第14話
村に到着するとリーファと同じか少ししたかくらいの女の子がそっと駆け寄ってきた。
「おじいちゃんっ」
「リア、奴らはどうしておる?」
この人たちが声を潜めて喋っているのはその盗賊に聞かれないようにするためだろう。
村の真ん中を囲むようにして村人がその中心を見ていた。
「おらおら! さっさと金目の物持って来い! こいつがどうなってもいいのか?」
野太い声が聞こえ、その声の持ち主が盗賊なのだろう。と思いながら、これだけの人がいれば自分があの中にいても不審がられる事もないだろう、と思い人ごみを少し掻き分けこっそり隙間から覗いた。
頭にバンダナを巻き、ひげをはやし、いかにもな装いをした男がいた。 その周りに仲間と思しき男が2人。
リーダーと思われる奴の腕のにはまだ9~10歳くらいの女の子がいた。
頬にナイフをあてられ真っ青になり、今にも泣き出しそうで可愛そうなくらい震えていた。
「おねがいだ! その子を返してくれ! 食料は全て渡しただろう!?」
そう叫んだのは女の子の父親だろうか、女の子同様に真っ青な顔をしていた。
「まだまだ足りねえよ! もっと持ってきやがれ!」
「そんな! これ以上この村に食料も金もないんだ!」
「じゃあ諦めるんだな! それか新しい人質でも用意しな!」
この世界にも人質という言葉があるんだな、と思っていたらその男とバッチリ目があってしまった。
「そこのお前」
「ひっ」
情けない声を上げながら小さい声で「俺じゃない、俺じゃない」と心の中で祈ってみたがその希望も虚しく手下その1が俺の腕を掴みそこまでひこずって行く。
「い、いやだああああああ!」
抵抗をしてみるが普段ろくに運動をしてこなかった俺では何の意味もなかった。
腕をボスに掴まれそれと同時に女の子が離された。
「お父さあああん!」
女の子は先ほど叫んでいた人の元に駆け寄って行った。
「無事でよかった、本当によかった」
とその父親が言っているが、俺は全然良くねえええええっ!
「だ、誰か助けてええええっ!」
俺が叫ぶや否や村人が一斉に顔をバッと背ける。
なんて薄情な!
「な、ななな何で俺なんですか……!?」
俺の首に腕を周りて動けないようにしてナイフを俺に向けているボスに悲鳴混じりで聞いてみる。
「あぁ!? そんなのお前があの中で一番弱そうだったからに決まってんだろうがぁ!」
「ひぃ!」
叫ばれ、先ほどより近くなったナイフの距離に怯え短く悲鳴をあげる。
そして俺が捕まった理由。
「一番弱そうだったから」この言葉を聞いて俺は思った。
これからはちゃんと鍛えよう、と。
俺の叫び声が聞こえたからかフィーアが人混みの最前列まで出てくる。
「っ、フィーア!」
俺は、フィーアに助けを求める。
そこ! 格好悪いとか言うな!
「…………」
リーファはあからさまに「えー」という表情を浮かべる。
リーファの腕の中にいるラウラが苦笑いしているようにすら感じられる。
「お願いだから助けてください! このままじゃ俺の死亡フラグが!」
俺がそう叫びながらお願いすると渋々という感じで片腕を上げてぶつぶつと何かを呟く。
リーファの構えた手のひらには火の玉、いわゆるファイアーボールがどんどん大きくなっていく。
それが顔くらいの大きさになったころにリーファがこちらを見る。
「え? リーファ? リーファさん?」
背中を伝う冷や汗の量が半端じゃない。
「え、嘘でしょ。誰か嘘だと言ってぇぇぇ!」
そのファイアーボールは俺たちに向かって放たれた。
「うわああああっ」
その後盗賊はリーファに縛りあげられた。
盗賊たちはいわゆる刑務所的な所に入れられるらしい。
現在は村人総出で宴が行われている。
俺は宴には参加せず少し離れたところから静観していた。
「けっ」
俺はというとあの盗賊もろともファイアーボールの餌食となり焼け焦げた。
これで死なないのが不思議で仕方ないがまあ、ザ・異世界クリオティとでも思っていよう。
足元でラウラが「キュー、キュー」と可愛らしい鳴き声を上げているがここはあえてスルー。
「ユーキ」
頭を上げるとそこにはやはりリーファがいた。
「何だよ」
いつもより少し声を低くした俺にリーファは肩をふるわせて笑いをこらえていた。
「あーもう! 何なんだよ! みんなして俺をバカにして!」
「みんな」というのは、俺の近くを通る村人が必ず苦笑いをしてこちらを見てくるのだ。
「ぶ、無事でよかった」
相変わらず肩をふるわせているリーファが俺を見て言う。
「リーファ、一般ではこれを無事とは言わない」
盗賊たちと一緒にファイアーボールを直でうけた俺は髪はちりちりになり、服は所々焦げていた。
自分が死んでいないのが不思議で不思議でしかたがない。
俺がいままで少しでも運動をしておけばと後悔し、これからはちゃんと運動をしよう。と深く決意した。