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そこはまるでお城のようだった。
真っ白な壁に赤い三角の屋根、中庭には噴水と立派なバラ園がある。女の子なら、一度は憧れるような要素をぶち込んだ学園。名を『蓬莱学園』という。この学園は、有名なお嬢様学園……と言ってもただの金持ちの集団ではない。生徒全員が偏差値70以上の成績優秀者、さらに顔面偏差値も物凄く高いという漫画や小説のように完璧な学園なのだ。
そんな学園の中でも飛びぬけて完璧なお嬢様が存在していた。
雪のように白い肌。そよ風が吹く度に、さらさらと舞う漆黒の髪。華奢だが、凛とした佇まい。その少女は、誰がどう見ても美少女だった。
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「榊原様が通るわよ!」
「あぁ……今日もお美しいわ……!」
蓬莱学園の生徒の注目を集めているのは、高等部3年の榊原琴羽だ。この少女、琴羽が、蓬莱学園の中でも飛びぬけて完璧なお嬢様だったりする。琴羽は周囲の視線を物ともせずに、昇降口へ向かい下駄箱を開ける。すると、雪崩のように手紙が溢れ出てくる。これは、日常茶飯事だから気にしないが手紙を拾いながら琴羽は思う。
―ここって、女子校だよね……?
とりあえず、拾い集めた手紙を鞄に入れて教室に向かう。……さて。ここまでの言動を振り返ってみて、皆さんは琴羽を普通の人間だと思うだろう。しかし、琴羽にはとある秘密があった。
「おぉ。こと、おはよ」
「おはよう、こと。清々しい朝だね!」
この2人の少女は、琴羽の幼馴染で親友だ。上から順に、哀川優月と一ノ瀬千秋という。2人共、琴羽とは違ったタイプの美少女である。
「あぁ、おはよう。ゆぅ、ちあ」
琴羽は、挨拶を返しながら沢山のバッジやキーホルダーが付いたリュックを置いた。
ちなみに、3人はそれぞれを琴羽はこと。優月はゆぅ。千秋はちあ、というニックネームで呼び合っている。この2人も琴羽と同様に秘密がある。
「……そういえば、昨日のアレ見たか?」
優月がそう言った瞬間、琴羽と千秋の目の色が変わった。千秋は、頬を紅く染めながら興奮したように。琴羽は、机をバンッバンッと叩き、身を乗り出してこう言った。
「もちろん見たさ! まさかあんなことになってしまうとはね」
「ミカエル様、超かっこよかった‼」
…そう。アレというのは、彼女たちが見ているアニメのこと。
お察しの方もいるだろうが、彼女たちは超が付くほどのヲタクだった。




