第4話 歓迎パーティ
この学校で習う教科は5つ。神授術生活理論、神授術軍事理論、神授術生活実践、神授術軍事実践、歴史。昨日の闘技は神授術軍事実践の一つである。
昼食後の5限目の今、イルギスたち3-Cは歴史の授業中。これは眠たくなる授業で、普段はみな睡魔と戦う時間。だが今日は違った。
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神授歴2222年、今からちょうど200年前、この国に、とある1人の男児が誕生する。
見た目は普通の男児と変わらず、成長しても、運動能力がズバ抜けて高い、というような一般的な特徴を持ってはいなかった。
だが、他人とは明らかに異なる点があった。
彼は、2柱より神の恩恵を授かったのだ。
彼は王国軍の一員として、戦場を駆け、他国との争いに勝利し、この国の発展に大きく貢献したといわれている。
今では伝説の人と化しており、この国の人々は、敬意と憧れを抱いている。
その男の名は、ジャック・ソル・セイバー。
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歴史を習う上で、この時期を習う場合は、皆真面目になるのだ。この国の子供たちは彼の英雄譚や武勇伝を聞いて育った。そのため、彼に対して誰しもが憧れの情を抱いている。
この男のように、2柱以上の神より恩恵を授かった者は『複神授者』と呼ばれている。記録だけなら、大昔に複数の複神授者はいるが、伝承の類のため信憑性は低い。
午後の授業が終わり、生徒たちは寮へ帰る。
この学校は全寮制で、1フロア1クラス。11階建てが2つ(1・2年用と3・4年用)、6階建てが1つ(5年用)である。それぞれ1階は、食堂、浴場などの共用スペースとなっている。
部屋は2人用だが、編入してきたため、イルギスは1人で部屋を使用する事となった。
(ちょっと広すぎるかな、この部屋。……はぁ…この後パーティか。ああいうことされるの恥ずかしくてやだな)
ベッドに横になったグリムが心の中でボヤいていると、
"いい加減腹をくくれ。いつまでも駄々をこねるのはみっともない"
(うわっ。ハダル兄、いきなりは止めてよ。ビックリしたじゃん)
"1人でずっと文句を言っているのを聞くコッチの身にもなれ。鬱陶しい"
ハダルは少しイライラしているようだ。
(ごめん、ハダル兄)
"わかればいい"
2人の間に沈黙が流れる。
ふと時計を見ると、ジークたちに指定された時刻まであと5分となっていた。
「さてと、そろそろ行かなきゃね。」
グリムはベッドから起き上がり、ドアへ向かう。ドアの目の前で「はぁ。」とため息をつくと、ドアを開け、部屋を出る。そしてパーティ会場へと歩いた。
1階の共用スペースには、多目的ホールなるものがあり、今回のパーティ会場となっている。
グリムはドアへ手をかけ、開くと、スパパパパパパンと轟音が無数に鳴り響き、
「「「ようこそ、3-Cへ!!!」」」
クラス全員でお出迎え。皆が主役の登場を豪華に飾り、グリムは少しばかり困惑の表情を浮かべる。
「ど、どうも。これからよろしく」
「堅ぇなあ。俺らはもうクラスメイトで、仲間なんだ。もっと楽にいこうぜ」
ジークがそう言うと、クラスメイトたちは笑顔で頷いた。
「うん、そうだね。みんな、よろ「つーことで、乾杯するから飲み物持ってくれ」
「最後まで言わせてよ!」
笑いが起こる。どうやら、グリムはダシにされたようだ。
「はい、これ。貴方の分」
不機嫌になっているグリムをお構いなしに、飲み物を手渡すカユラ。
全員の手にグラスが渡り、乾杯の音頭を委員長がとる。
「スクラード君が私たちのクラスの一員になったことを祝して、乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
クラスの仲間との挨拶を一通り終え、食堂のスタッフがこしらえた豪華なご馳走の数々に手を伸ばすグリム。
そこへジークがやってくる。
「どうだ?馴染めそうか?」
「まあ、何とかなるかな」
笑顔で返答するグリム。それを見たジークはどこかホッとしたような表情を見せた。
「そういえば…決闘というものは、相手の承諾を必要としないのかい?」
今更のように思い出した疑問を、ジークに尋ねた。
「学年1位の場合は例外なんだよ。承諾無しで、決闘が成立するのさ。とは言っても、格下相手に圧勝してもそれはそれで問題になったりで、いろいろ面倒ってことで、基本的には決闘なんて起こらねぇんだが」
「ふぅん、なるほどね」
そして、カユラもやってくる。
「ねぇ、イルギス。貴方、遠隔だけでなく近接も得意なのね。遠隔攻撃に時間が掛かっていた昔は、近接攻撃も重要視されてたけど、今は遠隔攻撃も発動時間が短縮され、攻撃範囲が広く、射程も長いから、みんな遠隔攻撃ばかり身につけるのに。」
「近接攻撃を侮ったら駄目だよ。本当の近接攻撃に、『近づかせなければ大丈夫。』なんて考えは甘すぎるんだ。間合いに入ったら最期だ、くらいの意識が必要だよ。本物の近接攻撃は、間合いに入れば、確実に命を刈り取るんだから…」
不意にとある景色が脳裏をよぎる。
満月の夜、月の光に照らされ、死体の山の上に、獲物を持って立つ人影を……
"やめろ。不愉快なことを思い出させるな"
(あっ、ごめんハダル兄)
精神世界での兄弟の会話。しかし傍から見れば、黙り込んでいるようにしか見えない。
故に
「どうしたの?急に力説しだしたかと思えば、すぐに黙ったりして。」
カユラはこのように問いかける。
「い、いや。別に何でも無いよ。あははは…」
思い出したくない事を思い出してしまったせいか、あまり動揺を隠しきれていない。
「そういえば彼、えっと、クロスコルド君だったかな?水の神の恩恵を受けてるんだよね?どんな神授術を使うのかな」
無理矢理話題を変えて先程の動揺を押し殺す。
「そういうのは水の神の恩恵を受けてるコに聞いた方
がいいかもよ。丁度いい機会だから紹介してあげる」
「紹介するって、誰をだよ」
カユラの提案に「まさか」とでも言いたげな顔をしてジークが尋ねる。
「ユーノ」
「ちょっと待て。確かにアイツは水の神の恩恵を受けてる中で優秀なヤツだが、男子とまともに会話出来ないだろ。現に二ヶ月過ぎた今でも、俺は挨拶を交わす事しかできねぇし。」
「ジーク。その言い方だと、ユーノって生徒は女の子なんだろ?女の子に対してアイツとかヤツって言うのは失礼じゃないか?」
「そうよ。そんなんだと、アンタ女の子に好かれないわよ。」
グリムとカユラが、二人してジークの失礼を咎める。
「っ……、今のアンタって発言は失礼じゃねぇのか?」
言い返せなくなったジークは、悪足掻きをするも、
「そんな事ないんじゃない?」
「そんな事ないわよ」
二人に届くことはなかった。
「で、そのユーノってコは、男子が苦手なのかい?」
ジークに何か言われる前に、グリムはカユラに尋ねる。
「苦手というか…照れ屋さんというか…恥ずかしがり屋さんというか…ま、とりあえず呼ぶね。 ねぇ、ユーノ。ちょっとコッチ来て〜」
カユラはユーノを大声で呼ぶ。
その横からジークがグリム囁きかける。
「カユラはあんな事言ってるけど、俺には男性恐怖症にしか見えない。会話が成り立つ事は期待しない方が良いと思うぞ。」
ジークのアドバイスを聞きながら、カユラが呼ぶ方を見る。
ユーノと思われる1人の女子生徒が、それに応えるようにこちらに振り向く。するとそこで、目が合う。その女子生徒はビクッと肩を上げて、「はうぅぅ」とでも言うような表情を作っている。
(何アレ、可愛いんだけど)
すると、小走りでやって来て、カユラの陰に隠れてこちらをうかがう。
「このコはユーノ・シェマール。このクラスで最も優秀な水の神授者よ。」
「そっ、そんな事ないよぉ〜////」
ユーノはカユラからの紹介に照れている。そんな姿を見たグリムは、
(可愛いというか、愛くるしいというか。言い方はアレだけど、何か小動物みたいだな)
そんな事を思っていると、いつのまにかユーノを見つめていたグリム。それに気づいたためか、ユーノはカユラの陰により一層深く隠れる。
「ちょっと、威嚇しちゃダメでしょ」
カユラに指摘される。どうやら、ユーノにはそう感じるらしい。
「別に威嚇したつもりじゃ無いんだけど…」
会話が成り立つようになるまで、もう少しかかりそうだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
地の文においてはハダルとグリムを書き分けます。あえてイルギスと書いて、どちらのことかボカす事もあるかもしれませんが。
また、イルギスの心の呟き、及び精神世界における会話は
( )は表に出ている方、" "はもう片方です。
以上の二つの事を理解した上で読んでいただけると嬉しいです。
次回は2/16(月)21:00 更新予定です。
よろしくお願いします。




