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一番星  作者:
2/10

おぼえてる?



「この土地の人たちって、無関心ってわけじゃないんだけどこっちを尊重してくれてさ。変に騒がないし協力的だし。かといって無視するわけじゃなくて休憩時間とかに本当に普通に話しかけてくれたりしてさ。居心地いいんだよ」


 撮影は明日から、と、一通りの話が終わったところで荷ほどきをしてから食事となり、何度かここに撮影できているらしいスタッフが匠に言う。


 へぇ、と応じながら匠は先ほどまでいた少女、真緒を思い出していた。

 この辺りに住んでいた頃、いつも一緒に遊んだ年の離れた少女。慕ってついてくるのがうれしかった。日が暮れるまで遊び回った。

「さっき、この家の説明をしてくれた子は?」

「ああ、真緒ちゃん?」

 当たり前のように名前が出てくる。

 スタッフの顔はおかしそうに笑っていた。

「珍しいんでしょう、あの年頃の子が時永君を見て見事な無表情無感動」

「いや、そういうわけじゃ」

「あの子ね、疎いね。こういうギョーカイ。なんか見たことあるけど誰だっけ?くらいの感覚。だからやりやすいのもあるんだけど。頼むとけっこういろんな事手伝ってくれるよ」

「便利に使ってるって事ですか?」

 なんだかむっとしたような匠の言い方に怪訝な顔をしながら、違う違う、と他の方から否定の声が返ってきた。

「オレたちだけじゃできないことも多いから、土地の人たちに手を借りることも多いんだよ。今日のこの後の飯だって、真緒ちゃんが作ってくれたんだ。この家の管理頼まれてるらしくて、時々顔出してくれるよ」

「住んでるんじゃないんだ?」

 他の役者が言うと、それまで黙って聞いていた監督が口を開いた。

「誰も住まない家はいたむからって時々住んでるみたいだけどな。オレたちが撮影をしている間は来ないらしい。いてくれていいって言ったら、こき使われるからイヤだってあっさり断られたよ」

「うわ~淡泊」

 吹き出しながら、さばさばとした人柄で人気の女優が笑った。

「あのくらいの子だと無理を押してでも関わりそうなのにね。確かにやりやすいわ、そういう子」

 勝手なこっちの都合だけど、というのはきちんと付け足す。

 こういう仕事を選んだ以上、仕方のないことだと割り切っている。





 食事を終えた後、匠は撮影場所兼宿舎の日本家屋から外に出て、裏に回った。

 見事な農村風景。

 流れる小川の音が夜の静けさで怖いくらいに響く。

 夜になっても喧噪のやまない都会になれると、夜がこれほど静かなものなのだということを忘れていたことに気づかされる。

 虫の声が頭の中で響く。

 空を見上げれば星。

 普段、都会の高層ビルから見下ろす街の明かりのように、空に星がある。

 ふと、小川を挟んで少し離れたところにほっそりした人影を見つけた。

 普段なら、こんなに無防備に歩き回らない。

 懐かしい土地だからなのか、それともさっき聞いたような土地柄だからなのか。なんの気構えもなく思うままに歩き回れる。それを咎める者もいない。


 歩み寄る足音に振り返った顔に、やっぱりと思う。

 ただ、向こうは怪訝そうな顔。

 きっと分かっていない。そう思いながら匠は笑みを浮かべた。それが真緒には有名人(らしい人)の自信にあふれた笑顔に見えて眉をひそめる。

「やっぱり分からない?」

 匠の言葉に、少しだけ真緒の表情が変わった。

「今日は一番星、見つけられた?」

 その言葉に驚いたように表情が変わった。よそよそしい他人行儀な顔に探るような表情が浮かぶ。

「真緒?」

「……たくちゃん?」

 その呼び方に思わず力が抜けた。ただ、別れた頃そう呼んでいたのだから、真緒にしてみたら他の呼び方なんて思い浮かばないんだろう。




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