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異世界転移すればそこは玉座への階段だったりするし  作者: 魚座スプーン
第10章 勇者といっしょ
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100 お馬さんの世話もいいかげん自重しないとマズいかも




 ささやかながらその実贅沢な、冒険者パーティー〈パパ〉風の朝食を済ませ、レティネを肩車して散歩していた。


 諸国連合軍の駐留地を子連れで歩きまわるのはどうかと思っていたのだが、軍属以外にも商人や職人、人足、綺麗なお姉さんたちも見かけるので、それほど目立たずに済みそうだ。

 果実水売りや甘味屋までいる。まるでゆるいいちでも立ったみたいだ。

 武具防具の修繕から散髪、洗濯屋。予備の下着や土産物まで売っている。

 名所案内の冊子があったのでつい買ってしまった。もちろん観光地値段だ。


 それでも当然ながら、勇者や諸候の本陣はセキュリティーが堅い。

 騎士隊自らが警護している。


「パパすーすーすー!」

「そーだねー」


 買った飴を舐めると強いミントみたいな風味がする。幼女には刺激が強いかな。眠気覚まし用の飴なのかな。


「ゆうしゃのおうち?」

「派手だねー」


 勇者のテントはひときわ大きく錦糸の装飾がふんだんに施されている。しっかり神聖国の旗がひるがえっている。いつの間に持ち込んだのかな。テント自体が魔道具らしく、防御魔法による結界になっている。

 あまり近付かないようにしよう。


「これは、――アラタ殿ではないか。先日のご支援感謝する」


 踵を返した途端、女騎士と目が合ってしまった。

 勇者の従騎士のディオラだ。湖上のマンティコア退治のことを言ってるんだろう。

 おかっぱに切り揃えた赤毛。勇者一行だけあって顔立ちは整っている。初めて紹介されたときに比べるとずいぶん気さくな感じだ。リューパス騎士団にはこんな態度じゃなかったはず。俺たちが冒険者だから少し気を許しているのかもしれない。


「ヤマダ殿の一撃は見事だったが、魔物を水に落としてくれたのはアラタ殿なのかな? おかげで船に被害もなく助かった。フェロズ殿によると、あれはヤマダ殿の魔法ではないだろうと」

「はい。差し出がましいことでしたが、お役に立てたなら幸いです」

「なんの。さすがリューパス辺境伯の切り札。凄腕の冒険者だと驚かされた」


 あれ?

 なんか評価高過ぎるんだけど。どういうフレコミなんだよ俺。


「お嬢さんも、レティネ殿も魔物に動じることはないらしいね。幼くとも立派な冒――うん? この子は、瞳が――」


 俺の頭上を仰いだディオラが驚いている。


「金色なのか。これはめずらしいな。初めて見るよ。――いや。まさか、な――」

「どうかしましたか?」

「ああ。まあ。少し前まで捜索令が出ていたんだよ。金色の瞳の子供を見つけるようにと。今は取り下げられているけれど。――私も詳しいことは知らないが、噂では確保できず魔族に攫われてしまったと聞く。本当なら実に不憫なことだ」


 俺はレティネの手をぎゅっと握る。

 だいじょうぶ。だいじょうぶ。


「この子はバシスから来たので、関係はないはずですよ」


 ここは誤摩化しておかないと。


「ああ、そうだね。その子供はシラヌス王国にいたはずだ。確か『魔の求めし子』または『オキリアルムの幼――」

「待ってください。この子の前では――」

「おっと。これは軽率だった。許して欲しい」


 ディオラは姿勢を正しきちんと頭を下げる。


「それで、これからどうなるんでしょうか? ここでの待機が続くのですか」

「いや。明日にはエケス領に向けて出発することになるはずだ。もともと我々の合流を待っていたことでもあるし。偵察隊の報告を受けてから仔細を詰めるが、明日の陣払いは確かだと思う」

「そうでしたか。ありがとうございます」

「お二人も今日はゆっくり休まれるがいい」




 夕方になってリューパス遠征隊の後続六十騎ほどが到着した。

 船に乗りきれなかった騎士隊だ。山越えの難所もあったらしく、人馬共に疲労困憊だ。合流優先で休まず走り続けたのだろう。馬も体がひと回り小さくなったように見えるから不思議だ。


 ついつい〈魔力糸〉全展開で馬の体力回復をしてしまう。

 騎士たちもそれぞれに馬の世話を始めていたが、こっそりお節介する。

 ヘタに調子を整えるとかえって過酷な戦場に放り込まれかねないけど、フラフラの姿はちょっと見ていられなかった。


「思ったより状況は悪いようだぞ。シーナム候の使者によると、騎士王フェルラム二世はヤヌア砦陥落後の会戦で戦死。敗走した騎士国軍を追って魔物が東方に向かったそうだ」

「王様が命を落としたんですか?」


 サイトウの伝える状況は深刻だった。


 ヤヌア砦陥落の衝撃を押さえ込むために精鋭を率いた騎士王自らが出陣したが、あっさりと討取られ撤退戦になった。エケス騎士国軍がヤヌア砦を望む大地に陣形を整える前に空中から攻撃されたそうだ。

 人間同士の戦争とはだいぶ様子が違うみたいだ。


「もうすぐ第一王子が軍をまとめて攻勢に出るだろうが、騎士国内の動揺は相当なはず。王都ソレアまでの要衝の守りを固めても、魔物どもはかまわず迂回して進んでしまうらしい。各拠点が孤立している。――地の利のあるはずの騎士国の兵力は、あまり期待できんだろう」


 シーナム候は国境地帯を領する騎士候で、自領が蹂躙されている真っ最中なので必死だ。国境解放の措置と、ヤヌアまでの詳細な経路も伝えてきている。

 国境解放は関税を含む出入国手続きの一時撤廃。諸国軍の受け入れと避難民の通過黙認という意味がある。


「それでもかなりの数の魔物がヤヌア砦周辺に残っている。勇者騎士団と諸国軍はこのままヤヌアに向かい砦を奪還することになるようだ」



 ◇◇◇



 翌朝。

 諸国連合軍はほぼ全軍で国境を越え、エケス騎士国領に入った。


 先頭は白銀の勇者と五十騎の勇者騎士団。続いてリューパス遠征隊百二十騎。そして、事実上の本隊のような六千のアルブス諸候軍の精鋭。これは東部の重鎮リム侯爵軍と、トプラマを領有するテルミン男爵軍を合わせた部隊だ。後続はアスタリム公国軍とムルス王国軍が一千ずつ。

 他にも装甲のある特殊な馬車が数十両ある。バリスタを搭載して戦車っぽい物々しさだ。


 昨日合流したばかりの陸路組のリューパス騎士隊も一緒だ。馬の回復が予想以上だったのと、騎士たちが魔法薬で最低限の体力回復を済ませたからだ。

 休ませてもらえないとは、騎士も大変だな。

 馬に関しては俺のせいだけど。


 国境沿いの町に立ち寄ることもなく、なだらかな草原地帯を進む。

 トプラマまでの強行軍とは違い進軍は慎重だ。歩兵や輜重しちょう隊もいるし。


「パパ。まだつかないー?」

「もうちょっとガマンねー」


 馬車に揺られながら見る緑の大地は青々と綺麗だけど退屈だ。

 さすがにレティネも飽きたようだ。見るものもないしな。てか、俺も飽きた。


「そういえば、俺たちはどう動けばいいんでしょう? ディボー隊長からも何も指示されてないんですが」

「うん? なにもしなくていいんじゃないか。ヤマダは魔法矢での支援を期待されているが、アラタと私はとくに戦わなくてもいいはずだ」


 通常の弓兵隊はリム侯爵軍に含まれている。


「まあ、馬に乗れない時点で戦力として扱えないですよね」


 リューパス領では魔法士も騎馬隊だしな。

 おまけに子連れだし。

 馬の健康管理ならなんとかできそうだけど。

 乗馬も覚えようかな。この先必要になるかもしれないし。


「そうは言っても、やれることはいくらでもあるだろう。数には入れてないがちゃんと期待はされてるぞ。出番が来るまではしっかり戦況を見ているがいい」


 小腹が空いたので焼き菓子を食べる。サイトウと馭者の騎士にも手渡す。

 連合軍は行軍を止めて昼食休みを取ることもなく、それぞれが馬上で、あるいは歩きながら携帯糧食で済ませている。


 日暮れ前になんとか夜営予定地に到着。あわただしいキャンプの設営になった。



 ◇◇◇



「パパ。くさーい」


 俺が臭いのではない。向かい風にかすかに異臭が混じっているのだ。

 酸っぱいカビ臭さみたいな、あまり馴染みのないニオイだ。

 せっかくのおやつタイムが台無しだ。


「なんだろねー」

「魔物の、ニオイです」


 ヤマダが弓を取り出す。


「あ。ほんとだ。もうすぐ出くわすね。まだ見えないけど」


 数キロ先に魔力を感じる。何の群れかな。あまり強力な魔物じゃなさそうだけど。先行している偵察隊に見つからなかったのか。

 俺は馭者台に出て、馬車を先導している鎧女子に呼び掛ける。


「シルテア様! 前方に魔物。群れがいます。と、ディボー隊長に」

「了解です! 流石です、アラタ様!」


 確かですかと聞き返されると思ったのに。隊長にまっしぐらだ。

 信頼コワい。


「止まれえ! 進軍停止っ!」


 ディボーに命じられた騎士が叫びながら後方に駆け抜けていく。ディボー隊長は先行して勇者隊に報せている。

 ざざざざ、と大波が伝播するように全軍が停止する。


「アラタ。なんだか分かるのか?」


 サイトウは〈身体強化〉で視力を上げている。


「いえ、ハッキリとは。――でもこの感じは」


 やがて、低い丘の陰から湧き出るように魔物の軍団が姿を現した。

 やっぱりGの皆さんらしい。百匹くらいいる。


「あー。ゴブリンか。騎士団に任せておけばいいだろう」


 サイトウが関心をなくす。

 まあ弱いのは確かだけどな、ゴブリン。手加減しても死んじゃうレベルだし。


 諸国連合軍としての初陣だからか、勇者騎士団が対処するようだ。

 横一文字二列の隊形で突進していく。

 ゴブリンたちは大騒ぎだ。

 こちらに気付いていなかったのかも。風上だったわけだし。いきなりの遭遇戦なら仰天するよな。


 予想どおり、逃げ回るゴブリンをひたすら蹂躙するという展開になったが、小柄な魔物を騎馬で追い回すのは効率が悪いみたいだ。槍で貫き剣で薙ぎ倒すものの、殲滅に時間が掛かっている。歩兵のほうが相性はいいかも。


「うーん。――なんだかなぁ」

「どうした? アラタ」

「いえね。ゴブリンが武器持ってるじゃないですか。それに防具とか腰布とかも」

「それが普通じゃないのか?」


 いや。俺が今まで見たゴブリンは全裸だったし。武器なんて装備してなかったし。

 いかにもゴブリンらしい棍棒やナマクラっぽい剣。革や木で作った防具。胸当てに肩当て。ぼろっちい腰布。これぞイメージどおりのG軍団。立派な装備の指揮官らしいのもいるし。


 レリカム大森林のゴブリンたちはパチもんだったの?

 今俺は〈真・ゴブリン〉を目撃してるんだろうか。


 勇者騎士団も無傷とはいかなかった。

 パニックを起こしてメチャメチャに振り回された棍棒やボロ剣が当たり、何頭かの馬が脚を痛めている。治癒魔法で対処しているが、ちょっと割に合わない感じ。


 次からは歩兵か魔法兵で対応することになりそうだ。




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