カラスの記憶
「あの階段は祈りの広間につながっている。そこでカラスが助かるようにと祈りを捧げなさい。そうすれば救われるかも知れない」
父神様が、らせん階段を指差し言いました。二人は父神様の言葉にうなずき、階段を登り始めました。うでの中でぐったりしているカラスから、トクトクと弱い振動が伝わってきます。カラスを揺らさないように子ども神は出来るだけ静かに足を運びました。
四角く開けられた窓から外の真っ白い景色が見えました。でもそんな物を見るよゆうは無く、二人は必死に足を動かし続けました。ときおり心地よい風が吹き抜け、暑くほてった体を冷ましてくれました。
カラスを落とさないように、つまずかないように気を付けながら、一歩づつかくじつに段を上がって行きます。子ども二人が登るにはとても長い距離でした。次第に二人はくたびれてきました。小さなカラスの重みが、ずっしりと両腕にかかります。
「子ども神様、重いでしょう? わたしが代わりに持つよ。」
そう言って、女の子は慎重にカラスを受け取り、大事にかかえて登り始めました。両腕が自由に動かせず段を上がるのに苦労しましたが、二人は交代しながらカラスをかかえて、やっと階段を登りきり円い空間の広間に出ました。
『何用か』
どこからともなく声がしました。
「このカラスの命が尽きようとしているので、救って欲しくてここに来ました」
女の子はキョロキョロ見回しましたが、子ども神はその問いに真っ直ぐに前を向き答えました。
『その者を中央の台に寝かせよ』
部屋の中央には一畳ほど一段高くなった場所がありました。子ども神は言われた通りカラスを薄いスカーフに包んだまま、中央の台の上にそっと寝かせました。
『この者がなぜこのようになったのか知っているか』
塔の声にそう聞かれ、二人は同時に分かりませんと答えました。
『では、この者が経験した事をこの場に映し出そう』
塔の声がそう告げると、カラスを乗せた台が突然、まぱゆいい光を放ち輝き始めました。二人はあまりのまぶしさに、両腕で顔をおおいました。その直後、真っ白だった円柱のかべに、彩り鮮やかな森が映し出されました。
青色の木、黄色の木、桃色の木、紫色の木、色あざやかな木々の森の外れに虹色のどうくつがありました。その中で、光に包まれた一羽のカラスが産まれました。産まれたばかりのカラスは、ちょこちょこと歩きどうくつから外へ出て、胸を張り羽根を広げ飛び立ちました。カラスはぐんぐん高度を上げはるか上空から世界を見下ろしました。
真っ白い雲の上に虹色のどうくつ。虹色の森。肌色の宮殿の周りには七色の池。遠くの方にはオーロラ色の海も見えます。
「なんてきれいな所だろう」
色あざやかな世界にカラスは心おどらせました。子ども神と女の子にも、楽しいカラスの感情が流れてきます。女の子も初めて見た、色の着いたこの世界に心がうきうきして、なんてきれいな場所だろうと思いました。
カラスは気持ちよく風を切り上空をせんかいした後、もっと近くでこの世界を見ようと高度を下げ飛び回りました。
宮殿の周りにある池の上空を飛びました。青色池には、大きな青色のドジョウがいました。水色池には、大きな水色のカニがいました。紫色の池には大きな紫色のナマズが、オレンジ色の池には大きなオレンジ色の金魚が、緑色の池には大きな緑色のザリガニが、黄色池には大きな黄色のうなぎがいました。桃色池には大きなピンクの鯉が、その直ぐ側には大きな青緑色の陸ガメがいました。
池の周辺に咲く花たちも色とりどりで、本当にきれいでした。女の子もその景色を見て、あまりの美しさにため息を付いてながめていました。森の動物たちも、色とりどりでカラスは楽しくて仕方ありませんでした。
宮殿は三階建ての建物で、その上も何度も飛びましたが、突然なにかに衝突してしまいました。空には何も無いはずなのに見えないかべがありました。これは何だろうと不思議に思いましたが、もっと色んな場所を見たくてカラスは気を取り直し又飛び立ちました。
森の上空に飛んで来ました。赤紫、紫、青紫、青、青緑、緑、黄緑、黄、オレンジ、赤、ピンク。木々の色がグラデーションになっています。なんて美しいんだろう。そう思いながらカラスは何度も森の上空を旋回しました。
遠くにある海にも行ってみました。海はオーロラ色をしていて、塩の流れで色んな色に変わりました。海には大きなオレンジ色のクジラや、黄色いイルカ、水色の海ガメ、他にもたくさんの魚が、ゆうがにゆったりと泳いでいました。海藻もとてもカラフルな色をしていました。