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花たちの話

 ヤドカリが花の元に案内してくれると言うので、二人は桃色池の生き物たちに別れを告げて小さなヤドカリの後ろを着いて行く事にしました。


 まあるい池の周辺には葦などの背の高い草や、ミズタマソウやオオバコなどの背の低い草。それにアヤメやスイセンなどの花もたくさん咲いていました。長くて白い草の中を、真っ白い小さなヤドカリがちょこちょこと歩いて行きます。二人は見失わないように目をこらして地面を見ながら歩きました。


 ずいぶん時間はたったのに、振り向いて見るとさっき別れた魚たちがじっとこちらを見つめていました。このままじゃ日が暮れる。女の子はしびれを切らし、ヤドカリをヒョイと持ち上げて手の上に乗せてしまいました。


「おどろかせてごめんね。わたしが手の上に乗せて運ぶから、花の場所を教えてくれる?」


 ヤドカリは余りの高さに目を白黒させていましたが、頭を上下に振り「分かった。」と言いました。女の子はヤドカリの乗った右手をなるべく揺らさないように、ゆっくり歩きました。


「あっちだよ、もっと先。あの高い草が集まって生えている所の、向こう側」


 ヤドカリは、女の子の手の上で精一杯伸びをして、小さな声で教えてくれました。二人はその声に従い、長い丈の草をさけながら先に進みました。ようやく小さい花が密集する場所まで来ました。


 それは芝桜しばざくらのような花で、地面に密集して咲いています。色が付いていたならじゅうたんみたいで、きれいだろうなと女の子は思いました。花たちは女の子を見上げて、人間の子どもだわと小さな声でざわめきました。



「こんにちわ、聞きたい事があるんだけど」


 子ども神が声をかけました。女の子も初めましてとあいさつをしました。聞きたいことってなあに? と花たちが一斉に答えます。


「君たちは、カメじいさんから玉虫色の石の話を聞いた事があるかな?」


 子ども神の問いに花たちが一斉にざわめき出しました。


「玉虫色の石」

「聞いたわ」

「聞いたわ」


 小さな声がざわざわと、寄せては返す波のように聞こえました。


「その時、君たち以外に誰かいたかな?」


「誰?」

「誰?」

「誰?」

「誰?」


 ざわざわと小さな声が揺れます。


「う~ん。そうだね……鳥、とか」


「鳥?」

「鳥?」

「鳥?」

「鳥?」


 …………

 …………



「いたわ」

「いたわ」

「白い子」

「白い子」

「新しく来た子」

「そう。あの森の一番はしっこの枝に留まってた」

「そう、そう、留まってたわ」




 ここに新しく来た白い鳥。子ども神は考えてみましたが、最近来た白い鳥に、心当たりがありませんでした。あの羽根の持ち主は、初めから白い色をしていたのでしょうか。

 ここで考えていても仕方がないので、森の中で新しく来た白い鳥を探してみる事にしました。二人はヤドカリと花たちに別れを告げて、森の方へ向かいました。



 森の中の空気は、池の周辺よりもひんやりとして澄んでいるように感じました。二人は森に足を踏み入れました。ここに生える木の幹はとてつもなく太く、子ども三人が手をつないでも木の幹には手が廻らないほどの大きさの物ばかりです。一本一本がゆったりと生えているように見えました。


 木が密集していないので、奥の方まで見通せる明るさでしたが、地面も幹も真っ白で、手探りして進まなければぶつかってしまいそうでした。


 二人は誰かに話を聞きたくて森の生き物たちを探しましたが、枝の上にも草むらの中にも虫一匹さえも見つかりませんでした。


「おかしいな。いつもならそこらじゅうにいるはずなんだけとな」


 女の子も幹の後ろをのぞいたり見上げたりして探しました。そしてふと思いました。


「この大きな木は、お話ししないの?」


 女の子はそう聞いてみました。子ども神も大きな木を見上げました。


「この森の木はねとても大きいから、小さいぼくたちの声はとどかないんだよ。それに、眠っている時間が長くてあまり起きていないんだ」


 へえそうなんだ、木も眠るんだ。お家の近くの森の木も眠るのかなと女の子は思いました。


「おや? 子ども神様、丁度よい所におられた。今、呼びに行こうとしていたのです」


 突然、森の中からおごそかな声が響いてきました。どこから声がしたのかとキョロキョロしていると、太い幹の後ろから、これまた大きな立派な角を持ったトナカイが現れました。


「そこにいるのは人の子ですね。なぜこのような場所に居るのですか?」


 探るような目で見られ、女の子は居心地が悪く知らず知らず体が縮こまりました。


「あっ、あの……雨が降るから……神様を笑顔にしたくって、……それで、えっと……」


 今まで誰に会ってもハキハキとして明るかった女の子は、すっかりいしゅくしてしまった様です。


「ぼくの手伝いをしに来てくれたんだよ」


 子ども神は女の子を背にかばうように立って、トナカイにそう言いました。


「そうですか。良い人間なのですね」


 さっきとは違い、トナカイの声が少し優しくなった気がしました。


「それよりトナカイさん。ぼくに用事でもあったのですか?」


「あぁ、そうでした。大変なのです。私に着いて来て下さい」


 トナカイは、くわしい事は何も言わずに森のおくへとさっさと歩いて行ってしまいました。








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