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異世界転移すればそこは玉座への階段だったりするし  作者: 魚座スプーン
第10章 勇者といっしょ
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105 アンデッドの森じゃなくて森がアンデッド




 バッタの始末が終わらないうちに新手が出現。

 俊足の魔物〈マークトジャッカル〉だ。

 疾走する数十匹の群れが一気に距離を詰めてくる。

 俺は〈魔力弾〉をばら撒く。


「おおっ、ええっ?!」


〈魔力弾〉は単純な魔力の塊なので、今度はサイトウも感知できたみたいだ。

 同時に射出された数に驚いている。十発ずつは多過ぎたか。


 硬直。失速。

 ジャッカルの足が止まる。麻痺したようだ。

 動けなければ、ただのデカいわんこだ。

 タイミングを合わせたように、魔法士隊から火球と氷の槍が次々に放たれる。

 近代兵器のような轟音もなく、炎と氷柱が殺到するさまは幻想的な美しさだ。


「あれ? おかしいですね」


 氷柱槍アイシクルジャベリンで心臓を貫かれたはずの一匹が、むくりと起き上がる。いくらなんでも致命傷のはずだ。

 火球で焼かれ、耳や尻尾が炭化してしまったジャッカルも、再び走りだそうとしている。目も潰れて、酷い有様なのに。


「どうやらアンデッド化しているようだな」


 一昨日見たときより毛並みに艶がないのは、アンデッドだからか。


「どうすれば倒せます?」

「神聖魔法、いわゆる光属性の魔法を使うか、あるいは魔石を壊せば倒せる。魔石の位置が分からないと面倒だぞ」


 神聖魔法なら勇者たちが得意なんじゃないかな。

 そう思っていたら、いきなりアンデッドジャッカルが光りだした。

 勇者騎士団から光魔法が放たれたのだ。

 スポットライトに照らされるように。

 晴天なのに、さらに明るく。周囲の地面までがパアッと輝く。


 誰だろう。なんとなくだけど、フェロズらしくない魔法だ。

 一瞬戸惑ったような動きをしたジャッカルが、糸が切れた人形みたいに倒れる。

 そのままボロボロと崩れていく。


「おそらくこれはユニオレの神聖魔法だろう。なかなかやるじゃないか」


 勇者一行を見ると、確かにユニオレが馭者台に立って、両手でいんを結んでいる。ヤマダを押し退けて前に出てる。

 清絶な輝きに包まれた巫女服姿は、ヤマダと並んでも存在感で負けてはいない。

 光魔法がアンデッドや死霊系に特効なのは本当なんだな。


 俺は、動き出しそうな残りのアンデッドジャッカルに〈魔力糸〉を貼り付け、魔石の位置を探る。

 そして〈神力〉で再現した氷柱槍を撃ち込んで魔石を砕いた。

 動きの速い魔物に突破されると厄介なので、さっさと潰しておこう。

 魔石がないと体を維持できないらしく、光魔法じゃなくてもみるみる崩れていく。


「これは、誰だ?――どこから撃ってる」


 サイトウがいぶかしむ。

 発射地点が不明なのに着弾だけしてるのだから不思議だろう。


〈神力〉で魔法を再現すると予兆をまるで感知できない。

 魔物の至近に氷柱槍が現れて着弾。

 そこでようやく魔力を感じられるわけだ。魔法行使の結果しか見えない。




「隊形確認。総員前方に警戒!」


 ディボー隊長の声が響く。魔法で強化した発声だ。

 他の部隊でも同様の指示が出ているようだ。


「パパ、あっちあっちー」


 レティネが岩山の林立するヤヌア砦の彼方を指差す。


 ――森が、決壊していた。


 魔物が次々に溢れ出す。

 入り組んだ渓谷を浸食していく。


 オーガ、ゴブリン、オーク、トロル、ジャイアントベアー、シャドーウルフ。他にも初めて見る魔物もいる。

 人型の魔物はみな武装している。オーガやオークは大剣や槍を握り締めている。

 隊列こそ組んでいないが、猛り狂うこともなく進んでくる。

 軍勢は煙るような黒い霞に覆われている。


「あれって――」

「ああ。すべてアンデッドのようだ」


 魔王クランカルヴの軍勢だからアンデッドなのかな。

 でも、魔王城から見下ろしたときの群れはただの魔物だったはず。

 それにこんなに日差しがあるのにアンデッドとか。夜じゃなくても平気なの?


「正面隘路に攻撃を集中。騎士隊はマジックボルト装填。魔法士隊前へ!」


 中央の隘路に勇者騎士団が進むのを確認したディボーが指示する。

 魔物が密になる場所、砦に挟まれた地形を利用して数を減らすのだろう。

 各小隊が前後に移動する。いつか見た演習のような無駄のない動きだ。

 装填を終えたクロスボウがずらりと構えられる。


「次弾随意。――放てぇ!」


 ――シュザザザザザザザザザザッ――


 魔法が斉射される。

 山風が鋭く切り裂かれる。


 魔法士隊の魔法は直線に、騎士隊のボルトはやや山なりの軌道で襲いかかる。

 火魔法と氷魔法がほとんどだが、アンデッドに特効の光魔法も混じる。

 マジックボルトは飛距離向上だけでなく火炎や爆裂が付与されている。


 ――ドゴゴゴゴゴゴゴゴギギギギギンッ!!!――


 大地を穿つ音が轟く。

 馭者台にいるのに腹に響くほどだ。

 撒き上がった土煙が晴れないうちに、さらに斉射が続く。

 着弾域は霞んでしまって見えない。


 ――やったか?


 つい、思ってしまう。

 こういうときはそう言いたくなるもんだな、と感心したのが悪かったのか。

 最前線にいた騎馬の魔法士たちがバタバタと倒れていく。

 魔法士だけでなく馬まで。

 口には出さなかったのに、勝手にフラグ回収された?


 人馬が同時に魔力切れ?

 いや、馬が魔力切れとかないわ。


「魔力を吸われている? いかん、死霊魔法か!?」


 サイトウが叫ぶ。

 影でできた触手が魔法士たちを掴んでいた。

 土煙の中から何本も延びている。さらに獲物を求めてうごめいている。

 杖を高く掲げ、ボロを纏った骸骨がカタカタと嗤っている。

 リッチ、というかスケルトンメイジかな。

 ドレイン系の攻撃ってことね。

 ていうか、昼間から出るなよ。


 さっそく火球で始末する。

 お馬さんの仇だ。死んでないけど。

 一瞬で蒸発するレベルの高温で、魔石まで焼き尽くせば問題ないだろう。

 薄れてきた土煙の中にぎらつく白焔が現れる。

 輝きに呑まれてスケルトンが消滅した途端、影の触手がすべて消える。


「魔法士を救助。総員前進!」


 ディボーは隊を下げず、むしろ上げることを選んだ。

 それなら俺は体勢が整うまで支えないとな。


 一斉射撃はおびただしい魔物を倒したが、大軍の勢いは止まらない。

 黒く崩れた仲間の残骸を踏み散らして迫ってくる。


「あの、サイトウ様。アンデッドの魔石って回収するんですか?」

「うん? いや。アンデッドの場合は魔石が変質してるから、騎士団では回収はしてないな。そうした魔石を集めるのは、特殊な用途や研究の場合だけだ」

「どうもです」


 別に希少品ってわけじゃないのか。

 なら、消滅上等で。


 前方に幾つもの白焔が輝く。

 アンデッドの群れの中に。

 魔物がポンポン消える。間引きされていく。

 機動力のあるもの、突破力のあるものを重点的に。

 高温だからか、意外に煙が出ないな。


 魔物の勢いが落ち、崩れかけた騎士隊の配置がふたたび整う。

〈魔力糸〉を使い、気を失っている魔法士たちに魔力を補充する。自分でなんとか動ける程度に回復させる。後は頑張れ。

 やり過ぎて、オレtueee!と勘違いさせてもマズいし。


 馬たちは完全に回復させる。

 元気にふんふんと鼻を鳴らしている。

 馴れって凄いな。馬のほうが人間よりずっと簡単だよ。


 勇者騎士団のほうは光魔法の使い手が多いせいか危なげない。

 ユニオレも攻撃は騎士たちに任せて、支援と回復の魔法に専念している。勇者イグナヴと聖術士フェロズも力を温存しているようだ。

 ヤマダは魔石の位置が分かっているアンデッドオークを選んで始末している。

 騎士たちの喉笛を狙ってくる飛行型の魔物シェードファルコももれなく射落としている。ハヤブサに似た小型の魔物なので、魔法矢の一撃で粉砕されている。魔石も粉々だろう。


 俺が見ていることに気付いてヤマダが微笑む。

 余裕ありそうだな。


 一方、右翼に展開している諸候連合軍はやや押し込まれていた。

 損害もそれなりに出ている。

 それでもこの場での最大の兵数を誇るだけあって、負傷者や魔力切れの者はどんどん下がらせて戦線を維持している。士気も保たれているようだ。


「どうかしました?」


 さっきからサイトウが俺を見ている。

 じーっと見ている。ジト目寸前だ。


「なあ、アラタ。君はなにもしていないんだよな?」

「はい。何もしてないですね。すみません」


 レティネの後ろに立って、ときどき撫でなでしてるだけだ。

 まったく働いているようには見えない。

 そろそろお茶やお菓子でも出したいところだけど、一応遠慮してるのだ。

 もしかして、遊んでると思われてる?


「それにしては奇妙なことが起きてると思わないか? なんであれだけの勢いで突進してきたシャドーウルフが、接触直前になってへたり込んでるんだ?」

「腹が減った――とか?」


 急にお座りしてしまったアンデッドシャドーウルフたちに、騎士隊が止めを刺していく。


「それじゃ、あのトロールはなんで致命傷になるまでじっとしたまま、攻撃を避けようともしないんだ?」

「イタ気持ちいい、とか」

「これだけの数が押し寄せているのに、自力でここまでたどり着く魔物が一匹もいないのはどう考えてもヘンだろう? しかもこんなことは、勇者たちの中央でも諸候軍の右翼でも起きていない」


 近いから。顔が近いよ、百十一歳エルフ。

 そんなに迫らないで。落ち着けよー。


「リューパス遠征隊の損耗がないんですから、いいことじゃないですか」

「私はこれをアラタがやっていると確信してるんだが、まったく証拠が見つけられない。――まさか目の前にいながら分からないとはな」


〈威圧〉〈火球〉〈氷柱槍〉を〈神力〉で再現。ゼロ距離で。

 詠唱も予備動作も、俺自身の魔力の変動も無い。

 

 技名を叫んだりしないし、決めポーズとかあるわけでもなし。

 幼女を撫でてるだけだし。


〈神力〉を感じとれないなら、俺の仕業という証拠はどこにもないのだ。

 逆に言えば、俺の手柄という証拠もまったくない。


「偶然ということにしておきましょう。それに――」


 俺はアンデッドの森の中に、さらなる魔力の高まりを感じていた。

 何か巨大な魔物が出てくる。


「――どうやら新手みたいですよ」




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