第壱話 《何の変哲もないチート主人公です。》
「春アニメはいいな…」
そう呟いた龍雅は、ジャージ服の格好で自室で録画をしていた春の深夜アニメを壁掛けテレビで見ながら、全身に合計の重量が自分の重さの1.5倍の重りを四肢と腹に着けて片手逆立ち腕立てをしている。
龍雅の部屋は、一般的な旅館の一室レベルの大きさで、日に当たらない場所に大量のアニメやゲームのキャラクターのフィギュアが、丁寧に飾られたショーケースが並んでいる。壁掛けテレビの下には、最新のゲーム機とゲームソフトが丁寧に置かれており、彼はVRゲームが好きなのだろうか龍雅が所有しているゲームソフト半分がVR対応のゲームソフトを占めている。
本棚には、漫画、ライトノベル、ゲームの攻略本、同人誌などのアニメ系しか置かれていない。
壁には、モデルガンや芸術用の模造刀。そして龍雅が作ったと思われるアニメキャラが持っている装備の見た目だけを再現した武器の数々。
額縁に入れられたアニメに登場する幼い少女のキャラクターのポスターとその横に飾られた金箔で散りばめられた額縁に入れられた筋肉隆々の金剛力士のような姿をした金髪の拳闘士のキャラクターのポスター。
机は、木製で造られた学習机で、椅子はゲームチェア、学習机の本棚には教科書が教科ごとに並べられており、学習机の上には、ノートパソコンが置かれている。
「なるほど…あの時のセリフが伏線だったのか…」
龍雅は、アニメの伏線に納得しながらウンウンと頷いた。
その時、龍雅のズボンのポケットに龍雅のスマートフォンが一通のメールが届いた事を知らせる音が鳴った。
「ん? 何のメールだ?」
龍雅は、一旦筋トレをやめてアニメを一時停止してスマートフォンをポケットから取り出してメールを確認した。
「なるほど…やっとわかったのか…俺の力が…」
得大紐市にある研究所から能力が判ったから研究所に来るようにとメールに書かれている。
そこは、能力を解析し、どんな能力なのか調べる研究所である。
そのメールの内容には、人にどこに行くのか聞かれると、自然公園と誤魔化す様にと書かれてあり、このメールが届いた30秒後メールは、自動で消去されると書かれてあった。
——30秒後か…まるでスパイ映画だな。政府公認の研究所とはいえ、能力者の研究所…場所が判ってしまえば、犯罪組織に能力者のDNAデータが狙われる可能性もあるか…フッ…良いだろう…
龍雅は、研究所の事を自然公園という隠語を使うようにという内容を鼻で笑い了承する。
「どんな能力なのか。楽しみだな…」
龍雅は、全身の重りを外し、素早く春の流行服に着替え、高級ブランドのバッグを持ち、テレビと部屋の電気を消し、部屋から出た。
「龍雅、アニメ見てたんじゃなかったの?」
「姉さん。質問で質問を返すが、今日は、仕事ないのか?」
龍雅が姉さんと呼ぶ人物。剣ヶ峰悠美だ。職業は芸能人で、芸歴は10年で、不動の人気を誇り、世間で知らない人はいない。容姿は、黒髪のナチュラルサイドグラデーションで、貧乳。世界トップクラスの美しさの九頭身美少女で、身長は180cm。
「いや、今から行く所。龍雅は?」
「俺は、自然公園に行ってくるぜ。外で体を動かさなきゃな。」
「でも、そこらの公園でもいいんじゃない?」
「今の俺は、自然公園で体を動かしたいんだ。」
龍雅は、自然公園と姉に嘘をついた。
「あっそ。」
「んじゃ、そういう訳で…テレビでの活躍を楽しみにしてるぜ~」
龍雅は、そう言って一階へ降りて行った。
一階に降りた龍雅は、仕事に出掛けて行く父とそれを見送る母の姿があった。
「ん? 龍雅。どっか出掛けるのか?」
「あぁ、父さんはアメリカで試合だったっけ?」
「そうだ。今回も稼いでくるぜ。」
「凄いな…俺だけ働いていないな…」
龍雅は、家族の中で働いていない自分の事を責める。
「またそんな事を言って…。龍雅は、今は高校生だし、まだ大丈夫よ。」
「そんなもんのかな…」
「そんなものよ。そんなに気にするんだったら、動画サイトに動画をアップして見ればどうかしら? 例えば、作ってみたとか、踊ってみたとかね。」
龍雅の母は、そんな龍雅をフォローし、動画サイトに動画をアップする事を提案した。
龍雅の父は、20年連続能力者総合格闘技世界チャンピオンの剣ヶ峰勇雅。母は、世界最強のギャンブラーにして世界で指折りの投資家そしてマンション経営者の剣ヶ峰涼美だ。父は、金髪の身長200cmの肩幅が広い筋肉隆々の巨体。母は、黒髪の身長175cmの二十代にしか見えない美女だ。
「龍雅は、何処かに行くのか?」
「あぁ、ちょっと自然公園にね。」
「自然公園に、何しに行くの?」
「運動しにな。それよりも父さん。それよりも早く行かないとアメリカの便が…」
「あっ、そうだったな。では、行ってくる。」
勇雅は、急いで靴を履き、家を出てチーターよりも少し遅い速度で、空港行きのバス停へ向かった。常人ならば、龍雅の父の走る速度で驚くだろう。しかし、剣ヶ峰家の人間にとっては、見飽きた光景だ。あの速度で走る父の姿は、家族の人達からしてみると、急いでいる程度でしか感じる事が出来ない。
「じゃあ俺も行くよ。」
「行ってらっしゃーい。」
龍雅は、靴を履き、家を出て、西得大紐駅の方面にパルクールで移動し始めた。
龍雅は、スマートフォン片手に弾幕シューティングゲームの裏ボス面をプレイしながら次々と建物の屋上に飛び移って駅へ赴いている。パルクールとは、フランスから始まった人間の真の身体能力を引き出し追及する壁や地形を利用してアクション映画のような運動をする非常にかっこいいが、危険なスポーツだ。世界中で人気があり、世界中に様々なパルクールのグループがある程だ。
「おっ…倒せた。」
龍雅は、弾幕シューティングゲームの裏ボスを倒し、スマートフォンの電源を切ってポケットにしまって屋上が広い建物に飛び移って助走を付け、そして人知を超えた驚異的なジャンプ力で駅の近くへ飛んだ。
龍雅は、駅の近くの公園に勢いよく着陸し、龍雅が着陸した場所の周りに、砂埃が舞った。
「ゴホッ…ゴホッ…」
——公園に着地するのは、もうやめよ。
龍雅は、咳き込みながら立ち上がり、スマートフォンを取り出して格闘ゲームのアプリを起動してゲームをプレイしながら公園を出て、駅へ赴いた。
西得大紐駅は、何処にでもありそうな駅で、特に変わった所は無い。それ以上もそれ以下も無い普通の駅だ。強いて言えば快速電車が止まるくらいだろうか。
龍雅は、切符を買い自然公園がある得大紐行きの電車に乗った。電車内の座席は全てリクライニング式のクロスシートとなっている。電車内の座席の配列は、2+1配列となっており、龍雅は、迷わずに1の方を選んで座った。その方が、自分のスペースが保たれるからだ。別に他人に気を使う必要もなくなる。
『発車します。ドアにご注意ください。』
ホームと電車内に、人工音声特有の無機質な声が、乗客の耳に届く。電車のドアは閉まり、電車はゆっくりと走り始める。発車した事で、窓に映る景色が変わっていく駅のホームから高度な科学技術によって生み出された無機質な街並みと規則的に植えられた桜の木とそれに対抗するように生命力溢れモクモクと天に煙を上げる活火山何の捻りも無くただ得大紐にあるからというだけで名付けられた得大紐山。龍雅は、そんな見慣れた光景を見る必要も無いので、春の暖かさによって齎される睡魔によって眠りに誘われて眼を閉じた。
『————まもなく、得大紐…得大紐…』
人工音声が、龍雅の耳に届く。眼を閉じている間に、いつの間にか得大紐の中心部に着いていたようだ。いや、正確には眠っている間の方が正しいか。
龍雅は、新宿駅程でもないが迷宮のような複雑さの最新技術が詰まった駅。得大紐の駅の改札を抜け、龍雅は、得大紐にある自然公園に目指し、地図を見ながら街を探索しつつ、自然公園を目指した。
——あそこだな。
無機質な街中を歩く龍雅の視界に、その公園は現れた。それは街から1km離れた先にある巨大な自然公園だ。全体が緑で覆われており、衛星写真からは、研究所の姿を確認する事は出来ない。龍雅は、自然公園に向かい、そして自然公園の中に入り、龍雅は自然公園の緑を目で楽しみながら自然公園の中央に向かって行った。
——このけもの道の何処かにあるんだよな。
龍雅は、自然公園のけもの道を歩き、研究所を目指す。けもの道を進んでいると能力者研究所と書かれた英語を上下逆転した後に、鏡で反転した謎の文字が彫られているエレベーターを発見した。ここが、研究所の入口だ。これが衛星に見つからないわけだ。
龍雅は、研究所の前に立って研究所のドアのパスワードを入力し、自然公園の研究所に入った。
この研究所は、能力者が何故生まれたのか調べる為の場所であり、また自覚していない又は自分の能力が何なのかわからない能力者の能力を調べて自覚又は自分の能力を理解させる場所でもある。
龍雅の場合は、後者だ。龍雅は、自分の力を理解できずに力を使ってきた。しかし、一年前にその力は、氷山の一角に過ぎないだろうとここの研究員に言われ、龍雅はその言葉を半信半疑でこの研究所に自分自身の能力を調べる様に依頼し、一年後の今日、その結果が出るのだ。
「ここだな…」
龍雅は、所長室と書かれた部屋を見つけて龍雅は、研究室の扉を拳で軽く二回叩いた。
「入りなさい。」
「失礼します。」
龍雅は、所長室の中から聞こえた女性の声に答える様に研究室に入っていった。
所長室は、ビーカーやスポイトそして注射器などの実験道具。様々な研究ファイルが入っていると思われるショーケース。龍雅は、ブロー型の眼鏡をかけた白衣を着たポニーテールの若い女所長斉藤世知子が座るデスクの前でパイプ椅子に座っていた。
「先生…結果が出たんでしょうか?」
「はい、貴方の能力がようやくわかりましたよ。」
世知子は、龍雅に龍雅の能力の詳細が書かれた資料を手渡した。
「貴方の能力ランクは、EXランク。すみません。時間がかかってしまいましてね…でも、中々類を見ない珍しい能力で、私も驚きましたよ。」
能力者には、ランクがある。最高のSランク。準最高のAランク。上位クラスのBランク。中位クラスのCランク。下位クラスのDランクに別れ、龍雅の持つランクEXは、解析に時間のかかり、解析を棲んでもまだ隠れている要素が非常に多い能力の事を指す。故に、能力の解析を終える時間が一年後になる可能性が高い。
「貴方の能力は、非常に複雑でしてね…でも、使い方によっては何にも負けない最強に近い能力です。」
資料によると、龍雅の能力は、多重能力ゲームシステム。詳細は、体が動けなくなるが時間を無制限に止める事が出来、セーブポイントに遡って何度でも時間をやり直す事が出来る《デフォルトシステム》あらゆる戦闘に勝利を重ねる事によって増大し、増大する度に体力が回復し、一定までに増大する事で、新たな能力を得る《レベルシステム》エネルギー弾やエネルギー波を様々な方法で放つ事が出来、空を飛ぶことが出来る《シューティングシステム》たった一人で無数の敵を蹂躙する事が出来、何度も蘇る事が出来る《アクションシステム》攻撃を防ぐことで気力が続く限り、攻撃を無効化する事が出来、タイミングよく防ぐ事で全ての攻撃を反射し、敵を吹き飛ばせる《ガード&カウンター》一定の確率で、ありとあらゆるの防御手段を貫通し、威力を二倍にして攻撃する《クリティカルヒット》そしてある行動やある事を同時に考える事で自分の力量に応じた数の確率を操る事が出来る《乱数調整》の全てを使う事が出来、半径1km以内生物を察知する事が出来、武器となる物を全て使いこなす出来、十分間で全回復でき、物食べたり休憩所や寝床で休む事で一瞬で全回復出来る能力と書かれている。
「うわ…何たるチート…」
「ですが、悪くないでしょう?思春期の貴方達は、こういう能力を持つライトノベルの主人公を好む傾向があります。ですからライトノベル主人公みたいな能力を得て嬉しいのでは?」
「まぁ、正直嬉しいですね。」
龍雅は、そう言いながら能力をどう有益に使うか考えていた。
「何か質問があればどうぞ。」
「能力の使い方はどうやって?」
「前もって教えた筈なんですが…まぁ、いいでしょう。能力の使い方は、自分に可能な事を頭の中で思い浮かべて発動するか、ある特殊な行動をすれば発動できます。そうですね。一例を挙げるならば、頭の中で空中に浮くと言う事を思い浮かべてください。」
「わかりました。」
龍雅は、椅子から立って言われた通り、空中に浮くと言う事を思い浮かべた時、龍雅の体は、空中を浮遊し始めた。
「なるほど…こうやって能力を…」
龍雅は、空中に浮く自分の体を興味津々に見たあとに、着地し、椅子に座る。
「他に質問は?」
「ありません。後は、俺が俺自身の力を持って調べます。能力の使用方法さえわかればそれで問題はありません。」
「そうですか。では、調子乗って能力を悪用しないように」
「悪用しませんよ。」
「まぁ、貴方なら大丈夫でしょう。」
「では、俺はこれで…」
龍雅は、世知子に一礼をして所長室を出て、早歩きで研究所の外へ出て自然公園の木々の生い茂る場所で立ち止まった。
——そう言えば、血液だけでよく分かるな…血液を調べれば能力が判るのか? だとすれば…能力者は………いいや…そんな事は無いな…
龍雅は、何かを察したが、考え過ぎだと思い、能力者について考えるのはやめた。
一年前、龍雅はここに来て血液を採取されていたのだ。その時は、能力を調べる為と言って血液を採取された。しかし、龍雅は疑問に思ってしまった。何故、血液だけで能力が判るのかと…
——しかし、この力…上手く使えば、中学生の頃の俺が諦めた野望ハーレムが成し遂げる事が出来るかもしれん…そして…あの所長の言う通り、俺は最強になれるかもな…
「クックック…ハハハハハ!!! ハァーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!」
龍雅は、能力を得た喜びで、悪役のような笑いをし、早速能力を使って助走を付けて跳躍し、そのまま能力を使い飛行して、笑いながら何処かへ飛び去っていった。
龍雅が、能力を得た。その日…得大紐に存在する。不良グループを狙って壊滅させる。最狂最悪の男Dという名の都市伝説が、得大紐に流れ始めた。そのDの正体は、紛れもなく龍雅である。龍雅は、《ゲームシステム》と呼ばれる反則的な力を手にし、自らの野望を果たすべく少しずつ力を蓄えようとしているのだ。得大紐の不良グループの壊滅も、野望を抱く彼にとっては、力を得る糧を僅かに失っただけにすぎないのだ。
今回もそうだと思いますが、——の表示がミスっていてすみません。やり方が分かり次第修正していきたいと思います。