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異世界転移すればそこは玉座への階段だったりするし  作者: 魚座スプーン
第4章 冒険者になろう
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037 魔物の世界と恐れられているが意外に豊かな森らしい




 夜が明けた。

 土壁の上に跳び乗って周囲の魔力を探ってみる。


 魔物や獣がたむろした痕跡もない。魔物除けの〈威圧〉は少ししか使ってなかったけれど問題なかったようだ。土壁を東側だけ消去して家を明るくする。

 昨日の午後はずっと〈跳靴カルセリタス〉を履いたままだったけれど、俺の魔力に変化はなかった。ただ、動いていなくても効果が出ているようで、履きっぱなしは不味い気がする。身体がスポイルされてしまうかも。


「今日も頑張って冒険者するよー」

「おー」


 ゆっくりと支度をして家を出る。レティネの家具類は収納させる。消去した土壁を復元。ざらざらした土壁は外から見ると先住民とかの遺跡みたいだ。こんなものが森の中にいきなり現れたらビックリだろう。しかし少し離れると木々に隠れて見えなくなった。


 今日はこの家を拠点にして南と西を散歩、じゃなくて探索する。


 飛竜のジョーロに乗って飛び越えた森と違い、ここは普通の動物と魔物が混在している。もっと奥へ行けば魔物ばかりになりそうだけど。まだこの辺りにはそれほど強力な魔物はいないようだ。


 昨日、ゴブリンやトンボの魔物、ヤドリギの魔物と遭遇したことで、魔力感知の精度が少し上がった。

 それでも相変わらず魔力の弱い鳥や獣には気付きにくい。肉食獣に待ち伏せされる、なんてこともあるかも。探知用の〈魔力糸〉も常時全方位大規模展開というわけにはいかないのだ。魔力は十分でも、長時間の集中に頭がついていかない。

 実際、森の小鳥や小動物もレティネが先に見つけてしまう。注意力では幼女に劣る俺。

 今は魔力感知を鍛えていくしかないな。


 なるべくレティネを自分の足で歩かせて体力作り。疲れたら肩車、大きく移動するときは背負う、という基本パターンで探検する。

 ギルドでもらった地図にボールペンでポイントを書き込んでいく。〈妖精座〉やゴブリンとの遭遇場所、野営地などをマッピングする。ときどき幼女様の興味を引くものがあると進路がぐねぐねするが、許容範囲だ。精度が今ひとつだけれど、迷ったときもこういう記録があるのとないのとでは大違いらしいし。

 それに冒険者気分も満喫できるしね。


「パパー、はちさんがー」

「大丈夫だよー。じっとしててねー」


 午前中だけで、ゴブリン十一匹、ジャイアントベアー二匹、グランリベル二匹、スイートホーネット数十匹と遭遇した。

 ゴブリンは三つのグループと遭遇。すべてを殺した。逃がすと大きな群れを連れて戻って来るような気がするし。よく知らないけど。

 やはり服を着たゴブリンはいなかった。なんかイメージが違う。別に腰布が見たいわけじゃないけどさ。


〈ジャイアントベアー〉というのは、いつかのクマさんだ。最初の一匹は一目散に逃げていったが、二匹目は襲ってきたので倒し魔石だけ回収した。毛皮はあまり価値がないらしい。

〈グランリベル〉は昨日のトンボの魔物。俺には蚊の魔物にしか見えない。頭から突き出た口吻が血を吸う気満々だし。けたたましい音を立てて飛んでくるので簡単に対応できる。もっと静かに飛ばないと獲物に逃げられるんじゃないか。

〈スイートホーネット〉は猫くらいの大きさの蜂だ。クマさんを倒した直後に襲われた。クマさんが狙っていた蜂蜜たっぷりの巣もあった。高さ二メートルの洋梨形の巣で、下三分の一はほとんど蜂蜜袋だった。ギルドの資料(複製)によると大人気食材のため高値で買い取ってもらえるらしい。レティネと二人で舐めてみたところ、めちゃくちゃ美味かったので自家用に決定。もっと見つけたい。


 どの魔物も〈魔力弾〉だけであっさり倒すことができた。

 クマさんこと〈ジャイアントベアー〉はこの中では一番強い魔物みたいだ。




「パパー、あったよー。ほらー!」


 レティネが馴染みのある木の実を見つけた。

 レメドの実だ。とくに探してたわけじゃないけどな。これってめずらしいはずなのに。縁があるのかね。

 ドライアドのいた森で見つけたのより小ぶりだ。赤と青の実が無数に混じり合っている。魔物が好んで食べそうなのに手つかずとは。幸運なのかな。複製できるからとくに必要でもないが、ギルドならいい値段で買い取ってくれそうだ。


「赤いのと青いのは別の袋に入れるんだよ。つぶさないようにねー」

「わかったー」


 レティネがやる気なので任せることにする。レティネの背丈だと低い場所の実しか摘めないから、採り尽くすこともないはずだ。


 それより俺は別のことが気になっていた。

 木々が不自然に倒れているところがある。下生えも潰されている。巨大な石の玉でも転がせばこんな感じになるだろうか。浅い渓谷から斜めに上ってきて、低い尾根まで続いているようだ。まるで通り道だ。

〈魔力糸〉を渓谷と尾根の両方に向けて延ばしてみる。

 渓谷を渡った先は拠点の家がある方角だ。五百メートルほど先で尾根の方に違和感があった。デカい魔物がいるようだ。


 指先だけでなく唇まで紫色になっているレティネを背負い、倒木をたどって尾根を目指す。




 二つの岩塊でできた天然のゲートを抜けると、辺りに強い魔力が満ちていた。

 尾根の腹に潜るように口を開けた洞穴から漏れ出ている。明らかに生き物が掘り進んだ洞穴だ。大きい。入口の直径は三メートルを超えている。


 内部を〈魔力糸〉で探る。

 魔物がいる。長さがゆうに十メートルを超える四足の魔物だ。一匹だけなので誘い出してみようか。

〈魔力糸〉に沿って小さな〈魔力弾〉を撃ち込む。

 魔物の魔力がわずかに脈動する。だが、それだけだ。ちょっかいを掛けられていると気付いていないらしい。

 さらに二発、最低速で撃ち込む。

 ようやく攻撃に気付いたのか洞穴を這い登ってくる。


 ――ズザザザザザザザリザリ!――


 砂利道で盛大にスライディングするような音を響かせて、そいつが姿を現した。


「へぇー!?」


 なんというか、派手というか、綺麗なブルーだ。

 平べったい頭は幅が二メートルもあり、瑠璃瓦みたいな鱗で覆われている。凄く硬そうだ。頭の両端にある眼は、赤い種の入った水晶球みたいだ。そして鱗の間からサイズのまちまちな透明なスパイクが短い角のように突き出ている。


 俺たちは岩場の陰に隠れていたが、魔物はしっかりこちらに顔を向けている。

 視覚に頼らない感知力があるのだろう。


 ――ゴオオオッ!


「わっ!」


 まさかの大ジャンプ。

 鈍重に見えた魔物がいきなり跳び掛かってきた。

 後ろに跳躍して逃れる。

 魔物に体当たりされた岩が砕け散った。


 俺たちに向き直った魔物に〈魔力弾〉を放つ。

 ジョーロならひれ伏してお漏らしする威力だが、ちょっと怯んだだけだ。

 魔物が蝦蟇口がまぐちをゆっくりと開く。口の中にも氷柱のように透明な歯が並んでいる。

 魔力が渦巻くのが分かる。

 ブレスっぽいものが来るのかな。


 試しに浴びてみる、のはさすがに危険過ぎるよね。

 爆裂する〈火球〉で仕留めるつもりだったけど、相殺されそうだ。

 威力マシマシの〈魔力弾〉に変更。

 無防備な魔物の口めがけて、連続で撃ち込んだ。




 綺麗な鎧で覆われたオオサンショウウオ、って感じだな。


 横たわる巨体は迫力満点だ。この魔物はギルドの資料(複製)によると〈モールサーペント〉あるいは〈デュラムサーペント〉というらしいが、鱗が青いとか、角や歯が透明とかの記述はない。別種か変異種かもしれない。鱗も歯も骨も内臓も魔石も高値らしいから、このまま埋めてしまうのは惜しい。せっかく無傷だし。

 とはいえ新米冒険者があっさり倒していい魔物じゃない。このまま売りに出すと騒ぎになるかも。

 こっちがちょっかい出さなければ無害だったかもしれない。ちょっと罪悪感が残るな。襲われたので仕方なく、とはとても言えない。ここは、お宝ゲットだぜー、と叫んでごまかそう。


 というわけで――


「レティネのあねさん。――お願いしやす」

「わかったー」


 収納完了。

〈ポケット〉がなければ持ち帰ることもできないけどな。


 瑠璃色サーペントの巣穴を調べてみる。人骨が散乱しているということもなく、がらんとしているだけだった。ちっ、悪行の証拠は見つからないか。逮捕してから証拠を探す、ドラマの悪徳刑事みたいだな。


「パパー、これきれー」


 掘りかけの脇穴のひとつに、ボウリングのボールみたいなものがたくさんあった。乱雑に転がっている。サーペントの鱗と同じ青色で、金色の波紋がマーブル模様になって浮かんでいる。これ、金なのかな。黄銅鉱というオチかも。

 卵にも見えるけど魔力は感じない。


 気に入ったのか、レティネが抱きかかえて撫でなでしている。ちょっと重そうだ。


「――こ、これも持っていく?」


 嬉しそうに頷く幼女様にはとても言えなかった。

 これたぶん、ウンコだよ、なんて。




 帰り道、二人で草笛を吹いたり、木の葉で笹舟もどきをたくさん作り、花をのせて渓流に流したりして遊んだ。小学生の夏休み自然教室のノリで過ごした。ぶっちゃけ気を緩め過ぎである。


 拠点に戻り、レティネがインテリアの新アレンジに没頭している間にパンケーキを焼いてみた。この世界にもふくらし粉、いわゆる重曹がある。クセがあるので入れ過ぎると味が落ちるけれど、ちゃんとフワフワした菓子が作れる。


 今日採った蜂蜜をかけてレメドの実のトッピングで食後のデザートにしよう。

 レティネも喜ぶだろう。




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