第5話 段階と派生
ユーノが緊張をほぐすまでに、数分かかった後、ようやく本題へと入ることができた。
「じゃあ、ユーノ。そろそろ聞かせてもらうよ。水の神授術の特徴や、戦法等を聞かせてくれると、ありがたいな」
ジークがユーノに尋ねる。
「えっと、その……。水の神授術は多様性に富んでいて、神授者のレベルが上がると、水特有の流体制御が上手になります。もっと上のレベルになると、氷を扱うことができます」
まだ言葉の始めからは緊張が抜けてないが、一旦話し始めると、普通に会話が成り立つようになった。だが、敬語は抜ける気配無しといったところだ。
「なるほど……、氷か」
「あの……その…、本当はあと一年経ってから会得するものだから、いくら優秀なクロスコルド君でも、氷を使ってくるかどうかは分からないので……だから、その……」
「ああ、大丈夫。可能性を教えてくれただけでも十分だよ。ありがとう」
少し慌てるユーノに対し、イルギスもといグリムは、笑顔を返す。すると、ユーノは頬を赤らめ、カユラの陰へとまた隠れる。
(派生型はまだなのか。それにしても……あれ?また怖がらせたのかな…。もう少し仲良くなれたらいいんだけど。ユーノは難しいな)
グリムは首を傾げて、心の中でそう呟いた。
(ユーノがここまで早く男子に慣れるなんて……)
時を同じくして、カユラもグリムとは異なる感想を呟いた。
「でも、この学校の卒業条件の一つは、第二系統派生型の神授術の習得だったよね?」
「は、はい。彼は三年生の中の最優秀生徒だから第二の漠水系統は使い慣れていておかしくありません。ですが派生型となると、発動するのが精一杯で、使えるというレベルでは無いと思いますが……」
(なるほど、そういうものなのか)
グリムはその言葉を心の内に留めた。
「そういえば、イルギスは第二段階使い慣れてたよな。もしかして、派生型もいけるのか?」
ジークがグリムに尋ねる。
「派生型ねぇ、どうだろうか。」
苦笑いしかできないグリムだった。
神の恩恵から生み出される神授術には、段階と派生がある。現在確認されている段階は三つ。上の段階になるにつれ、強度や規模が上がると共に習得難易度も上がる。
また、第二段階を習得することができれば、派生型を習得する事が可能になる。
水の神授術の派生型とは吸熱型を示す。自らの作用によって水を吸熱する事で熱を奪い、温度を下げて氷を作る。これを瞬時に行うことで、氷を実戦の中で使うことがでいるのだ。
この学校では、一年次に神の恩恵の行使スピードと規模や強度を強化する。二年次と三年次前半に第一系統の神授術を複数会得する。そして通常三年次後半からなのだが、早い者は三年次前半から、第一系統から第二系統へとグレードアップした神授術を会得し始める。四年次中盤あたりで派生型を会得する。そこからは、神授術のレベルを上げて、卒業条件に達するようにする。
イルギス達三年生は今、レベルがより高い第一系統の神授術の会得中。ただし、クロスコルドは学年トップの優秀な生徒であるため、上記の早い者に属する。ゆえに、第二系統の神授術を会得している可能性は十分にある。
「なあ、決闘っていつ頃行われるんだ?」
イルギスもといイルギスは、尋ねる。
「決闘が学校に承諾され、次の日に学校で掲示されて、その次の日に決闘が行われる。どうせ、今日すでに学校から承諾されてるだろうから、決闘は明後日に行われるわね。」
「そ、そうですね。学校側としても断る理由は無いですし」
カユラはこれに応え、ユーノもそれに続いた。
「明日は学校中、特に三年生の間では大騒ぎになるだろうな。覚悟しといた方が良いと思うぞ」
ジークは少し人の悪い笑顔で言う。
「それは勘弁してほしいなぁ」
またもや苦笑いしかできないイルギスだった。
「それじゃ、これからよろしくな。」
「決闘、頑張ってね。」
歓迎パーティーはお開きとなり、ドアの近くに立っていると、クラスメイトから声をかけられる。
みんなと挨拶をかわし、会場を後にしようとすると、1人の生徒が残っていることに気づく。
「何してるんだい?」
その生徒は、声をかけられるとビクッと跳ねる。
「ひゃっ!」
ユーノは、食べ終わった後の食器を、片付けやすいように重ねていたのだが、皿を持っていたため、跳ねた拍子に手を離してしまう。
「おっと、危ない危ない。」
それをグリムがすかさずキャッチする。
「きゅ、急に話しかけないで下さいよぉ。びっくりするじゃないですか」
そう言いながら、後ずさりする。
「本当に男が苦手なんだな」
「今のは、苦手じゃなくてもびっくりしますよ」
頬を膨らませて、睨んでくるユーノ。しかし、グリムから見たその姿は…
(怒ってるいるのかな?でも、睨むというより上目遣いに近いし。全然怖くない。むしろ可愛い)
と、こんな風に見えるため、より愛おしく思うようだ。
「ごめん。手伝うから、それで許して」
ユーノの機嫌をそこねないために、グリムは手伝う事にした。
「これくらいで十分じゃないかな。食堂のスタッフも片付けしやすいと思うよ。夜も深くなってきたし、そろそろ部屋に戻ろう」
「う…うん」
二人は会場を後にし、エレベーターへ乗る。
四階に到着し、降りて右は男子部屋、左は女子部屋となっている。二人はそれぞれの部屋へ足を向ける。するとユーノが、
「決闘…頑張って下さい。応援…してますから…」
というセリフを残して、小走りで去っていく。
(顔真っ赤だったな。本人はバレてないとか思っていそうだけど。にしても、俄然やる気出てきた。これは負けられないな)
柄にもなく右手に拳を作って、自分の部屋へ足を運んだ。
その夜、グリムが床に就くと、イルギスは起き上がり、部屋を出る。
彼が向かった先は校長室。
ドアの横にあるチャイムを鳴らす。
「誰かね?」
校長は問う。
「3-Cのイルギス・スクラードだ」
イルギスはそれに答える。
「入りたまえ。」
校長の許可を得て、イルギスは校長室へと入る。
「こんな真夜中にどうかしたのかね、ハダル君?」
校長は陽気に問う。
「チッ…」
ハダルは思わず舌打ちをする。
「おやおや、何をそんなにイライラしているのかね。」
「黙れ。アンタか?アイツに決闘を申し込ませたのは。」
「こらこら、校長をアンタ呼ばわりなんて、良くないねぇ。口の聞き方といい、感心しないなぁ。今は、私の方が立場が上なのだからね。」
「質問に答えろ。」
ハダルは眼圧を込めて言う。
「そうするようにとの事だったからね。」
ハダルはさらに眼圧を込める。
「そんな眼をするんじゃないよ。殺る気なのが丸わかりだ。」
ハダルの瞳には紋様が浮かび上がり、黄色く輝いている。
その紋様は、円の中に辺の反り返ったひし形があり、その頂点が円から突き出したような形だ。
一方、校長の瞳にも同じ紋様が浮かび上がっており、青緑色の輝きを帯びている。
「それにしても、グリム君は寝てるのかい?」
「グリムをお前の前に出すわけにはいかん。怒り狂ってこの辺りを焼き尽くされても困る」
「それは確かに困るな」
2人の間に殺伐とした空気が漂う。
「そういえば、君の力も使うようにと仰っていたな」
先に口を開いたのは校長だった。
「それは、つまり……」
「二人の力を使え。ということだ」
ハダルは歯軋りを立て、校長を睨む。
「もう遅い。今日の所は帰りなさい」
校長はハダルに部屋に戻るよう促す。
「ああ」
ハダルはそう言って校長室を出る。
(くそったれ……)
ここまで読んで頂きありがとうございます。
隔週のはずなのに、先週間違えて今日更新すると書いてしまったため、慌てて書きました。気づくのがもう少し遅れたらどうなっていただろうか……
兎にも角にも、これからは隔週更新でやっていきますので
次回3/2(月)21:00更新予定
よろしくお願いします。




