第十二話
驚いた僕は思わず力の加減無しで後ろに退いてしまった。
「何だ…?これは…割れ目?」
「おい、早く逃げろ!こいつ、絶対にやばい。」
「あわわ。く、空間が割れたーー」
やばい気しかしないその割れ目から突如一本の槍が飛び出してきた。
その槍が向かった先は…
僕の身体だった。次の瞬間僕の身体に風穴が空いた…
「なぜ…霊は物理的には僕らには攻撃できないはずなのに……」
かすれた声でそう言いながら僕はその場に倒れる。出血が止まらない。二人の慌てた声が聞こえる。しかし、僕の意識はだんだん遠くなってついに途切れたのである。
気づくとそこは真っ暗な空間だった。
あぁ、僕は死んだのか…
心の中でそう呟く。すると
「そう、君は一度死んだんだよ。」
どこからともなく声が聞こえた。そしてなぜか心を読まれたのだった。
「誰かいるの?僕が死んだのならここはどこな?」そう尋ねる。
「ここは君の意識の中だよ、君の心臓は止まっているけどまだ君の魂は身体から離れていないからね。」
暗闇から一人の女の人が出てきた。
「君は誰?なぜ僕の意識の中に?」
「私の名は紫紅。君のふたつ目の封印を守護する者。」
「封印?あの黒い札で解いたものだけじゃなかったの?」
「あれは一つ目の封印、君の全力はこんなものじゃないよ。ここに来たということはふたつ目の封印を解く時だ。ただこれを解くと君は半分人間ではなくなる。それだけは覚悟してくれ。」
「あ、拒否権はないんですね…」
「ないね、このまま君を死なせるわけにはいかないんでね。」
紫紅がそう言い終わった途端また僕の意識は遠のいていった。
目を開けるとそこには心配そうに僕を覗き込む二人の顔があった。
「よかった、生き返った。」
「安心してられないぞ、あの割れ目は相変わらず嫌な予感がする。」
僕は貫かれたはずの所に手を当てる。痛みはない。そして、傷もなかった。
[超回復能力]
それが僕の二つ目の封印に封じられていたものだった。
「やっと目を覚ましたか、主。動けるだろ、早く逃げるぞ。」
僕の後ろでつい最近聞いた気がする声が聞こえた。そして振り返ると案の定、紫紅がいた。
いろいろと整理したいことはあったがここはひとまず三人を連れて逃げた。
超回復能力以外にはまた身体能力が上がっていたぐらいだろう。単なる跳躍で10mも飛べるようになっているのだから十分すぎるのだけど…
そしてその日から割れ目から10キロ圏内で霊による人への物理的な攻撃が多発、危険と判断した本部は関西地区に緊急警報を発令、割れ目から10キロ圏内では毎日交代で除霊師が24時間体制で警戒にあたる。日本中の除霊師の中で選りすぐりの結界分野の手練も派遣され常に結界によって被害範囲が広がらないようにされた。僕の街には避難指令が出されて除霊師以外は皆避難した。
しかし数日後この割れ目の比にならないぐらいの門が開くことをまだ誰もしらなかった…




