琴羽の缶バッジを交換することで、事態は収まった。
後にこの事件を、『かぐや姫乱舞事件』と呼ばれた……なんてことは無かった。




