真っ白な世界
女の子はゆっくりと目を開きました。そこは、真っ白なモコモコの雲の上でした。右を見ても左を見ても、お空も白い雲でおおわれていました。
辺りをキョロキョロと見回していると、遠くの方から人の泣き声が聞こえてきました。その声を頼りに歩いて行くと、自分と同い年くらいの男の子がしゃがみ込んで泣いていました。
その男の子の側に女の子も座り込み「どうしたの?」と声をかけてみました。男の子はゆっくりと顔を上げ
「大事な物を無くしたの」
と答えました。
髪も肌も透き通るほど真っ白で、きれいな顔立ちで、真っ白なゆったりとした服を着た男の子は、きっと人では無いのだろうと女の子は思いました。
「そっかぁ。大事な物を無くしちゃったのか。……だいじょうぶだよ」
と女の子はにっこり笑って、泣きじゃくるその人の頭をなでました。そしてギュウッと抱きしめました。
「わたしもいっしょに探してあげるから。だから泣かないで!」
抱きしめたままそう言いました。
その人は泣きぬれた顔を上げ女の子を見上げました。女の子はパジャマの袖口で優しく涙をぬぐって、ぬれた顔をきれいにしてあげました。
「本当に?」
その人の声はとても優しく、心地よく女の子の耳にとどきました。うんと力強くうなずく女の子の姿を見て、その人は泣くのをやめました。
「なにを無くしたの?」
「えっと……それが、分からないんだ」
その人ははずかしそうに答えました。
「でもね。それを無くして心に穴が空いたように、淋しくて悲しくて涙が止まらないんだよ」
ときれいな顔を曇らせました。
「そうなんだぁ」
う~んと女の子はうなりました。いっしょに探してあげると言ったけど、無くした物がなんなのか分からなければ探しようがありません。
「じゃあなにを無くしたのか、聞きに行こう!」
女の子はその人のやわらかい手をにぎり、歩き出しました。ふわふわした真っ白い雲の上を歩いていると、真っ白い一本の木が生えていました。その木の枝には真っ白い一羽のカラスが留まっていました。
「ねえねえ、カラスさん。この人が無くした物を知りませんか?」
女の子はカラスにたずねました。
「……知らないね。」
カラスはそっ気なくそう言って、白い羽根を広げて飛んで行きました。二人は又歩き出しました。しばらく歩くと、真っ白いタンポポが咲いていました。花びらもガクも茎も葉っぱも真っ白でした。
「ねえねえ、タンポポさん。この人が無くした物を知りませんか?」
女の子がそうたずねると
「いいえ、分からないわ」
と、花たちはささやき合いました。よく見るとそこはお花畑のようでした。ヒマワリのような花、スイートピーみたいな花、コスモスのような花、朝顔のような花。でもどの花も色がぬけてしまったように真っ白なのでした。二人はありがうと言って歩き出しました。歩く内にその人は又顔を曇らせました。
「大丈夫だよ。きっと見つかるよ」
女の子はにっこりとほほ笑みます。その笑顔にはげまされ歩く足に力が湧いてきます。
「お父さんとお母さんは知らないかな?」
女の子はとつ然ピタッと立ち止まり、となりを歩く人にたずねてみました。
「う~ん。どうかな……知ってるかな?」
その人は自信無さ気にそう言います。
「じゃあ、聞きに行こう?」
うんそうしよう。と二人は神様たちが住む宮殿に向かって歩き出しました。
宮殿に行く途中には、たくさんの木が生え、たくさんの動物たちも見られました。でもどうしてここに住む全てのモノは真っ白なんだろう。いつもこんな色の無い世界ですごしているのかな。こんな味気ない世界でたいくつでは無いのかな。そう思いながら手をつないで歩く人を見つめました。
そうこうする内に二人はやっと宮殿にたどり着きました。とてつもなく巨大なとびらがギギィィッと音を立てゆっくりと開いていきます。おひげをモジャモジャ生やした男の人と、スラリと背が高くて美しい女の人が、建物の中から出てきました。
「まぁ、子ども神。どこへ行っていたのですか? 心配していたのですよ」
女の人がそう言うと、子ども神と呼ばれた人はごめんなさいと謝りました。女の人はうなずき、女の子をみました。
「人の子よ。なぜこの地に来る事を望んだのですか?」
女の人は、涼やかな優しい声でそう聞いてきました。女の子はまっすぐにその女の人を見つめます。
「もう、ずうっと雨が降っているの。神様が笑ったらお天気になるんでしょ? だから神様が笑顔になるお手伝いをしたかったの」
女の子は大きな声でそう言いました。
「そうでしたか。子ども神がずっと泣いていたから雨が降り続いているのですね。神が住まうこの土地は彩り鮮やかな土地なのですが、この子が泣き出すのと同じに、空の石以外の全ての色が無くなってしまったのです」
女の人は柔らかな優しい表情で二人を見つめました。
「人の子よ。私たちに力を貸してくれませんか?この子ども神と共に原因を捜してくれませんか?」
女の子はそうお願いされてしまいました。