1章-05
Side楓
学校が終わったあと、帰宅してすぐに白と紅の巫女装束に着換えて神社の境内へと向かった。
毎年秋の大祭に境内にある舞殿で神楽舞を奉納するのが決まりになっていて、ここ数年は光栄にも私が舞を納めている。
鈴の付いたブレスレッドとアンクレットをはめて、黒曜石で出来た扇を手に横笛と鼓の音に合わせて静かに時には激しく、ゆるゆると舞進む。
時津神社に古くから伝わる『戦鼓舞』という舞。
この舞を舞っている時、私は無心になり不思議な一体感を覚える。
トンっと一跳ねしてくるりと回り神殿に向き直ると
“シャン”
という鈴の音が響く。
時を同じくして笛の音が一際高く伸びやかに響き、鼓の音と共に舞終わる。
目を瞑り、軽く息を吸ってゆっくりと吐く。
舞終わると何かから自分が切り離されてしまったような、そんな孤独感に包まれてしまった。
傍で横笛を吹いていたお父様からいくつか呼吸や間の取りかたの注意を受けてその所作を反復してみる。納得のいくまで繰り返してみて、もう一度通して舞を舞う。
“シャン シャン”
鈴の音が響き渡り、ゆるりゆるりと場の空気を染めてゆく。
“シャン シャン シャン”
鈴の音と共に嫋やかに、時に激しく、時間と空間を自分の存在で侵食する。
扇の動きで風を、波を、飛沫を、舞うことで森羅万象をあらわし、全てを一点へと帰結して行き、その【場】との一体感を感じて、舞終わる。
空気が【凜】として身体を纏う。
あぁ、今度こそ舞終えられた・・・。
「ほぅ」っと息をついた時だった。
“ドクン!”
という音では無い衝撃が空間を振動させ、楓の足元から光の柱が立ち上る。
そしてそのまま光の中へと自分が沈み始め・・・
“ドクン!”
ともう一度衝撃が加わった時、
まるで身体がゼリーに包まれたように感じたと思った瞬間
“トポン”
という音と共に【楓】の背中から【楓】が抜け落ちてしまった。
必死に抜け出てしまった身体を掴もうとしたが、そのまま光の中へと落ちてしまった。
その刹那、私は思わず彼に助けを求めて喚んでしまったの
『助けて・・・・助けて!マー君!!』
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