120 働き者なのか怠け者なのかハッキリしてほしい
「パパ、おっきー!」
はいはい。
「すごい――です、土の精霊様。こんなじゃ、なかったです――」
ヤマダも驚いている。
さすがにこんなものが森の中にあったら、冒険者なら無理にでも入ってみたくなるだろう。トレジャーハント的な意味で。
見た目は階段状ピラミッド。頂上に四角い神殿と入口がある。
そう。これはエジプトのギザではなく、メキシコにあるチチェン=イッツァのピラミッドにそっくりだった。テレビの世界遺産特番で見たから覚えているけど。
あれ?――これは。
俺が覚えている形と同じだが、それ以上ではない。
大まかなフォルムや質感は酷似しているけど、細部の仕上げや装飾レリーフはコレジャナイ感がある。それっぽいってだけだ。これを作った土の精霊ロアムは地球の歴史的建造物なんて知るはずない。偶然の産物じゃなく、俺の記憶から引き出したイメージが元になっているのか。
神様といい精霊といい、あんまり人の頭の中を覗かないで欲しい。
プライバシー無視されまくり。
ヤマダが見たときと違い地上部分には入口が見あたらない。
順当に石段を登って頂上の神殿部から入るのかな。
ここを報告した冒険者パーティーによると、ピラミッド的な構造物じゃなくて大きな石の門があったそうだ。来るたびに変化してたら怪し過ぎるな。
「どう? ヤマダ」
「はい。精霊様、いらっしゃるです」
やっぱりいるよなー。
あんまり会いたくないけど。
ピラミッドの頂上からは地平まで続く大森林が見渡せる。
けっこう気持ちいいな。
レティネも自分の足でちゃんと登れたし。
石造りに見えるけど、たぶん土を固めて色を変化させてるだけだと思う。ロアムが俺の謎土でいろいろ作ってみせたように。子供が砂場でお城を作ってみた、のノリだ。異様なほど出来がいいだけで。
ロアムがいなくなったら土の山に戻っちゃうんじゃないかな。
「慌てちゃダメだよー。ゆっくりねー」
神殿内部は吹き抜けの螺旋階段になっている。すぐに下りられる造りだ。
だったらここまで登らせるなよって思うけど。
内壁は弱い光を放っている。薄暗いというより、ほの明るい。
「魔物の気配はないね。ヤマダは何か感じる?」
「いない、みたい、です。感じない、です」
〈魔力糸〉を慎重に展開する。
螺旋階段を下りきると壁面にレリーフ装飾の施されたホールになっていた。四方に通路が延びている。〈根の森〉探索のときに見た地下構造とはまるで違っている。
「陣形は、おらが、前に出る、ですか?」
ヤマダが迷宮探索っぽいことを言うが、冒険者パーティー〈パパ〉に陣形などない。エルフと薬屋と幼女。いったいどんなフォーメーションを組めというのだろう。
「ヨコ並びで」
真ん中がレティネで右側が俺、左がヤマダ。俺とレティネは手をつないでいる。
これじゃ休日の家族連れだ。
「こっち、です」
どれも同じに見える分岐した通路。ヤマダは迷いなくひとつを選ぶ。
石造り風の地下通路は学校の廊下くらいの広さがある。
俺には精霊の存在は感じられない。魔物の気配も感じない。
まさか探知阻害の迷宮だったりして。
「おや?」
壁のレリーフ文様の連続パターンが乱れたところがある。
意図的な感じだ。小さな正方形のパネル、というかスイッチになっている。押し込むタイプのボタンだ。少し出っ張っていて質感も違う。
うーん。なんかわざとらしいな。
見上げると天井が色違いの大きなパネルになっていた。等間隔の穴がたくさんある。罠キター!
「二人は先に行って」
レティネとヤマダが離れてから、俺はボタンのパネルを押し込んだ。カチリとした感触。瞬時に二人のところまで跳び退く。
――ガラガラガラガラガラガラッ!――
無数の穴から鉄の牙を生やして天井が下りてくる。
しかし床までは届かず、牙の先端から五十センチくらいの隙間がある。これでおしまいらしい。伏せれば死なずにすむユルいトラップだ。初見でとっさに伏せる気にはならないだろうけど。
――やっぱりか。
土の精霊ロアムが作った罠だが、俺の脳内イメージが元になっているのは間違いない。この吊り天井も映画やゲームで見たものと酷似している。なんかのアトラクションだったかな。
俺にとっては、いかにもピンと来る仕掛けだ。
「きっと他にも罠があるから慎重にねー」
背後で天井が巻き上げられてゆっくりと戻っていく。
「パパ、あれー?」
床のブロックの異常をレティネが教えてくれる。
十メートルに渡って記号の書かれたブロックが、飛び石のようにランダムに配置してある。記号はすべてカタカナだ。これは順序通りに踏まないと床が崩落するヤツだ。
レティネを背負う。
「ヤマダ。俺と同じ石を踏んでついて来て。間違えるなよ」
「はいです」
俺はイロハの順に踏んで渡る。アイウエオじゃないのだよ。
ヤマダも身体能力は高いので踏み外すことなく無難についてくる。
〈跳靴〉で跳び越えるか走り抜けてもいいんだけど、一応確認のため。
でもこれ、カタカナを知らないと絶対正解できないよな。
壁の穴から鉄の鏃が飛び出したり、正しいロープにつかまらないと深い溝に落ちる仕掛けもあった。金色のオブジェが台座に載っていたので振り仰ぐと、大きな丸岩が転げ落ちるように設置されていた。もはや感動すら覚える。
俺の脳内迷宮おそるべし。
「わっ!?」
緊張感もへったくれもないまま通路を曲がると、いきなり魔物に出くわした。
ヤマダもとっさに弓を取り出し矢を番える。凄い早技だ。収納の腕輪を使いこなしている。
青いモールサーペントだった。
もぞもぞと短い脚を動かし、十メートル級の巨体が広間の真ん中で向き直る。見た目は鈍重だが瞬間的な動きは速いので要注意だ。本物なら。
『アエルよぬき――』
「待てっ!」
俺はヤマダの詠唱を止めた。
「こいつは魔物じゃないよ。――ほら」
俺が弱い〈魔力弾〉を撃ち込むと、全身がぐずぐずと崩れて土塊に戻った。消去もできたので俺がロアムに与えた謎土で間違いない。
土製の動く実物大魔物フィギュアだった。
これほどの魔物がいて俺が気付かないはずがない。魔力が微弱過ぎた。
対人用のコケ威しなんだろう。魔物相手には意味がないし。
下の階層ではオークの小集団とジャイアントベアーに出くわした。
オークにヤマダが矢を放ってみたが、ズボリと突き刺さるだけで、何のダメージもないようだ。矢を消去すると、すぐに穴が塞がり元に戻った。急所がないから本物より倒しにくいかもしれない。
土の魔物たちは本物そっくりに動き回るものの、とくに襲ってくることもないので以後はスルーした。
「おうちだよー、パパー」
レティネが走りだす。
家があった。一軒家が。大きな石室の中にすっぽりと、いつも野営に使っている二階建ての家が復元されていた。
家の中もそっくりに再現。
ひとつだけ違うのは、箱が置いてあることだ。一階のリビングにぽつんと。豪華な装飾の箱が。目立ち過ぎて違和感しかない。金ぴかだし。コンビニとかにあるアイス用冷凍庫くらいの大きさだ。
「これは、宝箱だよな?」
「開けてみる、です?」「パパ、あけてー」
二人がワクワクしている。
スルーという選択肢はないよな。魔力から見て、ミミックとか罠とかの可能性はなさそうだけど。
「きれー」「すごい、――です」
開けてみた。カパッと蓋を取った。
金銀宝石の装飾品がみっしり詰まっていた。
ここだけ古代黄金文明展開催中だ。
粒金だか線条細工だかの技法がふんだんに使われた、王冠やらメダルやらバックルやらがある。黄金の鞘に納まった宝剣とか、ホーリーなグレイルらしきものもある。どれも宝石が惜しげもなく嵌め込まれている。
まさに、ぼくがかんがえたすごいざいほう、だった。
まあでも、それだけなんだけどね。
しかし、宝箱を民家のリビングに置くのはちょっとな。
せっかく迷宮風なんだからそれらしいセッティングにして欲しかった。
レティネとヤマダが楽しそうに物色している。水を差すのは後にして休憩にしよう。
「きえたー」「土になった、です」
俺が軽く魔力を乱すと、黄金の王冠が一瞬で土に戻った。
「ロアムが精霊の力で作ったんだよ。ここから持ち出してもきっと土に戻っちゃうよ」
持ち帰り不可だ。
精霊の力は不思議だ。
ごく微細な魔力で大きな干渉力がある。異常に効率がいいみたいだ。反面、即時性や永続性には頓着しない。魔族や人間の魔法とは何かが根本的に違うようだ。
◇◇◇
「ただいまー」「ただいま、です」
いや。ただいまじゃねーよ。
三階層目の地下通路を進むと〈ユリ・クロ〉の一階があった。さすがに驚いた。
マヤさんと店員たちはいない。商品類は再現されていた。
そういえばロアムが俺の中にいたとき、〈界門〉の検証で〈ユリ・クロ〉を覗いたことがあったっけ。この迷宮はロアムがいる間に俺が脳裏に浮かべたイメージがベースになってるのかな。
ピラミッドも、ロアムが潜んでいた石棺の文様を見て、古代文明とかの絵文字を連想したからかもしれない。ピラミッドも、あのとき思い浮かべた気がする。
トラウマに関わるようなことは考えないようにしないとな。
入院病棟とか再現されたら、とんだ鬱迷宮だ。
一階の店舗部分の奥が二階の居住階だった。
意味が分からない?
でも合ってる。一階と二階が同じフロアーってことね。
ここが最後の部屋みたいだ。
二階の寝室にはベッドがひとつもなくて、三つの石棺があった。
意味が分からない?
うん。俺も分からない。
「パパ。これー」
「棺だね」
「だれのー?」
考えたくもない。
大きな棺と、ひと回り小さな棺、さらに小さな棺があった。
ここまでの流れ的に、中身は想像できる。なんか悪趣味だな。
安全牌として最初はひと回り小さな棺を開けることにした。すまないな、エルフ。
重い蓋をズリズリとずらす。
「おら、です?」「やまだー?」
二人が不思議がる。
ヤマダが横たわっていた。寝ているのでも死んでいるのでもない。土の精霊ロアムが作った精巧な等身大フィギュアだ。
美しい。キスをしたら目覚めそう。しないけど。
「これレティネのー?」
「うん。開けていいよー」
さすがにレティネも中身に思い至ったようだ。
開けないという選択肢はないのかな。なんでそんなに楽しそうなんだろう。むしろイヤじゃないのかな。
蓋がパッと消える。
やっぱりレティネがいた。睫毛や服の色まで再現されている。
最後のひとつは俺だろう。
開けたくないけど、たぶんロアムはここだ。話をしないと。
「レティネがあけるー?」
「いや。自分でやるよ」
俺は石の蓋をずらす。
幼女任せはよくないしな。レティネなら最速で開けられるけど。
あれ?
ハズレだった。
空っぽだった。俺フィギュアはなかった。
なんだろう。このホッとしつつガッカリした感じは。
ハブられてるの?
作る価値もないとか?
しかし、
『アラタアラタ、イエデキタ、デキタ。ネテタ、マッテタ、ネテタ。オナカスイタ』
脳内に声が。
『――あー、よく頑張ったなロアム。驚いたよ。こんなになるとは思わなかった』
『スゴイ? ロアム、スゴイ? ウレシイ?』
『ああ凄いよ。嬉しいよ』
しっかり取り憑かれていた。
一瞬で侵入された。
プライバシーもセキュリティーもないのか俺。
脳内の精霊さんと話す痛い人になっていた。
『それで、地上のピラミッドはなんなんだよ? どうしてあんなのを?』
『ピラミッド? ピラミッド。――ハジメ、モン、ツクッタ、マモノハイッタ。ナカニハイッタ。モット、オオキク、ツクッタ、マタ、ハイッタ。――ピラミッドツクッタ、ハイラナク、ナッタ』
ピラミッドにしたら外から魔物が侵入しなくなったってこと?
それは不思議だ。あれかな。ピラミッドパワーってやつかな。
さすがマヤさん文明の遺産だ。




