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異世界転移すればそこは玉座への階段だったりするし  作者: 魚座スプーン
第4章 冒険者になろう
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032 道中に癒しを求めるのは間違っているだろうか




 馬の首筋を撫でなでしていた。


 桶にたっぷりの水を飲ませる。乾いた草束の飼葉をもりもり食べさせ、林檎を好きなだけ齧らせ、手から塩も舐めさせる。仕上げはブラッシングだ。

 ブラッシングはむしろ俺のためだ。

 俺は動物をモフモフしたいのだ。


 ロタム氏の馬車のときは魔力が漏れていたのか、飛竜ワイバーンの匂いが残っていたのか、馬が俺を敬遠して触らせてくれなかった。

 今は馬の世話もできる。ふっふっふ。

 馬も喜ぶんだよ。生き物はちゃんとリアクションがあるから楽しいよね。お馬さんもかわいいのう。


 魔法袋の口よりデカい桶が出たり、なぜか既に水が入っていたり、飼葉や馬ブラシまで出てくるのを見て、ケインが首を傾げているが気にしない。まだ常識の範囲内だ。たぶん。


 ちょっとだけ馬臭くなったけど、俺は大満足だった。




 本街道に合流する丘の麓で昼食。


「アラタ。ちょっと腹ごなしに手合わせしないか?」


 食後のお茶を飲んでいると、ケインが木の棒を差し出してきた。


 昨夜の事があるからだろう。

 シャドーウルフのときは飛竜ワイバーンがいたし、俺がやったのは薬師の真似事だけだ。小器用な生活魔法を使う薬師見習いの少年、ということで納得してもらっていた。

 しかし、荒事のプロ三人をロクに動かない身体で無力化、というのはさすがに尋常じゃないと思ったのだろう。


「俺は剣術の経験、ないんですが――」

「だったらなおさらだ。昨日の技を使ってもいいから。もちろん手加減はしてくれよ」


 ゼクリスやアーカムだけでなくレティネまでわくわく顔なので断りにくい。大道芸的なモノを期待されても困るよ。地味過ぎてガッカリするよ。


「じゃあ、これを使いましょう」


 俺は魔法袋から出すフリをして、武器屋で見かけた木剣を二本複製した。刀身が八十センチ、幅は十センチ以下の練習用の剣だ。軽いけど重心のバランスは悪くない。

 ケインは木剣を受け取ると軽く振ってみて頷く。


 俺はケインから五メートル離れて立つと、体育の授業でやった剣道の構えをとった。これしか知らないし。


「おれが受けきるから、アラタは連続で打ち込んでみろ」


 短槍使いのケインだが剣の構えも様になっている。ほんとうにベテランぽい。

 シャツの上に肩と胴が一体になったいつもの革鎧を着けている。要所のみを保護する軽装鎧の一種だ。そして厚手のズボンと革のブーツ。

 俺は制服のズボンとシャツ。ジャケットは着ていない。防具は無し。マジ紙装甲(ディフェンス)


「では」


 俺は馬鹿正直に真っ正面から急加速し、その速さのまま真上から剣を振り下ろす。


「「うおっ!?」」


 ゼクリスとアーカムから声が上がる。予想以上の速さなのだろう。

 そのあたりは自分では分かりにくい。あまり人間離れしてたら困るな。

 ケインも目を見開くが、とっさに斬り上げて木剣を弾く。

 俺は動きを止めることなく、さらに脇腹を狙う。

 ケインは飛び退いて間合いを外しつつ、剣を立てて防ぐ。

 俺はさらに踏み込み、速度を殺さずに木剣を大きく回して、反対側の胴に打ち込む。

 さすがにケインも体勢を崩し、剣を戻すのが精いっぱいだ。

 かん、こん、こつーん、と乾いた音が響く。


 俺は一旦下がって距離を取り、再び構える。


「おどろいたな。追いつくのがやっとだ」


 ケインが、ふうと息を吐く。


「でも、速いだけなんですよ。技とかないですから」


 実際剣道の授業の型をなぞっただけだ。速さが全然違うだけで。

 筋力もあるから制動もできている。でなければ速度でたいが崩れてしまうだろう。


「じゃあ、こんどは受けてくれ」


 じゃあ、じゃないよ。受け方くらい教えようよ。


 ケインが地を滑るような歩法で斬りかかってくる。

 小さな斬撃を木剣をそわせて受け流す。

 すぐさま次の打ち込みがくる。小刻みな攻撃のくり返しで受けるのも忙しい。一撃必殺ではなく、相手の余力をどんどん削いでいく戦い方だ。

 ヒジ打ちやヒザ蹴りも交えてくるのには参った。そのたびに身体をひねって避ける。受け手ばかりが動かされている感じで、だんだんキツくなるんだろう。本当なら。

 今度は木剣を打ち合う音がほとんどしない。

 剣を受けるのではなく、いなしているからだ。


「気付いちゃいたが、体力も、相当だな。――息も上がって、ないのか」


 言っているケインのほうが息が荒い。


「動きは隙だらけ、だが、対処が早くて、攻めきれん。修行すれば、すさまじく、強くなるんじゃないか」


 褒め言葉とは裏腹に、ケインは重心を落とし、低く木剣を構えると不敵に笑う。


「今から全力で、斬りかかるから、おれにケガさせずに受けてみせろ」


 むちゃ振りキター!

 それもう腹ごなしレベルじゃないし。


「パパしっかりー」「パパしっかりしろよー!」


 幼女様のまだ満足してないよエールがくる。

 ゼクリスとアーカムは拍手までしてる。


 ケインはふらりと加速して、もぐり込むように迫ってくる。

 さほど速くないが、受けにくい角度で横下からの斬り上げがくる。

 対応に迷う俺の木剣が受けに動いた瞬間、ケインの斬り上げがいきなり突きに変化する。さすが槍使い。鋭さが一段上がっている。


 マジすか。俺、素人ですが。


 やむを得ず怪我のない方法をとる。

 弱い〈魔力弾〉を射出。

 弛緩したケインの手から、木剣をかち上げて弾き飛ばす。

 勢い余って地面にダイブしそうなケインの後ろを取り、羽交い締めにして止める。


「ケイン、大丈夫ですか?」

「――おう。今のは?」

「魔力を相手にぶつけて動きを止める。昨夜もこれを使いました。――奥の手ですよ」

「一瞬だが、まったく力が入らなくなった。すごいな、土壇場でやられると対処できないぞ」


 キメの攻撃に出た瞬間に〈魔力弾〉を喰らったら、下手をすれば自滅するかもしれない。やられる方からしたら、かなり恐ろしいな。


「よーし。次はオレだな」


 いや、もう出発しようよ。それに木剣じゃなくて自分の戦斧を構えてるし。


「いや、ゼクリス。出発する。楽しみはあとにしとけ」

「ちっ。おいアラタ、逃げんじゃねえぞ」


 えと、意味が分からない。

 これってリーダー決定戦とかじゃないよね。





 馬車馬のくつわを引きながら、舗装された街道を行く。

 盗賊三人は客席に転がしたままだ。脱水状態になるかもしれないが自業自得ということで。


 日が傾きコリスの町が見えてくる。

 追い抜いていく馬車や、俺たちに追い抜かれる荷馬車もある。

 混雑時間のようだ。

 朝方は町を出発する者が多く、夕方は到着が多い。半端な野宿は危険なのだ。盗賊とか出るしね。マジで。

 コリスは平原の町で、いかにも宿場町の風情だ。街道沿いに宿屋が軒を連ねている。防壁はないが、広い馬場と兵舎からなる領軍の駐留地がある。


 門前で馬車を止め、盗賊たちを回復させる。

 リージャさんと馭者の男はぼーっとしていたが、ホーハはぎゃあぎゃあ騒ぎだした。うるさいので縄で猿ぐつわして馬車を下りた。後は馬車ごと任せてしまおう。

 馬を撫でなでして林檎を齧らせる。お前は元気でな。


 盗賊の持ち物は退治した者がもらえるらしいが、盗品ばかりだろうからそんな気になれない。リージャさんが干したレメドの実を持っていたが、これも証拠品として差し出すことにした。金銭はいくらも持っていなかった。だいぶ追い詰められていたのか、どこかに隠し場所があるのか。

 門兵が十人ほど出てきて馬車を引いていく。


 屯所での調書作成に時間を取られたけれど、レティネを除く全員でサインをして完了。証拠品をまるごと提出したので心証がよかったようだ。

 リージャさんことシーラクは、やはり懸賞金付きだった。広域の手配書が出ていて金額の算定にかなり日数がかかるそうだ。証書を渡され、後日あらためて受け取りに来ることになった。当座の報奨金は盗賊三人で銀貨九枚。これはどんな大物でも小物でも同じらしい。


 懸賞金は公の機関が出すことはほとんどなく、民間の有志が出し合うそうだ。

 どうしても犯人を許せない者が、犯人を追い詰めるために支払う。怨みを多く買う犯罪者ほど懸賞金の額が大きくなる。コソ泥なのに高額の懸賞金が付くこともあるらしい。もしかすると賞金稼ぎのような商売もあるのかもしれない。

 さまざまな場所で犯罪をくり返すと、それぞれの地域で報奨金がプールされることになる。シーラク一味もそうだった。


 今夜の宿は〈たっぷり亭〉。〈赤斧〉もなんどか泊まっているという。


「何が、たっぷり、なんですか?」

「さあなー」


 アーカムも知らないのか。

 きっとスマイルとか、そんなゼロ円的なものがたっぷりなんだろう。


 宿の女将のツヤツヤとした豊満な笑顔を見てそう思った。




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