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0from1  作者: ペルソナ
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2.つづきから来た少女

 それから僕と藤原は古典のテスト勉強に勤しんだ。もともと藤原のノート目当てで来た僕だったが、藤原と一緒に勉強するということになったのでノートは僕と藤原の真ん中に置くという形がとられた。そういうわけで二人の体も自然と近づくことになったわけだが、藤原の密着度具合は不自然なほどに超近距離だった。

 白のキャミソール、ショートパンツ、女子高生。この組み合わせを健全な男子高校生の目の前に提示すれば、どんな煩悩意欲が沸くかは男子諸君なら容易に想像できよう。僕は女子ではないのでこういうシチュエーションで女子がどんな反応を示すのが一般的なのかは残念ながらわからない。というかそれはただの女子と女子との単なる友達同士、ということになるのか?

 

 時刻はただいま午後七時二十七分。十分に夜と言える時間帯になってしまった。

 僕はアパートに一人暮らしなので帰りが遅いと心配されることはないのだが、まだ高校生の身としては不用意に夜遅く出歩くのは避けたい感じだ。

「さてと、そろそろ帰るかな。ありがとう藤原。これで明日のテストはなんとかなりそうだ」

「そう。それはどういたしまして。ところでお腹空いてない?」

「まあ空いてるけど」

 頭脳労働もしたしなかなかの空腹具合ではある。

「じゃあ、夕食を食べていかない?」

「いやいやいや、今度こそさすがに遠慮させてもらうよ」

 彼女でも幼馴染でもないのにその両親と夕食を共にするというほどの勇気はない。それは向こうにしたって同じことだろう。

「大丈夫。お父さんもお母さんも今日は帰ってこないから」

「……………………え」

 なんか聞いた話と違うんだが。帰ってくるのが遅いのではなく、帰ってこないのか。

「どうせ帰ったところで一人でしょう。ならここは一人もの同士仲良くしましょうよ」

「いや、でもなぁ……」

 僕が言いよどんでいると藤原がすっくと立ち上がってキッチンへと歩いていってしまった。

「カレーとシチューどっちがいい?」

「あ、じゃあカレーで」

「そう。じゃあ少し待っていて」

 結局ご馳走になることになってしまった。

 藤原がどのような意図で僕を夕食に招待したのかは定かではないが、まあ女子の手料理をいただけるという機会をみすみす棒に振るというのは神様にも藤原にも悪い気がするのでよしとしよう。

「なんか手伝おうか」

「いえ大丈夫。温め直すだけだから」

「なんだ、もう作ってあったのか」

「ええ、実は作りすぎてしまっていてね。それはもう三日間は三食カレーというくらいの量を。和乃君が来てくれて助かったわ」

「なら、なぜカレーかシチューか訊いたんだ」

「いえ一応マナーというかなんというか。『ご飯にする? お風呂にする? それともあ・た・し?』みたいな」

 やたら可愛らしく台詞をいう藤原であった。

「だったら第三の選択肢までつくってくれよ」

「そんなの嫌よ。それとも和乃君は私という存在をカレーやシチューと同レベルの存在だと思ってるの? ちょっと食べてやろうか的な感覚で私を見ているのかしら」

「そんなことはないけど」

 なぜそんなにも挑発的な態度をとるんだ。

「おっと、雑談してる間にカレーがあったまったわ。さすが最新式のIHだわ」

 通販みたいだ。

「へー、そんな便利なものまであるんだな。それ桐ヶ峰製か?」

「ええ。うちのデジタル製品も概ね桐ヶ峰製になってきたところよ」

 ちなみに僕はまだガスコンロを使っている。メーカーも桐ヶ峰ではない。

 藤原は二人分のカレーをリビングまで持ってきた。今度は隣に座ることなく僕の向かいに座った。

「いただきます」

「どうぞ」

 スプーンですくって一口。

 …………。

「どう?」

「うん、うまい」

「そう。なら今度はこっちを食べてみて」

 藤原は自分の分のカレーを自分のスプーンですくって差し出してきた。

「あーん」

 これは喜ぶべき状況……なのか。拒否するのもなんだか怖いので素直にあーんをされる僕。

 あれ? なんだか味が違うような。

「どう?」

「うん、普通にうまいかな」

「さっきのとどっちがおいしい?」

「え? 同じじゃないのかよ」

「実は片方がレトルトで、もう片方が私の手作りなの」

 なぜそんな試すような真似を――というかこれはまずいぞ。レトルトのほうをおいしいなんて言ってしまったら藤原は怒るに違いない。

「で、どうなのかしら」

 自分の味覚を信じろ僕! ああ、なんか汗かいてきた。この汗はカレーの熱さと辛さのせいではないのは言うまでもない。

 こちらをじっと見つめてくる藤原。

 心臓の鼓動とそれに伴う血流が体全体が知覚している。

 はやく決めなくては。こういうのは時間が経つのが一番まずい気がする。

「……こっち、かな」

 僕は意を決して自分側の皿を指差した。

「あら、そう」

 にっこりと微笑む藤原。どうやらあたりを選んだらしい。よくやった僕の味覚!

「どういう風においしかった?」

「え、そうだな。僕が今まで食べてきたカレーの中で一番おいしい。いやホント。やっぱり人に作ってもらったものには愛情が入ってる分さらにおいしさが増すな」

「そう」

「ああ」

 自分の側にある皿をもう一口食べようと手を伸ばしたところで藤原が溜め息をついた。

「私もレトルトに負けるようではまだまだみたいね」

 スプーンを取り落とす僕。甲高い音が静寂に包まれるリビングに響き渡った。

「それにしても和乃君は機械が作ったものに愛情を見出す特殊な性癖の持ち主だったのね。衝撃的な事実だわ」

「えーと、藤原……?」

「あ、そうそう参考までに聞かせてほしいのだけれど和乃君のお母さんが作ったカレーとどっちがおいしい? あっとゴメンナサイ。あなたはそんなもの食べたことないのだったわね」

 タブーにあっさり触れてくるあたり相当怒っているようだ。

「ちなみにそのレトルトはお父さんが自分用にと買ってきた少しお高いものなの。お父さんそれを食べるの楽しみにしていたわ」

 それは僕のせいじゃない。

「なんていうか、うん、僅差だったよ。藤原が作ってくれたのもほんとにおいしかった」

「私のカレーはレトルトと僅差で負けるような味だったと」

 墓穴を掘ってしまった。しかもこれは地球の裏側まで到達する深さだ。

 光彩を欠いた藤原の眼から発せられる視線が僕を突き刺してくる。

 これは……辛口な言葉よりこたえる!






 辺りはすっかり暗くなっており申し訳程度に設置してある街灯が夜道を照らしている。

 あの後、僕は藤原に追い出されるように家を出てきた。


「ああ。無理して食べなくてもいいのよ。所詮レトルトとそれ以下のカレーなんだから」


 何もあそこまで怒らなくてもいいだろうに。

「あー腹減ったな」

 早く帰って何か作って食べようと帰路を急いでいると、いつも学校への道中に通過する神社の前に出た。いつもは素通りする場所だが思わず僕はそこに立ち尽くしてしまった。

 石段の向こう側は放置された挙句大いに生い茂った木々によって見通しがよくないので本殿は見えないのだが、今注目すべきはそこではない。

 目を見張る僕の前では生い茂る木々の高さを悠々と超え、空にも届くようなくらいの稲妻のような光が立ち昇っていた。大気が揺らされているような空気の変動と機械がショートしたようなバチバチという音が小さいながらも聞こえてくる。

 呆気にとられてその様子を見ていたが、そのうち謎の現象は終息していった。周囲にまた暗闇と静寂が戻ってくる。

 ごくり、と生唾を飲み込む。

 何かの実験――なわけない。街中、しかも神社でこんな物騒な実験をするわけがない。そういった常識的な考えが働いたのはもちろんだが、それ以上にこの場合「神社」という場所こそがこれは異常事態だということを僕の脳が喚起していた。今は二〇一五年。今や世界は0と1、マイクロチップ、AI……etcで出来ている。


 神様などという非科学的な存在を祀る場所で起こったこの現象は単なる科学的事象ではないはずだ。


 どうする、行くか?

 結局、迷ったのは一瞬だった。好奇心に身を任せ石段を駆けのぼる。

 木々の影で歩道よりさらに暗い階段を転びそうになりながらのぼり終えると、そこには閑散とした光景が広がっていた。足元を見る限り長年の間つもりに積もったのであろう枯葉が敷き詰められていて、暗くてよく見えないが参道の少し奥には本殿らしき建物の輪郭が見える。

 右に左に視線を走らせるが神社は静まり返っているだけで、特に変わったところは見受けられない。さきほどの稲妻で火災が起きているかとも思ったのだがそんなこともなかった。

 僕の息遣いだけが聞こえる中で不意に風が吹いた。

 空にかかっていた雲がゆっくりと流れていく。そうして今まで姿を隠されていた月が徐々に現われてきた。明かりが何もなかった神社に淡い月の光が降り注ぐ。

 参道の真ん中あたり、月光に照らされ一人の少女が倒れているのを僕は見つけた。


物語が何も始まってない!


読んで下さった方ありがとうございます。

これからに期待してくだされば幸いです。頑張ります。

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