第参拾話《第一の輪廻 急の地~輪廻を仕掛ける者共~》
彼の者は、昔、竜の逆鱗に触れ、重傷を負った。
彼の者は、悪を統べる者である。
彼の者は、竜に復讐する者である。
彼の者は、輪廻の監獄長である。
彼の者に従う三つの仮面を持つ少女は、彼の者を見て嗤う者であり、竜に試練を与える者である。
彼の者の指の傀儡となった二人の少女は、竜と少女を牢獄に捕え、また一人の少年を牢獄に引き込む。
さぁ、第一の輪廻は、今終わり、第二の輪廻が始まる。
これは、第二の輪廻が始まる前の準備である。
(YS…本名ヘレン・イブ・ウォルト…常に仮面を身に付けている金髪のアジア系アメリカ人…その出生と年齢は不明…活動履歴も不詳…全てが謎に包まれている。)
白いスーツの顔に深い傷後を持つ眼帯の男は、YSの資料を見て、そう思い、ブラックコーヒーを啜る。
(って、何を調べているんだ? 俺は…? 奴の正体は誰にもわからない…調べた所で何になる…今は、7月に公開される東京の人工島新出島で、テロを起こす計画と龍雅を殺す事に専念しなければ…いいや、大統領である俺の弟と龍雅と数年前、ニューヨークを救った英雄シャーロットを殺す為にテロを起こす計画と今進めている計画龍雅殺害計画。今は、それだけに集中すればいい…)
男は、そう思い、パソコンを立ち上げ、作業に取り掛かり始める。
男の名は、アルバート・スピア・ゴッドスピード…現アメリカ大統領ジョージ・スピア・ゴッドスピードの兄である。
(弟も、新出島に招待されている。このテロを持って三人は死に、俺の大願は為す。憎き竜を殺し、この顔と背中に負った傷と火傷も癒え、英雄を殺し、二つの復讐は、完了し、そして弟を殺す事で、大統領の座のみならず我が民族の王位を奪った弟を始末し、俺が一族の王として君臨し、我が民族以外の愚かな人類を淘汰する事が、だが優先順位が違うな…今やるべき事…今は龍雅を殺す為に専念せねば…テロ計画は飽くまで龍雅を殺す為の妥協案であり、王位を掴む為の本命だ。)
アルバートは、パソコンのキーボードを打つ力が強くなっていき、一旦おいて深呼吸をした。
(危ない危ない…奴らの事を考えているとどうもイライラする。やはり、今の俺にはデスクワークは無理だな…)
アルバートは、すぐにフォルダなどを保存した後に、パソコンの電源を切り、ポッドにミネラルウォーターを入れ、スマートフォンをスワイプして起動し、ポッドの電源をオンにした。
『お呼びでしょうか? アルバートさん』
「あぁ、仕事を追加する。全人類から一人ずつから2ドル、企業、高所得者、政府機関からは100ドルを奪ってきて欲しい。」
『つまりは100億ドルを調達しろという事ですね?』
「そういう事だ…出来るな?」
『えぇ、後、西村香織を誘うように奈菜に伝え、あの能力者には、香織を洗脳する様に伝えました』
「俺は、そんな事を頼んでいない筈だが?」
『確かに今の貴方ではありません。平行世界の貴方が、私にそう命じたのです。』
「まぁ、いい…平行世界の俺も考えあっての事だろう。後々、お前に命令しようとしていた事だし…」
『それでは私は、100億ドルを今日中に集めてまいります。何に使うかは敢えて聞きませんがね…』
YSは、そう言い、クスクスと嗤い、その場から消え去った。
(全く不気味な奴だ…)
アルバートは、コーヒー粉の入ったコーヒーカップに湯を注いでアツアツのコーヒーを啜った。
⦅やれやれ…人使いの荒い…それにしても1兆円強か…まぁ、これも私が仕掛けた通りのシナリオだ…私が仕掛けた人形劇の操り人形であることも知らずに…⦆
YSは、アルバートの居るビルの何も置かれていない第三地下倉庫の天井に巨大な空間の穴を開けた。
『さぁ、降って来い…』
YSが指を鳴らすと、無数の1ドル札と100ドル札、そして1ドル札と100ドル札に相当する価値のある通貨が地下倉庫の天井に降り注ぎ、無数の硬貨が地面に落ちる後が部屋中に響く。
YSは、誰もが咽喉から手が出る程、欲しいであろう降り積もる硬貨と紙幣の山を見ずに、スマートフォンの待ち受け画像である龍雅の写真をラブの文字を描き、フフフと笑った。
一方その頃…YSのいるビルからそう遠く離れていない廃工場の中では…
(YSさんに頼まれたものの…これは、本当にアルバート様の申し出か? そうならば、私は何も言わず実行するが、本当に信用していいモノか…)
男は、廃工場に念波を放ち、充満させた。
(来た…)
男は、透明の布を自分の体に覆うと、男は姿を消し、廃工場に二人の少女が入って来た。
「ねぇ! 何も言わないでどうしたの!? 何でここに連れて来たの!?」
少女は赤髪の少女に向かってそう怒気を混じらせてそう言った。
「…誰にも聞かれないようにここを選んだの…」
「…そう、じゃあ何か言ってみて…奈菜…」
「香織は、虎太郎君の事どう思っているの? 好きなの?」
香織の顔は、奈菜の質問を聞き赤く染まった。
「な…何をいきなりそんな!」
「そうやって反応するって事は、好きだという事ね…」
「ちょっ、何言ってるのよ。それで虎太郎がどうしたというの!?」
「私、龍雅君の事が好きだから、私と一緒に龍雅君と虎太郎君の周りに這い寄る虫を殺しましょう? そして私達が…」
「…協力するというのは、賛成できるけど、でも殺すって…それは…」
「でも、虎太郎君って案外モテるでしょ? この間、A組のあの金髪のお嬢様が虎太郎君にすり寄ってたよ?」
「それは…」
「それに、虎太郎君の妹の芽衣も、虎太郎君の事を狙っているんじゃないかな?」
「…そう言えば…」
「だから、今の内に取られないように…」
奈菜は、そう言い香織の耳元に近付き、「手出しできないような力を手に入れて自分のものにしてしまえばいいのよ。」と思考を溶かすような声で囁くと、香織は奈菜を弾き飛ばした。
「ふざけないで…」
「後悔してもいいなら、それでいいけど…正直に言ってみて? 好きな人を独占してみたいと思わないの?」
奈菜が、そう言うと、香織は、いきなり頭を抑え始めた。
香織の頭に何かが流れ込んでいくようだった。
それが、何なのかわからない…けど、確かに頭に思考に何かが流れ込んで来る感覚に襲われた。
(頭が痛いし気持ち悪い…)
香織は、徐々に吐き気も催し始め、自分自身の口を押さえる。
「…さぁ、素直になって私と一緒に邪魔者を消し去りましょ?」
奈菜は、香織に手を差し伸べると、香織は奈菜の手を掴んだ。
香織にとっては、奈菜が手を差し伸べる表情はまるで貧者を救う天上から舞い降りた赤髪の天使のよう。
奈菜が手を掴んだ瞬間、香織の頭痛と吐き気が収まり、香苗の目の色が変わった。
「邪魔者を消し去るには、力が必要ね…ついて来て香織」
「わかった。」
香織は、奈菜の後に続いて廃工場から出て行った。
(どうやら成功のようだな…まぁ、これでYSさんからの仕事の第一段階は終えた。)
男は、透明の布を折り畳み、ポケットに入れた。
(さて、後は例の薬を香織に打つのみ…どんな能力に目覚めるか楽しみだ…)
男も廃工場から立ち去っていった。




