第10話
俺たちはお昼ご飯を食べる為の休憩を終え、再び出発した。
まだほとんど歩いてないが俺の体力はだいぶんついたと思う。 少なからず1時間歩いても息切れしない程度には!
え? しょぼいだって? 俺には大きな進歩なんだよ!
「ユーキ」
「なんだ?」
リーファが突然話かけてくる。
「太陽が、沈みかけるくらいには、町につける」
(太陽が沈みかけるくらいってことは夕暮れのことか)
「わかった。リーファ、太陽が沈みかけるくらいっていうのは夕暮れって言うんだぞ」
(こっちでその言い方が正しいのかは別として)
「夕暮れ…。わかった」
リーファは歩きながら「夕暮れ、夕暮れ」と何度も呟いていた。
心なしか嬉しそうだ。
そう言えばくまはどうしたのかって?
くまは相変わらずリーファの頭の上にいる。
そこが定位置らしい。
俺たちはそれ以上の会話を交わすことなく歩いた。
リーファは歩いている間ずっと「夕暮れ、夕暮れ」と呟いていた。
飽きないのだろうか…。
そうして、歩くこと数時間。もちろんちょくちょく休憩もはさみました。
そうしないと俺死んじゃうからね。
「ユーキ、ついたよ」
「町についた!」
(早くベッドで寝たい! 風呂にも入りたい!)
俺は嬉々としてその町の小さい門をくぐった。
「えーっ!? 部屋が1つも空いてない!?」
「はい。申し訳ございません。」
この町の少し先にある橋が今壊れていて渡れないらしい。
それで他の旅人たちが今日中に直らないだろう。と考えたらしく、宿はすぐに埋まったらしい。
周りには少人数だが俺と同じように宿に泊まれなかった奴等が野宿の準備をしていた。
「ユーキ、準備、しよ」
「……うん」
旅1日目にしてまさかの野宿……。
ついてないなー
てか俺、野宿なんてしたことないからできないよ?
「リーファ」
「なに?」
「俺、野宿できないよ?」
「うん」
「リーファ、できるか!?」
期待の眼差しをリーファに向ける。
「できない、でも、大丈夫」
リーファは首を左右に小さく振りながら答える。
俺の期待はあっけなく散った。
「って、何が大丈夫なんだよ?」
リーファは「できない、でも、『大丈夫』」って言った。
『大丈夫』って言った!
「大丈夫」
リーファはもう一度そう言うとルーベルトさんに持たされたかばんをごそごそとあさりだした。
「これがある」
リーファがかばんから取り出したのは「かんたん! 野宿の仕方!」と表紙に書いてある一冊の本だった。
「俺が覗いたときこんな本なかったぞ!?」
「ここに入ってた」
リーファが指さしたのはかばんの前にある小さなポケットだった。
「ああ、俺そこ見てないや」
小さいから特に何も入ってないだろ。
とか思って見逃してたー!
どうせ絆創膏とかだろうって思ってました。
てか、よく入ったな!
「ま、まあ、この本があれば何とかなるだろ!」
「えーっと……」
本をとりあえず1ページめくってみた。
まず第一に、寝床を確保しましょう。
寝袋などを持っていなければ知りません。
旅に出るのに寝袋の1つももって来ていないあなたが悪いです。
諦めましょう。
……なんだよこの本!
いや、寝袋入ってるけども!
これは酷いだろ!
よくこんなの発売したな!
「ユーキ、続き」
俺が一向にページをめくらないのを耐えかねたリーファがページをめくるようただしてくる。
俺はページをめくった。
第二に、食料の確保です。
あなたがいる場所が森の付近なのであれば、森にいる動物を捕まえてもいいでしょう。
オオカミやクマなどに遭遇した場合は全力で逃げましょう。 もし捕まってしまった場合、撃退するかもしくは諦めて動物たちの餌になりましょう。
餌、餌って……!
死んじゃったよね!?
これ確実に死ぬルートだよね!?
本っ当ダメだろこの本!
「ユーキ、次っ」
リーファが苛立ったように言ってくる。
「ああ、ごめんごめん」
またページをめくる。
今度は火の付け方だった。
野宿をするなかで火はとても大切です。
火がなければ肉を焼くことができません。
それでは、火の付け方です。
……あれ、どうやってつけるんだろ?
えーっと、石を打ち付けてたらいずれつくんじゃない……かな?
だよね?
いやいやいやいや、読者に聞いちゃダメだろ!
しかも火の付け方わかってないし!
読んでる分にはおもしろいけどさ!
正直今必要ねぇ!!
「リーファ、これ捨てよう」
「うん、それが、いい」
とりあえずその本はいったん村に戻り、村のごみ捨て場に捨てました。
ついでに宿屋のおじさんのところに火の付け方を教えて貰いに行った。
ちなみに、リーファは「見張り番……」と言ってかばんを見張っている。
宿屋のおじさんに簡単な火の付け方を聞くと、俺に手のひらより少し大きいサイズの中が真っ赤な卵型の上にわっかのついたガラスを手渡してきた。
使い方がわからないから聞くと、そんなことも知らないのか。と言われてしまった。
「これは、上にあるわっかを引っ張ると火がつくんだよ」
俺が試しにそのわっかを引っ張ると周りのガラスがパカッと4つに割れ、コンロのような形になった。 その中央では炎が燃えている。
「おお……!」
「そこの、下のボタンを押すと元に戻るよ」
宿屋のおじさんが言う通りボタンをおすと元の形に戻った。
「おお! すげぇ!」
「それを君にあげるよ」
「本当か!? ありがとう、おじさん!」
「いやいや、いいんだよ。泊めてあげられなかったからね」
「じゃあ、遠慮なくいただきます! おじさんありがとう! それじゃあ!」
「じゃあね」
おじさんはそう言って小さく手を振ってくれた。
おじさんが言ってたんだけど、これは普通に道具屋に売っているらしい。
ルーベルトさんもなんであんな役立たずな本をいれてこれを入れないのかな…
など考えながら俺はリーファのいる場所へと帰った。